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美容皮膚科は「何でも治せる医療」ではない 広がる美容医療と皮膚科医に求められる専門性 第44回日本美容皮膚科学会総会・学術大会会頭、仙台たいはく皮膚科クリニック院長・菊地克子氏に聞く Vol.1

カレンダー2026.7.27 フォルダーインタビュー
菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)

菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)

菊地克子(きくち・かつこ)氏
仙台たいはく皮膚科クリニック院長

  • 美容皮膚科には診断力が必要→ 施術の技術だけでなく、皮膚の状態を見極め、治療の適応や限界を判断する力が求められる。
  • 合併症への対応も重要→ 施術後に問題が起きた場合、皮膚に何が起きているのかを診断し、適切に対応する必要がある。
  • 過度な期待を調整→ 改善できる範囲と難しい範囲を説明し、治療を行わない判断も含めて本人の選択を支える。

──日本美容皮膚科学会では、会員の構成にも変化がある。

菊地氏: 会員数は増えており、皮膚科医や形成外科医だけでなく、産婦人科、内科、麻酔科など、さまざまな診療科の医師が参加するようになっています。

 もともとの専門分野に美容医療を加えたいと考える医師もいます。美容医療を学びたい人に対して、学会の門戸は開かれており、皮膚科医だけに限定された学会ではありません。

 また、すべての皮膚科医が美容皮膚科を得意分野にしなければならないとも考えていません。美容皮膚科とどのような距離で関わるのかは、それぞれの医師の考え方でよいと思います。

 学会には、さまざまな立場の医師に対して、正しい知識や新しい知見を提供し続ける役割があります。

──美容医療に携わる医師には、どのような知識や経験が必要?

菊地氏: 美容医療では、施術の方法を覚えるだけでは十分ではありません。受診した人の皮膚を診察し、治療を行ってよい状態なのかを判断する必要があります。

 美容医療の施術は皮膚に対して行われるため、皮膚トラブルや合併症が起きる可能性があります。施術後に問題が起きた時には、皮膚に何が起きているのかを診断し、適切に対応しなければなりません。

 そのため、美容医療を行うのであれば、皮膚科や形成外科をはじめとする基本的な知識や臨床経験を身につけた上で取り組むことが望ましいと思います。

 学会への参加が、必要な知識を学び、診療の安全性を高める機会になることが大切です。

──美容皮膚科の診療では、皮膚科の知識が生きる。

菊地氏: 皮膚科の知識があるからこそ、「この治療は行える」「ここまでは改善できる」「これは難しい」と判断できます。

 美容皮膚科という看板を見ると、受診する人は、何でも治せる、何でも元に戻せると思ってしまうことがあります。しかし、老化した皮膚を若い頃の皮膚に完全に戻すことはできません。

 傷痕やニキビ痕についても、さまざまな機器が登場し、以前より目立ちにくくできるようになりました。ただ、すべてを正常な皮膚に戻せるわけではありません。

 皮膚科と美容皮膚科の両方の知識があれば、治療できる範囲と難しい範囲を判断できます。「これは難しいです」「改善できるのはここまでです」と説明することもできます。

──治療を行わないという判断も必要になる。

菊地氏: ええ。美容医療では、「この悩みにはこの施術」という形で、すぐに治療へ進んでしまうことがあります。何でもできる、何でも治るという説明になれば、受診する人も美容皮膚科に過度な期待を持ってしまいます。

 しかし、皮膚の状態や症状の原因は人によって異なります。施術を行えば、必ず希望通りの結果になるわけではありません。

 治療によって期待できる変化と、その限界を説明し、本人の期待と現実の間を調整することも医師の役割です。

  • 美容の悩みは幅広い世代に→ シミやイボ、ほくろなどは、若い女性だけでなく男性や高齢者からも相談が寄せられる。
  • 保険と自費を適切に説明→ 症状や治療方法によって保険診療と自費診療を分け、本人の希望に合わせて選択肢を示す。
  • 施術後のケアまでが治療→ レーザー治療などでは、紫外線対策や日焼け止めの使用を続けることが仕上がりに影響する。

──一般皮膚科を受診する人にも、美容上の悩みがある?

菊地氏: 当院は保険診療が約9割で、自費診療は約1割です。地域の一般皮膚科なので、圧倒的に保険診療で受診する人が多くなります。

 ただ、保険診療で通院している人にも、美容上の悩みはあります。多いのは、平らな老人性のシミ、加齢に伴って盛り上がってくるイボ、ほくろなどです。

 美容の悩みというと若い女性を想像しやすいかもしれませんが、男性や高齢の人から相談されることもあります。年齢を重ねた男性から、「このシミはどうにかならないか」「このイボを取れないか」と聞かれることもあります。

──保険診療と自費診療をどのように分ける?

菊地氏: まず、保険診療で対応できるものなのか、自費診療になるのかを説明します。その上で、本人の希望に合わせて治療を考えます。

 例えば、大きく盛り上がった老人性のイボは、液体窒素で凍らせて治療でき、保険診療になることがあります。一方、小さなイボを炭酸ガスレーザーで取る治療や、平らなシミにQスイッチレーザーを使用する治療は自費診療です。美白作用のあるクリームなどを使い、時間をかけて薄くしていく方法もあります。

 保険診療なら治療を受けたいという人もいますし、自費でも金額によっては受けたいという人もいます。シミに対するレーザー治療は一般に知られるようになり、自費でも希望する人が増えています。

 ただ、レーザーを照射して終わりではありません。施術後の手入れに加え、紫外線を避け、日焼け止めを使うなどのケアが必要です。きれいになるまでに数カ月かかることもあります。

 特に男性の場合、日焼け止めを塗る習慣がなく、治療後のケアを続けてもらうのが難しいことがあります。日焼け止めを使わなければ、治療後の仕上がりにも影響します。施術と併せて、その後のケアまで理解してもらわなければいけません。

──たるみ治療や注入治療の相談もありますか。

菊地氏: シミやイボ、ほくろの相談は、一般皮膚科でも比較的多くあります。一方、ボツリヌス製剤のような注入治療、たるみ治療まで希望する人は、当院では限られています。

 需要が少ない治療のために機器を導入し、診療体制を整えるのは簡単ではありません。すべての美容施術を当院で行うのではなく、必要に応じて市街地の美容医療機関を案内しています。

 自分たちが安全に提供できる治療の範囲を見極め、対応が難しいものは適切な医療機関につなぐことも重要です。

──大学で行ってきた皮膚の研究は、現在の診療にも生かされる。

菊地氏: 例えば、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の人を診る時、見た目や触った感覚から、皮膚の乾燥状態やバリア機能がどの程度低下しているのかをある程度イメージできます。

 大学では、皮膚の水分量やバリア機能などを実際に測定していました。見た目の状態と測定値を結びつけてきた経験があるため、診察する時にも「このくらい乾燥している」「バリア機能がこの程度低下していそうだ」と考えられます。

 数値を毎回測らなくても、見て、触れて、皮膚の状態を推測できるようになります。そうした経験は、一般皮膚科だけでなく、美容皮膚科の診療にも生かされています。

──毛穴や皮脂を気にする若い人も増えている。

菊地氏: 毛穴や皮脂が多いことを気にして受診する若い人もいます。ただ、鼻や額はもともと皮脂腺が多い場所です。鼻の頭や額の中央が油っぽくなるのは、ある程度は生理的なことです。

 もちろん、人によって皮脂の量には違いがあります。ただ、皮膚の正常な特徴まで、すべて治療すべき異常と考える必要はありません。

 本人が非常に気にしている場合には、治療を勧めるだけでなく、「人の皮膚は本来こういう状態になるものです」と説明することもあります。

 美容皮膚科では、気になる部分をすべて治療するのではなく、その状態が病的なものなのか、生理的な範囲なのかを見分ける必要があります。そこにも皮膚科の専門性が関係していると思います。(続く)

プロフィール

菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)

菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)

菊地克子(きくち・かつこ)氏
仙台たいはく皮膚科クリニック院長。医学博士、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、美容皮膚科・レーザー指導専門医。1989年に東北大学医学部を卒業。同年、東北大学病院で研修を開始し、山形市立病院済生館、東北大学病院、石巻赤十字病院などで皮膚科診療に従事。1994年から米国に留学。帰国後は東北大学病院助手を経て、2004年に同病院講師に就任した。大学では、皮膚の角層機能やバリア機能を中心に研究。2019年から仙台たいはく皮膚科クリニック院長を務め、一般皮膚科を中心に美容皮膚科診療にも携わる。日本美容皮膚科学会理事、第44回日本美容皮膚科学会総会・学術大会会頭。日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会、日本香粧品学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本がんサポーティブケア学会などに所属。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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