ポイント
- シンガポールのエクソソーム第一人者が日本再生医療学会で講演した
- エクソソームの医療への展開が進んでおり、その品質管理が注目されていると解説
- 美容医療への前途についての問いにも答えた。安全に使えることが大前提か
日本国内の美容医療で一般的に「エクソソーム」と呼ばれて使われているものは、脂肪吸引された脂肪から採取された間葉系幹細胞(MSC)の分泌するエクソソームが多い。このタイプ(間葉系幹細胞由来)のエクソソームを世界で初めて発見したサイキアム・リム氏(Sai-Kiang Lim氏)が第23回日本再生医療学会総会で講演した。
このところエクソソームについては注意を促すニュースが国内では目立つが、彼女は、美容医療を含め、エクソソームの品質を保つ仕組み作りに注目することが重要ととらえているようだ。
世界のエクソソーム第一人者
サイキアム・リム氏は次のような人物。冒頭の通り、エクソソームの発見に関わっており、日本国内の美容医療でエクソソームが利用できているのはリム氏のおかげといっても大袈裟ではないのかもしれない。
- MSC(間葉系幹細胞)→受精卵に存在するES細胞(胚性幹細胞)からMSC(間葉系幹細胞)を分化させることを2007年に世界で初めて発見。
- 間葉系幹細胞からのエクソソーム→2010年に世界で初めて間葉系幹細胞からのエクソソームを発見。第一人者に。
- 細胞外小胞(EVs)→エクソソームは細胞外小胞の一種。22年、世界で最も研究報告が多いのはシンガポール、中心人物はリム氏。
- 国際細胞外小胞学会(ISEV)→リム氏は取締役会の特別会員を務める。
リム氏が注目しているのは、品質の保たれた、安全で有効なエクソソームをどう作るかとなる。エクソソームから放出される有効成分について「薬剤」と表現していたが、これはリム氏は医薬品としてのエクソソームの活用を重要視しているためだ。
- 細胞源に関する課題→個々の細胞は異なる特性と寿命を持ち、不均一性が高い。どの細胞を使用するか、および細胞を安全に利用可能な状態で維持する方法を作り出す必要がある。
- エクソソームからの薬剤放出→薬剤を一貫して同じ条件で放出させること。これには、薬剤放出のメカニズムを確認し、一貫性のある放出を保証する試験が必要。
- 品質基準(Critical Quality Attributes、CQA)→エクソソーム表面の特徴、粒子数などが目安になるというが、CQAが一致していても、研究室によってプロセスが違うためできるエクソソームは異なる可能性がある。
- 「同一性」をいかに揃えるか→同じCQAを持つ製品でも、プロセスによって質が異なるため、プロセスの標準化が極めて重要になる。
- 「力価」をいかに揃えるか→製品の期待される効果を確実に発揮させるにはメカニズムの明確な理解が必要で、これは新たな治療法開発の鍵。
リム氏は、皮膚の病気である乾癬を治療するために既にエクソソームを使った試験を開始。実用化への道を本格的に歩み始めている。リム氏がエクソソームにつながる研究に取り組み始めたのは07年のことで、17年の歳月を経て治療法への応用にこぎ着けた。日本国内ではエクソソームが主に美容医療の分野で注目されているが、国際的には薬としての認識があり、日本国内でも「エクソソーム=薬」として理解される流れが強まる可能性がある。
「治療する側と治療を受ける側が望めば良い面もある」
美容医療でのエクソソームの扱いについてリム氏に問うと、必ずしも否定的な見方を示さなかった。
エクソソームに対する日本の対応は、現在、規制の対象外という点に特徴づけられ、これが一定の課題を生んでいる。
リム氏は、ルールという点について、「国際的に見れば、エクソソーム利用に関するルールは存在している。米国、韓国、日本では承認されていなくてもエクソソームが利用可能な状態だが、他国では禁止されている。この状況から、一定の規則性は確立されている」と見る。もっとも、そもそも薬と見なされていないため、国の関与の難しさはあるという。日本の実態については、「日本はリベラルな考え方を持つ」との見解を示す。
もっとも、美容医療で使われていることは、理解もできるという立場だ。「私のやっている乾癬のように、病気治療にエクソソームを使う場合は有効性の証明は必ず必要になるが、美容目的ではそうともいえない。治療を提供する医師と治療を受ける側がそれを望めば良いという見方はできる」(リム氏)。
リム氏の講演も踏まえると、大前提として「エクソソームが安全であるか」が最低限求められるのだろう。日本再生医療学会は、エクソソームの臨床応用に関するガイドラインの公表が4月に公表する予定であると明かしている。製造のプロセスやメカニズムの解明も含めた「品質基準」をはっきりと示し、それに基づいて作られたエクソソームが利用される環境がこれから求められることになりそうだ。