美容医療のトラブルが問題視される中、専門的な知識と技術を持つ医師を育成する方法が課題とされている。
第67回日本形成外科学会総会・学術集会では、「美容医療に関する委員会企画シンポジウム 待ったなしの日本の美容外科教育を考える」というタイトルで日本と韓国の医師が意見を交わした。
形成外科医の活躍が美容医療の分野で求められている背景について、ヒフコNEWSで既に伝えている。これは医療関係者の問題ではあるものの、美容医療を理解する上では一般の人々にも参考になる部分はありそうだ。
形成外科の世界では美容医療を敬遠する傾向があったが、その風潮にも変化が見られている。
増える研修後すぐ美容医療に進む医師
- 美容医療界で最大→日本の美容医療界で最大の医局は約400人規模の大手グループであり、大学の医局と比べても大きな組織になってきている。美容医療の医師を育てる場に変化が出ている。
- 美容医療への道→多くの医師が形成外科を経ずに直接美容医療に進むことが増加中。ただし、「手技が未熟、知識不足、倫理道徳欠如」といった問題が発生。
- 美容医療の医師育成→大手グループ、個人クリニック、大学で異なる課題がある。大手は教育リソースが豊富だが、個人クリニックでは教育への対応が困難で、大学では指導者や受診してくる人の数が不足。
- 藤田医科大学の取り組み→美容医療の教育が進められており、形成外科医と連携して美容医療を学ぶ体制を構築中。国内外の専門家の協力を得ている。
神戸大学形成外科客員教授で、RE_CELL CLINIC(大阪市中央区)に所属する原岡剛一氏は、日本の美容医療界で、一つの組織に属する医師のグループ「医局」で最大なのは、大手美容医療グループで約400人に上るという。それに対し、例えば神戸大学の医局は約200人という状況になっている。
大手グループに新たに参画する医師の数は、形成外科に1年間に新たに加わる医師の数を上回り、さまざまなタイプの医師が大手に集まっていると見られる。
最近は、医師の最初の2年間に義務付けられる初期研修を終え、形成外科などの道を通らず、直接美容医療に進む人も増えている。
「手技が未熟、知識不足、倫理道徳欠如」という問題が発生していると原岡氏。
原岡氏は、自分自身が、大学や個人クリニックなどで教育に携わった経験から、美容医療の医師をどのように育成すればよいかを語った。
美容医療の医師育成には、大手グループ、個人クリニック、大学などが考えられるが、それぞれに課題がある。大手グループは人手が多く、教える人を確保したり、教育のためのモニターを募ったりすることは有利になる。直接収入につながらなくても、教育に力を割ける点では大学が有利になる。個人クリニックではスタッフが少なく教育に手が回りにくい。教育を引き受ける側にはメリットは乏しく、収益につながらない、人手が足りないなどのデメリットが目立つため教育体制の構築は困難を伴う。
一方で、藤田医科大学形成外科准教授の井上義一氏は、大学の中で美容医療の教育を進めている。
「大学は箱がない、患者が来ない、指導者が不足している」と井上氏。美容医療の窓口が少ない中で、もし大学で美容外科を開設しても、簡単には人々は受診してこないという。美容医療を習得した医師も少ない。
そうした中でも井上氏は形成外科で美容医療を教育することが必要と考えている。というのも、自ら形成外科に所属しながら、美容医療を自力で学んだ経験があることが大きい。同大学形成外科の奥本隆行教授の下、同大学出身の中西雄二氏に学ぶ機会を得たり、韓国で学んだりするなど、美容医療に取り組んだ。そうした経験は形成外科の技術を向上させる結果につながったと振り返る。ヒフコNEWSで既に伝えたが、同大学の犬飼麻妃氏も形成外科に所属しながら過密なスケジュールの中で美容医療を学んだという。しかし、現在では「医師の働き方改革」が2024年4月から本格化。持続可能な教育システムが求められる。
そこで藤田医科大学では、形成外科に所属する医師が美容医療を学べるように体制作りを進めてきた。韓国のジョン・ジェヨン(Jeong Jae Yong)氏が、名古屋にザ・プラス(THE PLUS)美容外科を開院し、彼に相談して連携を受け入れてもらった。同クリニックに大学の医師を受け入れてもらっている。さらに、YOUR FACE CLINIC(東京都港区)の山脇孝徳氏を招いて実習を担当してもらうなど、外部の協力も得た。ヴェリテクリニック(東京都中央区)理事長の福田慶三氏、リラ・クラニオフェイシャル・クリニック(東京都中央区)菅原康志氏が主催する「KY美容塾」、海外学会やセミナーにも参加を促すようにした。
道のりは困難ではあるものの、新しい動きとして注目されそうだ。
韓国では18の研究会で学ぶ
- クリニックでの教育→クリニックでの美容医療の教育では、教育を受ける若い医師が手術を行うことは簡単ではなく、見学や助手業務が中心。
- 教育の難しさ→研修医の期間に手技を本格的に学べるようになるまでには時間がかかる。所定期間の1年が終わりかけた時点で「やっとこれからなのに」いうのが実情。
- 医学生への美容医療教育→医学生に対しても美容医療の知識を与えることを推奨。保険診療での経験を経てから、美容医療に取り組むのが望ましい可能性。
- 韓国の美容医療教育→韓国では美容医療の手技が実践的に経験され、大学病院でも美容医療を学ぶことができる。美容医療に関連する研究会が18あり、目や鼻、若返り、レーザー、フィラー治療など多岐にわたる分野で議論が行われている。
Glycine Clinic(東京都中央区)の藤本雅史氏は、医師の教育に取り組んだ経験を紹介した。前職のヴェリテクリニックでは、名古屋大学との連携により医師の受け入れを進めていたという。
ヴェリテクリニックは国内に3医院を展開して比較的大きな組織ではあるが、それでも教育が難なく進められるわけではない。例えば、クリニックでは医師を指名する人が多く、教育目的で入った医師が手術に取り組むことは簡単ではなく、見学や助手が中心になる。カウンセリングに参加するときにも、受診してきた人を不安にさせないような配慮が求められる。そのような対応を続ける中で得られるものはあるとはいえ、時間が足りないというの実際のところ。
「在籍期間の1年が過ぎた頃には、やっとこれからというタイミング」と藤本氏。
藤本氏は医学生の教育の必要性についても触れた。研修医を終わってから保険診療を経験せずに美容医療に入る人が増えているからだ。藤本氏は保険診療を経験してから、美容医療に取り組むのが望ましいと見る。
「保険診療で病気の人の手術を経験すると、美容医療で健康の人の顔にメスを入れることを通常行われないことと理解できる。緊張感は大切ではないか」と藤本氏。医学生のキャリア形成の支援も求められている。
韓国ソウル大学形成外科主任教授の張学氏は、韓国の美容医療の医師育成を紹介した。
韓国では、美容医療の手技を実践的に経験し、試験でその技術が評価される。韓国では美容医療の専門を大学でも取り入れており、日本のように大学に美容医療のプログラムがないことが問題視されることはない。
韓国では美容医療に関連した研究会が18あり、そこでさまざまな議論が行われ、その中で美容医療を学ぶことができるという。研究会がカバーする分野は、目や鼻、若返り、レーザー、フィラー治療など。以前は目や鼎の研究会が人気だったが、最近では若返りが人気だという。
一方で、資格のない美容医療の医師が多いという日本と似たような問題もあるという。韓国では、約1万4400人の美容医療の医師が形成外科や皮膚科出身である一方で、約3万人はそれらの資格を持たないと張氏。
日本と韓国は異なる状況にあるが、美容医療への関心が高まる中で頻発するトラブルを受け、大学などが教育に取り組む仕組みの構築が欠かせない。形成外科はケガ、先天異常、腫瘍、美容などを扱うが、美容医療における役割は長年の議論の的となっている。日本では、問題意識を持つ大学とクリニックの医師が協力を深め、連携へ向かう動きが見られる。