
アートメイクのキャンセル料でトラブルが発生。(出典/国民生活センター)
アートメイクは多くの人に利用されている人気施術の一つだが、解約のトラブルが発生するケースがある。
国民生活センターが2024年12月20日、こうしたトラブルの一つについて、和解を目指して仲介手続きを行った事例を公表し、同様の問題が起こるリスクに注意を呼びかけた。
アートメイクを予約したがキャンセル
- 国民生活センターの取り組み→ ADR(裁判外紛争解決手続)を通じて消費者トラブルを解決し、重要な事例を公表している。
- 今回のトラブル→ 唇のアートメイク施術をめぐるキャンセル料請求に関する問題。
- 消費者の行動→ 施術をキャンセルした本人が返金を求めて消費生活センターに相談した。
国民生活センターは「紛争解決委員会」で、消費者が巻き込まれたトラブルを解決する取り組みを続けている。これは『ADR(裁判外紛争解決手続)』と呼ばれる。同センターでは、ADRで対応したトラブルのうち、重要なケースを公表している。12月にも和解の仲介手続きを行った事例を公表した。
今回、唇のアートメイクをめぐるトラブルについて含まれていた。アートメイクでは、事前説明の不足などがトラブルにつながる可能性があると指摘している。
問題となった施術は、東京都中央区に所在する一般社団法人MARUNI(以下、クリニック)による唇のアートメイクだと公開している。
施術を受けに行ってキャンセルを希望している申請人(以下Aさん)の主張によれば、24年5月に美容アプリを通じて唇のアートメイクを予約した。事前の問診票の提出は求められなかった。
翌日、Aさんはクリニックを受診した。このとき、問診で4カ月前に口角挙上術を行ったこと、唇の輪郭がぼけているためアートメイクで輪郭をくっきりさせたい旨を伝えた。クリニックからは、リスクが高い施術であることから、モニター料金ではなく6万6000円で施術可能と伝えられた。
その後、クリニックからは、唇に傷があるため、傷のある部分を避けて施術を行うことになると説明された。このため、Aさんは、希望通りの施術が行えないのであればキャンセルしたいと申し出た。
ところが、クリニックは、今回はカウンセリングの予約ではなく、施術の予約であることから、キャンセル料が必要であると説明し、3万8500円を請求。Aさんはクレジット払いで決済した。
Aさんは後日返金を求めて消費生活センターに相談した。
かみ合わない見解

唇のアートメイク。(写真/Adobe Stock)
- 消費者の主張→ 事前に問診票提出や手術歴の可否について説明がなく、希望通りの施術が行えないのでキャンセル料は不当であると主張。
- クリニックの主張→ Aさんの依頼内容が技術的に不可能または医療行為に該当すると判断し、顧客都合のキャンセルとしてキャンセル料を請求。
Aさんによれば、2024年5月に美容アプリを通じて唇のアートメイクを予約した際、事前の問診票提出や口角挙上術後の施術可否についての説明はなかったという。予約当日、受付で問診票を記入後、希望する施術が実施できない可能性を指摘された。結局、希望通りの施術ができないことを理由にキャンセルを申し出たが、相手方は「施術が前提の予約」であるとしてキャンセル料3万8500円を請求。申請人はこれに応じたものの、後日返金を求め消費生活センターに相談したが解決に至らなかった。
※クリニックの指摘に基づき「希望通りの施術」について以下の点を国民生活センターの公表文書にもある内容でもあり補足します。(2024/12/23)
希望通りの施術は次の通りだった。
①口角の形を整えたい
②オーバーリップにしたい
③口角拳上の手術跡の傷口にベージュのアートメイクをしてほしい
①は傷口に針で傷つけ色素を入れなくてはならないため、技術が高い看護師しかできない(それでも施術はダウンタイムから半年後から)②は医療行為では行うことができない、③はアートメイクでいう傷跡修正・スカーレスという施術で当社にはメニューも機械もない。
申請人の「自分が希望する施術ができないのであれば、施術をしない」という主張については、上記の②③のことであり、当社では医療行為の違反になることはできず、存在しないメニューの提供はできないため、②③の施術を希望することによるキャンセルはお客さま都合になるため、当日キャンセルとして料金を請求した。今回の予約は施術の予約であり、施術をすることが前提であるため、個人都から都合でのキャンセルはキャンセル料をいただくことになる。
一方で、クリニックによれば、Aさんは元々、口角拳上術については伝えていなかった。その後、クリニックの看護師が、傷跡を見て、手術を疑った。Aさんは、口角を整えるほか、オーバーリップにする、傷跡を目立たないようベージュのアートメイクするという依頼をしていた。術後では、口角を整えるには高度な技術が必要であり、オーバーリップは医療行為の範囲外で対応できない。また、傷跡を目立たなくする施術についても技術的に不可能であると説明した。オーバーリップ、傷跡を目立たなくすることのキャンセルは、顧客都合でキャンセル料が必要と主張した。
一方で、クリニックはAさんが否定的な口コミを投稿しているとし、訴訟を提起する準備を進めていると説明した。
和解手続きは不調に終わる

交渉は決裂。(写真/Adobe Stock)
- 仲介手続きの結果→ クリニックが協力せず、和解成立の見込みがなく手続き終了。
- 教訓→ 施術を前提としない相談をまず行うことが重要。
- 即日施術の問題→ 即日施術が問題の原因となるケースが多い。
国民生活センターは仲介手続きを進めようとしたが、クリニックから協力する意思がないという回答があり、クリニックからは、訴訟提起の準備を進めているとの説明があるのみであった。その後も促しても協力を得られず、和解成立の見込みがないと判断され、手続きは終了した。
今回のケースからはいくつかの教訓が得られる。アートメイクに限らず、美容医療の予約をする場合、施術を前提としない相談をまず行うべきだ。美容医療では来院後に即日施術が行われることが多いが、これが問題の原因になると考えられる。厚生労働省は業界ガイドラインを策定中であり、今後は即日施術が原則禁止となる見通しになっている。今後は、今回のケースのような問題は起こりづらくなることが想定される。
また解約についてのルール作りが、消費者庁で進んでいる。今回のケースでは、Aさんとクリニックの間では、解約に関連した見解は不一致で合意できなかった。こうした点について明確なルールが策定されれば、トラブルの発生が抑えられることが期待される。