
美容医療にとって解剖の理解は不可欠。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
2025年3月31日、「献体解剖倫理指針」が公開された。これは、日本解剖学会が、篤志解剖全国連合会、日本篤志献体協会とともにまとめたもの。
SNS投稿をきっかけに献体の扱いについて倫理観が注目されていた。
献体に関わる情報の公開の問題点を指摘

日本解剖学会、篤志解剖全国連合会、日本篤志献体協会が2025年3月31日、「献体解剖倫理指針」をまとめた。(出典/日本解剖学会)
2024年12月、美容外科に従事する女性医師などが、グアムで行われたCST(Cadaver Surgical Training)において遺体の写り込んだ画像をSNSに投稿し、社会からの強い非難を受けた出来事があった。この件では、女性医師が役職を退いたり、関連した医師も非難を集めたりするなど、大きな関心を集めた。
日本美容外科学会(JSAPS、JSAS)も声明を発表し、医療従事者としての倫理観の欠如を厳しく指摘した。その上で、教育や管理体制の強化に取り組む姿勢を示していた。
献体解剖に関連する日本解剖学会では、2013年の「人体および人体標本を用いた医学・歯学の教育と研究における倫理的問題に関する提言」を再掲し、個人の尊厳を損なう可能性があることなど、インターネット上での画像公開の問題性を強調していた。
そうした中で、今回、献体に関連した学会と2団体が共同で、「献体解剖倫理指針」を発表。献体解剖に関わる医療者、教育者、学習者すべてが共有する必要がある倫理規範を、丁寧な言葉で書き綴った。
一般的な指針とは異なり、献体解剖に関わる本人やその家族の思い、献体解剖の歴史などを提示しながら、比較的柔らかい書き方で、献体を用いる際に倫理観がなぜ求められるのかを説明している
同倫理指針によると、献体の件数についての全体像は次の通りだ。
献体解剖は、献体による遺体を用いた人体解剖であり、「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」に基づいて行われる。我が国で行われている正常解剖はほぼすべて(99%以上)が献体解剖である。2025年現在、全国の82の医学部(定員9,403人)および29の歯学部(定員2,720人)において正常解剖が行われ、2023年度の正常解剖数は3,657体、献体解剖数は3,634体(解剖体の99.4%)であった。
献体とは正常解剖に供されることを目的に、自分の遺体を無条件・無報酬で提供する篤志行為である。「自分の死後、遺体を医学・歯学の教育と研究のために役立てたい」と志した人が、生前から大学または関連した団体に登録しておき、亡くなられた時にその生前のご意志にしたがい、ご家族の同意のもとに、遺体が大学に提供される。献体登録者の累計は329,435人、献体実行者の累計は161,488 人(2024年3月末現在)である。
献体の取扱に関わる「死体解剖保存法」では、人体解剖は解剖学、病理学、法医学の教授または准教授が行えるものであり、特別の解剖室で行うよう求めている。正常な構造を明らかにする解剖は、医学に関する大学で行うよう求められている。このように日本での規制についても理解を促している。
また、今回、SNS投稿で献体の画像が公開された点が大きく問題とされたが、その問題の根拠についても明示している。
倫理指針によれば、刑法において、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、・・・の職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と記載されているなどと紹介。献体解剖で経験し、見聞したことは献体者の個人的な秘密に属すると指摘し、正当な理由なく第三者に伝えることは慎むよう強調した。
こうした前提を踏まえ、礼意と守秘義務を守ることの大切さを説いて、守秘義務を守ることを含めた行動規範を示している。
献体を用いたトレーニングは美容医療でも意味を持つ

献体を用いたトレーニングは美容医療とも関連。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
献体を用いたトレーニングは、安全で有効な美容医療を実現するためには重要な手段の一つになり得る。日本国内でも、東北大学、千葉大学、神戸大学で、美容医療を目的とした献体を用いた解剖が行われている。
一方で、献体を美容目的で用いることには抵抗を示す人がいても不思議ではないと言われる。そうした状況で、美容医療と献体を用いたトレーニングが、悪評につながっては、予定されていた研修が実施できなくなる可能性がある。このような研修が国内で難しい状況は、美容に関わる医療者にとってはもちろん、美容医療を受ける人にとってもメリットにつながらない。
今回の日本解剖学会が示した倫理規範は、美容医療に関わる医師であっても、目を通すことが重要だろう。