
内側から若返りを目指す。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
若返りを外見だけでなく内面からも実現する方向へ、美容医療が進化する可能性がある。ヒフコNEWSでは、「ロンジェビティ」や「フラーリッシング」と呼ばれる健康長寿を支える考え方を紹介しているが、それにつながる技術も登場している。
2025年6月、京都大学の研究グループが寿命延長につながる新たな薬剤候補を発見した。ミトコンドリアのエネルギー代謝を改善し、マウスの寿命を24%延長させる効果が確認された。
細胞エネルギーのカギ「ATP」を補う

細胞の中にproAXを導いてATPの不足を補う。(出典/京都大学)
- 美容医療の進化→
美容医療は外見の美しさを高めるだけでなく、内面からの若返りを目指す「美容内科」の分野も登場し、関心が高まっている。- 京都大学の研究→
京都大学の研究グループは、ATP(アデノシン三リン酸)の効果を活用するための前駆物質「proAX(プロアックス)」を開発した。- 動物実験での効果→
線虫での実験により、proAXの投与で寿命が24%延長。単なる細胞活性化にとどまらず、全体の寿命延長が確認された。
美容医療は、基本的に外見の美しさを高めるものだが、内側からも美しさを保ちたいと考える人が少なくない。老化による外見の衰えを、さまざまな施術で回復させるのが美容外科や美容皮膚科。一方、外見だけでなく内面からの若返りを目指す医療として、美容内科と呼ばれる分野も登場している。
若返りは言い方を変えれば、健康寿命を延ばすこと。現在、そのための技術の開発が進められている。「美しさ」と「健康寿命」の両方が求められる時代に入っていることを、ヒフコNEWSでも伝えている。
そんな中、細胞のエネルギー代謝を回復させることで、老化の進行を抑制する薬剤の開発が進んでいる。エネルギーの代謝改善というと、NMN(β-ニコチンアミドモノヌクレオチド、β-Nicotinamide mononucleotide)を思い浮かべる人もいるだろう。NMN含有商品は、低価格化によって、市場が拡大しているとされている。
今回、京都大学の研究グループが開発したのは、細胞のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)の効果を活用するものだ。ATPのままでは細胞に入らないため、その前駆物質である「proAX(プロアックス)」という薬剤候補を開発した。これは細胞内で代謝され、ATPなどに変換されて利用される。老化に滞るATPの供給を回復させる。人の細胞で実験すると、細胞内のATPが最大3倍になった。
研究グループが、「線虫」と呼ばれる実験生物で検証したところ、寿命が24%延長することを確認した。細胞が単に活性化するばかりではなく、生物全体の寿命を延ばすことを実現できたことを、研究グループは重要視。今後研究が進めば、人への応用や実用化の可能性もある。研究グループによれば、開発されたATPプロドラッグは世界初となる。
若返りの医療を発展させる課題

さらに研究が進むと健康長寿の延長は実現する可能性がある。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 老化抑制薬の登場と課題→
老化を防ぐ薬の登場は制度面・社会的・経済的・倫理的な問題を引き起こす可能性がある。- 保険診療の可能性と限界→
老化が全ての病気の根本に関わるため保険診療の対象となる可能性がある一方、全員が対象になると保険財源では対応できない懸念がある。- 自由診療と倫理的課題→
自由診療であれば制度の制約は少ないが、社会的・倫理的な課題は依然として残されている。
ヒフコNEWSで伝えているように、このような老化を防ぐような薬が登場してくると、制度や社会的、経済的、倫理的問題が起きる可能性がある。老化はあらゆる病気の大元になるもので、そのような意味からは、保険診療で治療の対象となる可能性もある。一方で、誰しも老化する中で、老化を治療すると、全員が治療対象になるので、保険に基づくお金では賄いきれないと見られる。さらに、自由診療であれば制度上の制約は少ないかもしれないが、社会的、倫理的課題が残る。
老化を防ぐ薬をどのような制度の下で使うのか、決めていく必要がある。寿命が延びた人が社会的、経済的に活躍し続けられるようにするには、どのような制度設計が求められるのかも検討すべきだ。いつまでも若く保たれることは良いことだが、老化をめぐる制度は国内外ともに整っておらず、大きな課題になっている。
今後、美容クリニックは、外見だけではなく、総合的な若返りを実現する医療機関として存在感を増してくる可能性がある。そうしたクリニックが、美容外科や美容皮膚科に加え、美容内科の治療のみならず、そのような制度に関わる課題についても率先して考える必要があるのかもしれない。
一般に若返りの医療に関心を持つ人にとっては、このような新しい治療の登場に注目し、情報収集や利用すべきかどうか判断が求められるだろう。
