
美容など目的の点滴への警告。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
国内でも美容などを目的とした点滴が一般的に行われているが、世界ではその状況に変化が生じている。
ヒフコNEWSで伝えたが、マレーシアでは2025年11月までにビタミンC点滴が違法化され、衝撃を与えた。
一方、米国でも同様の問題意識が高まり、エール大学の研究チームは、急増する静脈注射による水分補給を意味する「IVハイドレーションスパ」の規制状況を調査し、業界の無法状態に警告を発している。
こうした動きは日本も無縁ではないかもしれない。
「根拠乏しく、監督も不十分」

「IVハイドレーションスパ」にルールはあるのか厳しい目が注がれる。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 米国で急拡大する美容など目的の点滴 → ビタミンやアミノ酸の点滴が、美容などの目的で広く行われ、医療機関外でも年間数十億ドル規模に成長。エール大学の研究は、この無規制の実態に警鐘を鳴らした。
- 科学的根拠・医療体制の欠如 → 全255施設のうち、効果の科学的根拠を明示していたのはわずか0.8%。また、覆面調査では医師などの診察を行ったのは3割未満で、リスク説明も25%程度にとどまるなど、安全管理が不十分だった。
- 州ごとに規制がバラバラ → 点滴の処方権限・調製基準・管理体制など、4つの基本項目をすべて明確に規定していた州は全米で4州のみ。研究者らは「医療行為に近い施術が監督なしで行われている」と指摘し、全国的な規制強化を求めている。
エール大学では、研究者の家族が美容目的で点滴を受けたことをきっかけに問題意識が生まれたという。
米国では脱水、疲労、風邪対策、さらには美容目的まで、点滴でビタミンやアミノ酸を投与する施設が急増し、医療機関の枠外で年間数十億ドル規模の市場を形成している。
今回の研究は内科の学術誌「JAMA Internal Medicine」に掲載され、全米50州・ワシントンD.C.を対象に、政策、ウェブサイトの情報、さらに覆面調査(シークレットショッパー)で施設の実態を解析した。
また、米国全土255施設のウェブサイトを調べたところ、提供している点滴メニューや効果のうたい方、スタッフ体制は施設ごとにばらばらだった。どの施設も「水分補給点滴」を提供しており、多くはマグネシウムやグルタチオンを組み合わせ、ビタミン注射を併用するケースも目立った。一方で、こうした施術の効果を説明するサイトは多いものの、実際に科学的根拠を明示していたのは全体の0.8%に過ぎなかった。
さらに、87施設を対象にした覆面調査では、施術前に医療資格者の診察を求めたのは3割弱にとどまり、8割超の施設が頭痛や風邪に効くといった特定の点滴を勧めていた。潜在的なリスクについて説明したのも全体の4分の1程度で、医療行為に近いサービスでありながら、利用者保護の観点で不十分な対応が浮き彫りとなった。
州ごとに規制内容は大きく異なり、運営のルールづくりや、誰が点滴の処方をしてよいかという資格要件、点滴製剤の管理方法、成分を混合して調製する際の基準という、利用者の安全に直結する四つの基本的な項目すべてについて明確な規定を設けていた州は、全米でもわずか四州にとどまった。
研究者は「一般の消費者が医療行為と同等と誤認するレベルの施術が、医療監督なしで行われている」と警告している。
米国ではFDAの直接監督対象外で、州の裁量に委ねられているが、そうした方針は無規制の広がりを招いており、研究チームは「より厳格な規制が必要」と結論づけている。
日本国内での施設や出張などでの点滴も大丈夫か?

「IVハイドレーションスパ」にルールはあるのか厳しい目が注がれる。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 美容目的などの点滴の国際的な安全性問題 → 世界的に普及が進む一方で、マレーシアでは禁止、米国でも無規制の危険性が指摘されるなど、安全性と法的整備の遅れが共通課題として浮上している。
- 日本でも進む「訪問・オンライン点滴」 → 美容や疲労回復目的の点滴が増加する中、医療従事者の関与が不透明なケースもあり、オンライン診療と組み合わせた新形態には明確な規制がない。
- ルール整備の必要性 → 美容目的点滴を医療として適切に位置付けなければ、将来的に規制対象となる可能性も。現在準備中の美容医療ガイドラインの中で、安全基準の明確化が求められている。
いわゆる「美容点滴」は世界中で身近なサービスとして広がっているが、マレーシアの禁止措置と同様、米国でも改めて安全性と規制の重要性が浮き彫りになった形だ。
日本でも、美容などを目的とした点滴がさまざまな形で行われている。訪問で行われるケースも増えているが、そこに医療関係者の関与があるのか不透明な部分もある。
オンライン診療を組み合わせると良いという言説もあるが、その辺りの規制は明確ではないといえる。
医療側が美容目的の点滴についてのルールを整えなければ、危険を伴う施術として日本でも規制対象になる可能性は否定できない。現在美容医療の業界ガイドラインが国内で準備されているが、こうした施術についてもルールの整備が必要ではないか。
