私、音楽ライター・村上あやのは、アーティストのインタビュー記事やライブリポートを執筆してきた。その一方で、ファッションやコスメ、恋愛といった女性に関わるカルチャーについても30年以上ウオッチしてきた。
美容医療もその一つ。私自身、日々目まぐるしく進化を遂げる美容医療に興味津々で、上手にアプローチしながら、メークの可能性も存分に楽しんでいきたいと思っている。今回は、執筆者兼ユーザーのスタンスから今の“ナチュラルメーク”ブームや美容医療の低年齢化などについて語ってみる。
盛りメーク世代の私が教える、美容医療との“賢い”付き合い方

メークと美容医療の関係は?画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
メークの「ナチュラル志向」が生む、新たなプレッシャー
「今の女の子たちは大変だなぁと思うんだよね」
カフェでコーヒーを片手に友人がふと呟いた。友人はまつげエクステサロンで働く40代。美容の最前線に立つ女性だ。
仕事を通して、最近しみじみそう感じるのだという。詳しく尋ねると、サロンにやってくるお客さんの年代によってオーダーも大きく変わると話し始めた。派手目メーク世代の場合は、まつげのエクステもパーマも、若かりし頃のギャルや濃いメークの名残からか盛り気味の施術を求めることが多い。一方、最新トレンドを追いかける若い世代はナチュラルメークが主流で、自然なまつげデザインを求めてくる。それが今の傾向なのだとか。
派手目メーク世代は1970年代半ば~1990年代半ばまでに生まれた世代で、ナチュラルメーク世代は1990年代半ば~2010年代にかけて生まれた世代といったイメージだろうか。
「でも…ナチュラルさって残酷じゃない? だって私たち世代みたいにメークで盛ることができないんだよ。自分の素の顔で勝負するしかないということだもん」。冒頭の言葉につなげて、友人はそう憂いて見せた。
なぜ“ナチュラルメーク”がここまでブームになったのか
友人の話を聞きながら、そんなナチュラルメークの流行はどこからきたのだろうかと、ふと疑問が湧いてきた。
いわゆる“盛りメーク全盛期”には、安室奈美恵や浜崎あゆみらが歌姫として称えられ、憧れの存在としてまばゆいばかりだった。特に浜崎あゆみは、目がとても大きくメーク映えする顔立ちで、初めて見たときは、まるでお人形のような可愛らしさに度肝を抜かれた。盛りメーク世代はそんなあゆに憧れ、メークの手本にしたし、いかにメークであゆの顔に寄せられるか、ひたすら真似する日々を送っていた。濃いアイライン、パチパチの濃いまつげは鉄板であり、付けまつげの重ねづけなんて当たり前の盛り盛りメーク!雑誌のメーク特集ページも“あゆメーク”が掲載されない日なんてなかった。そうしてメークに切磋琢磨する女性たちは、あらゆるコスメやアイテムを駆使して、めきめきとテクニックを上げていった。今、改めて当時を振り返ると、プロのメークさん顔負けのスキルを持った女性たちが巷に溢れていた。そんなメークスキルで、憧れの顔に近づける方法を学んだ女性たちが、ギャル系やドーリーメークのブームを作りあげていった。そんな時代が確かにあった。
今どきアイドルの「素顔勝負」が若い女性に与える影響

素顔が大事に。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
「ちなみに、今は誰みたいなまつげが人気なの?」と尋ねると、「乃木坂46、櫻坂46、日向坂46、TWICE、K-POPアイドル!」と即答。なるほど。確かに最新トレンドに敏感な若い子たちはアイドルグループやK-POPアイドルたち花盛りの時代を通ってきた世代だ。アイドルたちはみんな、“ナチュラルすっぴん風メーク”で軽やかに踊っている。そんなアイドルを見て、「あんな顔がいい」と憧れるならば、友達の言うように“素顔で勝負”に間違いない。そうしたとき、若い女性たちの中に湧いてくる感情は、【あんな顔になりたい=顔を変えたい願望】ではないだろうか。“すっぴん風メーク”が可愛いとされる時代において、私たち世代のようにメークで盛るなんて到底できない。そうなると【持って生まれた顔】こそが絶対的正義だ。「まぶたの形、唇の厚さ、輪郭が…あのアイドルと違う」となると、行き着く先は、やはり美容医療の世界だろう。
かつては高いハードルだった「美容医療」の敷居が下がった理由
私たちが若かりし頃は美容整形といえば、とても高い壁だった。どうしようもないコンプレックスを抱え、生きていくのが辛いという気持ちを抱えた人が、思いつめて門を叩く…そんな究極の手段だった。
それが今や美容医療は、エステ感覚に近いほど敷居が下がってきた。その理由はさまざまあるだろうが、友人が語ったように女性たちのメークの変化によって【素顔勝負】となったことも、一因となっているようにも感じられる。
低年齢化する美容整形…「可愛くなりたい」に年齢は関係ない?
そして同時に、頭に浮かんだことが一つある。それは最近、よく議論になる『美容整形の低年齢化問題』だ。「瞼を二重にしてほしい」と手術を希望する小学生や中学生が増え、クリニックにやってくる親子が増えたという。そんな現状に頭を抱える医師も多いと聞く。きっと小学生、中学生の憧れの対象だって、可愛いらしいアイドルなのだろう。だとしたら「顔を変えたい」となる気持ちも分かるし、美容クリニックが溢れる時代において美容整形へと直線的につながってしまうことは、ある意味、必然かもしれない。
「可愛くなりたい」という願望は、年齢問わず誰の心にだって存在する。充分すぎるほど歳を重ねたとしても、なかなか消し去ることはできない。ただし、美容医療は完璧な美をリスク無しで約束してくれるわけではない。だからこそ適切な時期に、上手に、賢く付き合っていくことが、これから益々大切な時代になっていくだろう。
メークも美容医療も「使い分ける」時代

メークと使い分け。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
最後に“メーク盛り盛り時代”に鍛えられてきた筆者としては、若い世代にはメークの魅力や面白さをもっと知ってほしいと思う。メークでどうにもならない点はスキンケアに力を入れて、美容医療でサポートしつつ、うまくバランスをとって自由に楽しんでほしい。
私自身も「ここはメークで工夫してみるところ」「これ以上はやっぱり美容医療。きちんとリスクを理解した上で頼ってみるのもいいかも」というスタンスでいる。そんな風に選択肢が増えたことで、自由度が増したと感じる今日この頃だ。
メークテクニックのアップデートや情報収集だって、今やインスタグラムやSNSで入手は容易になり、自分の悩みに応じてクリニックに相談する勇気だって、現代を生きる女性の『新しい武器』だ。
浜崎あゆみの「UNITE!」という曲に“自由を右手に 愛なら左手に”というフレーズがある。多くの選択肢を得て、美容医療という力強い武器を手にした女性たちは、まさに“メークを右手に 医療を左手に”と歌い上げられる、そんな時代を生きているのかもしれない。自分らしく、そして適度なバランス感覚を大切にしつつ、美へのアプローチを探ってみるのもきっと面白いはずだ。
