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未承認「スーパープラセンタ」で医薬品販売会社の社長逮捕、その背景とは

カレンダー2023.5.26 フォルダー 国内

ポイント

  • 5月10日に、スーパープラセンタを美容クリニックに販売した会社社長が逮捕された
  • 医師でもない人が未承認の医薬品を販売したことが法律違反と見なされた
  • これとは別に自家製のスーパープラセンタを美容クリニックに販売して逮捕された人もいる

 「スーパープラセンタは、もう全然扱っていませんね。値段も10万円ほどでなかなか出ませんでしょう?逮捕された件についてはよく分かりません」

 ヒフコNEWSが都内の美容クリニックに取材したところ、このような答えが返ってきた。

 「スーパープラセンタ」という製品を美容クリニックで扱っているのを見たことがあるかもしれない。

 ところが、この5月10日、これを販売した都内の医薬品販売会社である赤坂メディカル研究所の社長が逮捕され注目された。

 スーパープラセンタを取り扱う美容クリニックが多く確認できるが、なぜ今その販売に関わる逮捕者が出たのだろうか。

クリニックでの提供が問題とされない理由とは

胎盤は子宮の中で赤ちゃんと母親をつないでいる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

胎盤は子宮の中で赤ちゃんと母親をつないでいる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 そもそも「プラセンタ」とは、赤ちゃんがおなかのなかで育つために欠かせない胎盤のこと。妊娠中に子宮の中で育つ赤ちゃんと母親をつなぐ役割を果たしている。胎盤を通して栄養や酸素などが赤ちゃんに届けられている。

 プラセンタは日本では医薬品として使われているが、これは出産した後に取られた胎盤を酵素で分解したエキスである。更年期障害の治療目的としては保険適用にもなっている。

※医薬品としてのプラセンタは「メルスモン」「ラエンネック」の商品名で販売されている。

 一方で、スーパープラセンタはこうした医薬品のプラセンタとは別物だ。国からの承認を受けておらず、どの病気に対しても保険を使うことはできない。

 では、「スーパー」の名前の通り、さらに強力な効果が期待できるということだろうか。冒頭の取材したクリニックの説明によると、スーパープラセンタは、医薬品として使われているプランセンタと比べて胎盤からのエキスの量がおよそ500倍に上るという。

 スーパープラセンタをどのように使うかといえば、直接、皮下や筋肉内に注射して使う。これは医薬品として使われているプラセンタと変わりはない。

 冒頭に紹介したように、クリニックの説明によると、注射することで、組織が再生するなど、老化予防の効果があるというが、最近は扱っていないという。施術料が1回10万円近くということなので、「利用者はこの値段のために増えない」という説明通りかもしれない。

なぜ社長は逮捕されたのか

警察署。(写真/Adobe Stock)

警察署。(写真/Adobe Stock)

 ところが、このスーパープラセンタの販売をしていた医薬品販売会社の社長が5月10日に逮捕された。いったいどういうことなのだろうか。

 逮捕したのは、兵庫県警察である。兵庫県警に問い合わせたところ概要は次の通りだった。

 被疑者は都内在住の医薬品販売会社の社長で、23年5月10日に警視庁玉川警察署において「薬機法」違反で逮捕された。

※「薬機法」は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。医薬品や医療機器を製造したり販売したりするときのルールを定めた法律。

 3年前の2020年10月頃に、兵庫県芦屋市の美容クリニックに「スーパープラセンタ10mL」約30本および「スーパーUCB」という製品を約100本、合計およそ400万円で販売したが、これが国内で製造販売許可を得ていない医薬品の違法販売と判断された。

※スーパーUCBは、臍帯(へその緒)から取られた幹細胞に関連していると見られる。

 つまり、まず前提として、スーパープラセンタは「医薬品」に当てはまると見なされた。スーパープラセンタは、胎盤の抽出物であり、サプリメントなどにも近く、実際に市販されているものもあるが、美容クリニックに販売され、それが注射して使われたと推定される ことから考えれば、医薬品として見なされるのは必然的だろう。

 しかし、販売されたスーパープラセンタは日本で販売のための国の許可を得ていないため法律違反となった。

 スーパープラセンタをめぐって社長が逮捕された背景は以上となる。

美容医療ではなぜ提供されているのか

医薬品の製造と販売は許可が必要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

医薬品の製造と販売は許可が必要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 スーパープラセンタの販売が違法というのは、以上の経緯から見ると不思議はないように見えるが、一方で、スーパープラセンタを提供しているという日本の医療機関は冒頭のクリニックに限らず、探してみると少なくない。これはどういうことだろうか。

 この背景について医薬品などの監視を担当している東京都にも確認したが、重要なのは医師の裁量と、薬機法という2つの考え方が異なっていることである。

 医師の裁量という面では、医師は専門的な判断によって最善と考えられる医療を、医療水準から判断して適切であるならば、自らの裁量で提供できると見なされている。

 例えば、医師の目の前にどうしても救えない患者がいる場合、医師は国内で認められていない薬を他国から取り寄せて使うことが認められる。これと同じように、医師が必要と考えた場合にスーパープラセンタを使うことも認められる。このような理由から、日本の美容クリニックの中にはスーパープラセンタを提供するところもある。

 一方で、薬機法は、医薬品や医療機器の製造や販売に関するより広い枠組みになる。

 この法律によると、基本的に許可されていない医薬品や医療機器は販売、製造することはできない。つまり、医師でもない人が、勝手に国に認められていないものを販売した場合には法律違反になる。

 その上で、あらためてスーパープラセンタをめぐって社長が逮捕された件を見ると、逮捕された事実から判断すると、この社長は医師ではないと考えられる。よって、医師の裁量とは無関係であり、国に認められていないスーパープラセンタを販売することは薬機法違反と判断されたことになる。

22年“自作”のスーパープラセンタが摘発

 こうした背景の下で、日本ではスーパープラセンタが使われているのだが、スーパープラセンタの問題がゼロかと言えば、ほかにも課題はありそうだ。

 問題は、国のルールの範囲外で作られ、販売されている製品であるために、それがどのようなものかがよく分からないことだろう。

 今回の逮捕とは別に、22年8月に兵庫県警が茨城県の医薬品販売会社の社長を逮捕している。

 このケースでは会社が茨城県の産婦人科医から研究目的で胎盤を入手し、自分たちで滅菌処理して精製し販売していたと報じられた。いわば“自作”のプラセンタだったわけだ。これも未承認で薬機法違反である。これは芦屋市の美容クリニックに販売されていた。これを皮下や筋肉に注射された人がいたことが考えられる。

 そもそも医薬品として承認されているプラセンタですら、添付文書には、ウイルスなどの病原体の混入は完全に排除できないと明記している。こうした背景もあって、2006年10月から厚生労働省の方針により、プラセンタの注射を受けた人は事実上、献血できなくなっている。製造元の不明なスーパープラセンタであれば、なおさら病原体の混入は心配されるのが自然だろう。

 スーパープラセンタをめぐる逮捕の動きは、未承認の医薬品や医療機器を扱う場面の多い美容医療にとってはごく身近な問題だ。例えば、国は未承認の医薬品や医療機器の輸入をめぐっては19年に薬機法を改正して法律に基づく許可を求めるようになっており規制強化している。ルールが厳しくなると、それによって美容医療も変化する可能性がある。

 今回のスーパープラセンタは報道によって問題が注目されたが、逮捕者が出なければ、それが問題とは気がつきにくいかもしれない。医療を受ける側としても安全性の疑わしいものについては慎重に考えた方が無難なのだろう。

参考文献

令和元年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00001.html

未承認の医薬品を販売 医薬品販売会社社長逮捕
https://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2022/08/23/56827/

プラセンタ注射を受けた場合、 献血は可能ですか。
https://www.jrc.or.jp/donation/qa/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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