エクソソームの応用を加速させるか、PMDA科学委員会が「EV」の品質と安全性に関する報告書を発表
ポイント
- エクソソームとは細胞から分泌された膜で囲まれた微小な粒子で、病気の治療などに開発が進む
- 政府機関の委員会は1月、エクソソームを含む細胞外小胞(EV)の問題を整理した報告書を発表
- エクソソームなどには品質や安全性の課題があるが、解決が進めば応用が加速する可能性もある
エクソソームという言葉を聞くことが増えているが、品質や安全性には課題があり、それらを解決する必要がある。しかし、それらの課題を解決していくことで応用が加速する可能性もありそうだ。この2023年1月17日、日本の政府機関、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が設置した科学委員会が、それらの品質や安全性などの問題を検討し、「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用し た治療用製剤に関する報告書」 を公開した。これは日本国内でのエクソソームの研究開発を進める上で大きな転機になると見られる。
2021年8月からエクソソームなどの課題検討を進めてきた
エクソソームは細胞から分泌される小粒子で、細胞が作り出す様々な物質を含んでいる。この粒子は、それを運んでいる細胞内にある小胞エンドソームよりもさらに小さいものだ。国際的な研究学会であるISEV(International Society for Extracellular Vesicles、国際細胞外小胞学会)は、細胞から分泌される小胞はエクソソームを含めて複数あり、互いに区別が難しいことから、細胞から分泌される小胞はすべて「細胞外小胞(EV)」と呼ぶことを推奨している。エクソソームを含むEVは、病気の治療などに応用できる可能性があるとして研究が進められている。
今回、2023年1月17日に「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会」が報告書をまとめた。部会長は京都大学大学院薬学研究科病態情報薬学分野教授の高倉喜信氏。専門部会は、PMDAの科学委員会が設置したもので、新技術の指針作りなどをする科学委員会の中で、さらに専門的にエクソソームなどの検討のために作られた組織だ。専門部会は2021年8月から2022年9月にかけて報告書を検討し、この報告書は2022年12月に科学委員会で確認された。
エクソソームなどの応用には、品質や安全性の課題山積
報告書では、エクソソームをはじめとしたEVの品質や安全性、人を対象にそれらを使う臨床研究のあり方が報告された。 報告書では、これまでの研究に基づき、エクソソームを含むEVは、細胞と細胞の間でさまざまな分子を輸送し、生命活動や病気に関与していると説明された。さらに、損傷した組織の修復を助けることができる間葉系幹細胞(MSCs)に代表されるように、組織を修復したり、炎症を鎮めたりする治療薬としての応用の研究開発も世界の研究グループにより進められていると紹介した。 しかし、これらの治療薬の開発には、品質や安全性の確保、生産・製造工程の管理、有効成分や用量の決定など、多くの課題があるとも指摘した。 そのため、エクソソームを含むEVの有効性をさまざまな評価法で評価できるようにするほか、不純物を含まないように精製するプロセスの開発、他物質の混入防止の方法、製造や保存時の安定性のモニタリング、不純物や分解物を検出する方法、免疫原性の評価(エクソソームに対して免疫反応を起こすような性質があるかどうか)などの関連の仕組みを作ることが重要だと説明している。 エクソソームなどを使った治療をめぐっては、臨床研究や自由診療の規制が不十分なため、安全性や有効性の明確な根拠がないままに使用されることが懸念されてきた。しかし、安全性や有効性を確保するためのリスクの明確化とともに、安定した細胞調達や大量生産技術、エクソソームの抽出方法などが開発されれば、有望な治療法となる可能性があるという期待もある。今回の報告書は、今後、日本におけるエクソソームの応用を加速させる一助になる可能性もありそうだ。
参考文献
科学委員会報告書「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用した治療用製剤に関する報告書」の掲載について
https://www.pmda.go.jp/files/000249829.pdf
エクソソーム等の調製・治療に対する考え方(日本再生医療学会)
https://www.jsrm.jp/cms/uploads/2021/04/日本再生医療学会_エクソソーム調製・治療に対する考え方.pdf
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