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「背を伸ばす注射」に 韓国当局が警告 成長ホルモン乱用に懸念、「低身長の治療をうたう医療広告」日本にも問題潜在、韓国食品医薬品安全処(MFDS)が2024年10月に発表

カレンダー2024.11.10 フォルダー 海外
警告。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

警告。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 成長ホルモン注射は特定の病気に対する治療法として使用されるべき医薬品。しかし、「背を伸ばす注射」として誤解されるケースが増えており、その誤用や乱用が問題視されている。

 韓国食品医薬品安全処(MFDS)は2024年10月、不適切な使用が広がっていることに警告を発した。日本でも背を伸ばすことを強調した医療広告が出されるケースがあるなど、韓国と同様の問題が存在する懸念がある。注意が必要だ。

韓国が発表、「背を伸ばす注射」に警告

韓国の食品医薬品安全処(MFDS)が不適切な成長ホルモン使用に注意を促した。(出典/MFDS)

韓国の食品医薬品安全処(MFDS)が不適切な成長ホルモン使用に注意を促した。(出典/MFDS)

  • 警告→韓国の食品医薬品安全処(MFDS)は、成長ホルモン注射の誤用や乱用による健康リスクに対して警告を発表
  • 「背を伸ばす注射」の誤解→成長ホルモン注射が「背を伸ばす注射」として誤解され、利用が増加していることに懸念
  • 市場規模→2023年の成長ホルモン製剤の市場規模は約4445億ウォン(485億円)に達し、年平均成長率は約31%
  • 副作用のリスク→正常な人が過剰投与すると末端肥大症や浮腫、関節痛などの副作用が発生するリスクがあるため、専門家の指導のもと、許可された範囲での使用が推奨される
  • 違法販売の取り締まり→誇大広告や違法なインターネット販売を取り締まるため、MFDSは17の地方自治体と連携し、医療機関や薬局での監視体制を強化

 韓国の食品医薬品安全処(MFDS)は成長ホルモン注射に関する注意喚起を発表し、誤用や乱用が健康に及ぼすリスクについて警告した。

 同機関によると、成長ホルモン注射が「背を伸ばす注射」として誤解されて使用されるケースが増えていると注意喚起している。成長ホルモン製剤の販売量である市場規模は23年に約4445億ウォン(485億円)となっているが、最近5年間の年平均成長率約31%で伸びているという。

 実際には成長ホルモン分泌障害、ターナー症候群などの小児成長障害、特発性低身長症などの特定の疾患に対してのみ使用が許可されている医薬品であることを強調している。

 「正常な人が長期間にわたって過剰投与すると、末端肥大症、浮腫、関節痛などの副作用が発生する。必ず許可された範囲内で専門家の指導に基づき注意して使用する必要がある」と説明している。

 さらに、誇大広告や違法なインターネット販売の取り締まりを強化するため、17の地方自治体と連携する。特に成長ホルモン注射を多く扱う医療機関や薬局での監視体制が強化され、違法広告や宣伝活動の摘発が進められる。

 MFDSはリーフレットを作成し、医療関係者や一般の人々に対し、適正な使用法についての情報提供を開始している。このリーフレットには以下の内容が盛り込まれている。

適切な使用疾患 成長ホルモン製剤が使用できる疾患として、成長ホルモン分泌不全性低身長症やターナー症候群、特発性低身長症などが挙げられている。
誤用のリスク 成長ホルモン製剤を健康な人に長期間使用した場合、末端肥大症や浮腫、関節痛などの副作用が起こる可能性があることが指摘され、必ず医師の指導のもと、許可された範囲内で慎重に使用するよう強調されている。

日本の不適切な使用にも「心配」

2024年8月「成長ホルモンの適正使用に関する見解」が改訂された。(出典/日本小児内分泌学会)

2024年8月「成長ホルモンの適正使用に関する見解」が改訂された。(出典/日本小児内分泌学会)

  • 日本国内の医療広告→フェイスブック広告などで、病気を前提とせずに医療機関で身長を伸ばす考え方が示されている
  • 日本の学会「見解」改訂→2024年8月、日本小児内分泌学会と日本内分泌学会が「成長ホルモンの適正使用に関する見解」を改訂し、この中で承認された対象疾患以外の使用は「効果が得られないことが多く、有害なことが起こる可能性がある」と明記された
  • SAGhE研究とリスク→フランスのSAGhE研究では、過去にがんを患った人でのがんリスク、特定のがんリスクが増加することが報告されている

 日本国内でも、Facebook広告などで身長を伸ばすことを強調した医療広告が出稿されており、病気を前提とせずに医療機関で身長を伸ばす考え方が広まっている可能性がある。

 24年8月、日本でも「成長ホルモンの適正使用に関する見解」が改訂され、日本小児内分泌学会と日本内分泌学会が本来の適用となる病気以外への使用への「心配」を表明している。

 この改訂版では「承認された対象疾患以外の病気や低身長に使用すると、効果が得られないことが多く、また、有害なことが起こる可能性があります」と明記され、対象疾患に限った使用が求められている。

 日本では、成長ホルモン分泌不全性低身長症やターナー症候群などが対象疾患として認められている。

 成長ホルモン使用をめぐっては、2010年にフランスで行われたSAGhE研究で死亡リスクがわずかに高まることが報告され、その後欧州と米国の公的機関が検証を行い、結果として米国FDA(食品医薬品局)は死亡リスクが上昇するという根拠は不十分と発表した。この中で、成長ホルモンは安全に使用できることが説明されたが、FDAはあくまで専門家の指示に従い承認された病気に使用するよう指摘している。同研究の検証結果を受け、日本小児内分泌学会は、「今までと同様にGH治療を受けられている皆様には、国内で承認された適応および用量を厳密に守りながら治療を継続されることを推奨致します」と発表した。GHとは成長ホルモンのことだが、日本でもあくまで承認された病気への使用を前提としている。

 なお、SAGhE研究は17年に新たな報告がなされ、過去にがんを患った場合にはがんのリスクや死亡率が上昇することが示されたほか、成長障害だけでも膀胱がんと骨がんのリスクが上昇することが示された。医薬品の使用には副作用が存在することを認識することが重要だ。

 「背を伸ばす注射」などといった考え方での安易な成長ホルモンの使用は思わぬリスクを子どもに抱えさせる恐れがある。医療が病気の治療ではなく身体能力を高めるために利用されることは「エンハンスメント」と呼ばれており、美容医療や身長を伸ばす医療に共通した考え方である。エンハンスメントにおいては、倫理的な問題をはらみやすいが、それ以前に安全性が保たれていることが大前提だ。

 韓国で警告が出される中で、日本でも「背を伸ばす注射」のような自費治療が安易に行われていないか、国や学会が監視を強化する価値はあるだろう。

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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