救急車を呼ぶかどうか迷っていたが、仰向けになると息がしにくくなり、本当に呼吸困難を感じるようになった。「これはまずいんじゃないか」。そう考えた瀬戸さんは夜中2時ごろについに救急車を呼んだ。
「救急隊の方も私の顔を見てびっくりしていました。これは緊急事態と言われ、近所の病院に搬送しようとしたのですが、どの病院も受け入れできないと言われてしまいました。結局、兵庫県の救急患者を断らないと有名な『神戸市立医療センター中央市民病院』に運んでもらいました。家から30分ほどかかったと思います」(瀬戸さん)
救急車を呼んでも、受け入れ先を探している間に悪化する可能性も考えられる。呼吸が止まったら一刻を争う。「事前に手を打たないといけないと痛感しました」と瀬戸さん。美容医療の手術を受けたときには、不測の事態が起きた場合にどのように対応すべきかを、医師に相談しておくことは重要だろう。
「脂肪吸引は呼吸器周りに影響が出るんだなと実感しました」(瀬戸さん)
情報として知ってはいても、まさか自分がそうなるとは思わないもの。「脂肪吸引は気軽に受ける人が多いと思うんです。多分年間何万人も受けていると思います。それで死亡や重篤な事故はまれなことだろうと思っていました。交通事故に遭うような低い確率だろうと。まさか自分がその確率を引くとは思っていませんでした」と瀬戸さんはいう。
MRIなど各種検査の末、医師たちは「このままでは呼吸が止まる可能性がある」と判断し、ICU行きを決定。鎮静剤を投与され、鼻から挿管することで辛うじて気道を確保した。幸い外科的な手術は行わず保存的治療で対応可能だった。看護師たちが痰の吸引を繰り返し、鼻や喉は痛んだ。
「3日間はほとんど意識もはっきりしない状態でした。その後ようやく一般病棟に移って、少しずつ良くなりました」と瀬戸さんは振り返る。
首の回りが腫れてたんこぶのように
筆者が瀬戸さんに会った日は、瀬戸さんが退院してから2週間ほどが経過した12月11日。
「だいぶ腫れは引きましたが、まだ血腫がたんこぶのように大きく腫れ上がっています。首が全然上に向かないし、口もあまり開きません。もともと歯科治療中で差し歯のメンテナンスが必要だったんですけど、今は口が開かなくて歯医者にも行けない状態です。接骨院など他の通院も全部ストップせざるを得ません」(瀬戸さん)
首の周りが硬くなっており、まさに頭にたんこぶができた時のような状態になっている。
なお、瀬戸さんの今回のトラブルが起きる前の写真も見せてもらったが、首の周りが血腫によって大きく腫れたことが理解できる。
2~3カ月で腫れが引くと言われており、「激しいダウンタイム」というのが瀬戸さんの実感という。薬は飲んでおらず、幸い健康面の問題は起きていない。
一方で、緊急事態が起きたときの連絡が困難であるという課題が浮かび上がる。
瀬戸さんによると、施術をしたクリニックには当日、連絡が取れなかった。
「大手だと緊急連絡先がある場合もありますが、今回のクリニックはそういうのがありませんでした。夜10時くらいに腫れて、これおかしいぞって思ったけども、美容クリニックには連絡がつかなかった。やばいなと思って救急車を呼ぶしかなかった」(瀬戸さん)
治療費については、神戸市立医療センター中央市民病院と美容クリニックとの間のやり取りで、美容クリニックにより賄われた。瀬戸さんはここに掛かった治療費は知らされていない。自費診療のトラブルに対する治療であり、これは保険適用外となり、全額を負担することになった可能性がある。その後、美容クリニックからは看護師から様子伺いの電話が来るにとどまった。
SNS発信した理由
トラブルの後、11月25日朝にSNSで情報発信した。その後、眠りについたが、起きたら、多くの反響があり驚いた。
瀬戸さんは、「死んでたかもしれないと思うと、まだ幸運だったと思います。他の人に知ってほしいと思ったから発信しました。安易に受けるとこういうリスクがあることを知ってほしかったんです」と話す。「受けようと思ったけどやめたという声もありました。参考にしていただいた人もいました」(瀬戸さん)。一方で、「救急車の無駄遣いするな」という心ない声も寄せられたが、命の危険があった中での判断であり、批判は疑問を感じるという。
顔の脂肪吸引はリスクが高いという警鐘を鳴らせたことは良かったと瀬戸さんは感じている。
今回のケースは、本人が想定していなかった危機的な状況を通して、美容整形の「副作用」と「危険な状態」の境界線を判断する難しさと不測の事態が起こったときのために事前にしておくべき連絡先の確保や対処法の準備を一般の目に明らかにしたと言える。瀬戸さんは「誰にでも起こり得ること。これをきっかけに、リスクへの理解や緊急時の体制整備が進むことを願っています」と話している。(終わり)