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【独自】厚生労働省の文書入手、美容医療後の後遺症への保険診療で医師に戒告

カレンダー2023.5.24 フォルダー 国内

 美容外科手術や豊胸術など、美容医療が原因で生じた合併症・後遺症(がんなども含む)などの身体被害の治療については、原則的に健康保険が適用される。例えば、豊胸術に失敗して乳房を摘出しなければならない場合は、豊胸術の費用は全額自己負担でも、摘出手術費用の大部分は、保険が適用され、少ない負担で済む。

 だが、ヒフコNEWS編集部の取材で、厚生労働省の幹部が美容医療関係者との会合で、美容医療後遺症への保険適用について、「因果関係がはっきりしなければ、健康保険は適用されるであろう」と述べ、明言はしないものの、美容医療合併症・後遺症の治療に保険を適用してはならないと行政指導していることが明らかになった。(「【独自】美容医療で生じた合併症や後遺症、健康保険で治療しないよう厚労省が「行政指導」か」参照)

 さらに取材を進めると、今回新たに、厚生労働省が美容医療後遺症に保険診療を行った医師個人に対して行政による厳重注意に当たる「戒告」を出していたことが分かった。

「重大な過失」として医師に厳重注意

「保険外診療に起因する有害事象に対する診療」についての問題点を指摘している。出典/ヒフコNEWS編集部が入手した戒告の文書

 問題の戒告は2019年3月付で、首都圏や信越地方を管轄する関東信越厚生局が出している。厚生局は2016年頃、美容医療後遺症外来を持つ大学病院に、健康保険法に基づく監査を行っていた。

 この大学病院では、シリコンバッグの挿入による豊胸術や注入豊胸による後遺症や合併症の治療を手掛けており、監査が行われた当時で500近い症例実績があった。

 ヒフコNEWS編集部が入手した文書によると、厚生局は監査の結果、「保険外診療に起因する有害事象に対する診療について、保険診療したとして診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた」と事実認定を行い、「重大な過失により、不正又は不当な診療を行った」として医師に戒告を出している。

 関係者によると、ここでいう「保険外診療」とは、豊胸術などの美容医療のことを言う。また、「不実記載」とは、診療録に豊胸術後障害の診断名を乳房腫瘍、乳がん疑い、ヒトアジュバント病疑い、悪性リンパ腫疑い、などと記載をし、保険で血液検査や画像検査(CT、MRI等)を行ったことを指しているという。

「自費でやったものは、最後まで自費が基本」と関東信越厚生局

日本形成外科学会元理事長の細川亙氏は美容医療合併症・後遺症への治療への健康保険の適用を否定する厚労省の指導を批判している。(写真/編集部)

 厚生局は戒告の根拠として、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」や、「高齢者の医療の確保に関する法律」の規定による「療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準」といった法令違反を挙げている。

 だが、いずれの条文を見ても、保険外診療を原因とする有害事象への保険適用を禁止してはいない。

 なお、ヒフコNEWS編集部は今年3月、関東信越厚生局(医療課)に「美容医療合併症・後遺症に対する治療を、保険診療で行わないよう指導した事実はあるか」と取材を申し込んだが、「そのような事例は関東信越厚生局にはない」と回答していた。

 ヒフコNEWS編集部は5月下旬に、厚生局に改めて美容医療後遺症への保険適用に関するスタンスを取材したところ、「保険外診療に起因する有害事象を保険診療してはならないということは、明文化された法律はないが、保険医療機関及び保険医療養担当規則で定められる特殊療法の禁止や、一部負担金の受領などに照らして、個別に判断している。美容医療後遺症の全てを保険診療してはいけないというより、ケースバイケースで判断している」、「最終的には個別の判断になるが、一般的には、自費でやったものは、最後まで自費、というのが基本的な考え方」と電話で回答した。

 美容医療合併症・後遺症への治療への健康保険の適用を否定する厚労省の指導については、日本形成外科学会の元理事長で大阪みなと中央病院の細川亙病院長が「健康保険法に違反している」と批判している。

参考文献

【独自】美容医療で生じた合併症や後遺症、健康保険で治療しないよう厚労省が「行政指導」か
https://biyouhifuko.com/news/japan/885/

「医師等の行政処分のあり方等に関する検討会報告書」の公表について
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/12/s1216-5.html

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Author

フリーライターとして継続的に医療や経済などの幅広い分野の取材を続けている。女性誌や一般誌に記事を発表している。「2022年度・小河正義ジャーナリスト基金」助成者。

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