美容整形を海外で受ける前に知っておきたいこと、米国の研究から学ぶ潜在的なリスク
ポイント
- 海外で美容医療を受けるときには合併症や高額な治療費などのリスクがある
- 米国の研究グループが調査したところ、感染症や痛みなどが多いと判明した
- リスクなどに関する情報をあらかじめ入手することが役立つ可能性がある
海外で美容整形を受ける日本人が増えていると見られるが、海外で手術を受けることにはリスクも伴う。ヒフコNEWSで伝えた通り、21年の調査によると重い後遺症を経験した人の大半が日本国外で受けた施術によるものだった。日本ではあまり研究論文になっていないものの、海外では医療ツーリズムによる美容整形の問題点を探る研究がある。そのうちの一つ、米国での研究を見てみよう。
米国の医療ツーリズムと美容整形手術のリスクを調査
海外の国を訪ねて医療を受けることを「メディカルツーリズム」と呼ぶ。美容医療の目的のためのメディカルツーリズムも活発で、海外の医療機関で自分の国よりも安く手術を受けられ、併せて休息も取れるということで人気を集めている。
しかし、海外で美容整形手術などを受けた場合、万が一、帰国後に合併症が起きたときに、その合併症に対処する手段が、治療を受けた本人にも、手術を行った海外の医療機関にもない場合がある。そのようなときには自分の国の医療機関で対処するしかない。メディカルツーリズムではこのような問題が起こる可能性がある。
このたび米国の研究グループは、美容整形などのために海外に渡った人が経験した合併症に関する研究報告を集めて分析した。グループは2023年2月に、その結果を美容整形分野の医学誌エステティック・プラスティック・サージェリーに発表した。
研究グループは、1119件以上の論文を検討し、米国で報告された治療後の合併症を含む20件を選び、海外で美容整形を受けることのリスクを分析した。年齢や性別などの特徴、手術の種類、発生した合併症などを調べた。
感染症や痛みなどが多く報告されていた
そこで分かったのは、米国から海外に渡航して治療を受けると、感染症にかかるなどの問題が発生して、時には帰国後の治療費が高額になるケースがあるということだ。
研究グループは、他国で美容整形手術を受けた後に合併症を経験した214人について報告した。 平均して各論文には12.55人に関する情報が報告され、9つの論文では1人のみ報告されていた。 ほとんどが女性で、年齢は19歳から64歳まで。手術を受けた国は次の通りだ。
治療を受けた国 | 人数 | % |
---|---|---|
ドミニカ共和国 | 177人 | 82.7% |
メキシコ | 9人 | 4.2% |
コロンビア | 8人 | 8% |
ブラジル | 4人 | 2.3% |
ベネズエラ | 3人 | 1.4% |
グアテマラ、プエルトリコ、アルゼンチン、中国、エルサルバドル、トルコ、シリア、パナマ | 各1人 | 各0.5% |
複数・不明 | 5人 | 2.3% |
合併症の報告された美容医療の内訳(重複あり)は次の通りだった。
施術内容 | 人数 | % |
---|---|---|
腹部脂肪切除(タミータック) | 114件 | 35.7% |
脂肪吸引 | 57件 | 17.8% |
豊胸術 | 52件 | 16.3% |
フィラー治療(部位問わず) | 20件 | 6.2% |
乳房縮小術 | 18件 | 5.6% |
ブラジリアンバットリフト(BBL) | 15件 | 4.7% |
脂肪注入(部位問わず) | 2件 | 0.6% |
フェイスリフト・眼瞼形成手術 | 2件 | 0.6% |
顔面のインプラント手術 | 2件 | 0.6% |
乳房インプラントの交換 | 1件 | 0.3% |
鼻の整形 | 1件 | 0.3% |
不明 | 34件 | 10.6% |
主に報告された合併症は次の通りである。感染症の発生が目立った。
合併症 | 人数 | % |
---|---|---|
手術した場所の感染症や蜂窩織炎 | 112 | 50.9 |
痛み | 17 | 7.8 |
傷がはがれたり、正常に治らない | 16 | 7.3 |
肉芽腫(かたまりができる) | 14 | 6.4 |
美容上の不満 | 12 | 5.5 |
※蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚の内部に細菌が感染して、赤く腫れたり痛みが出たりする状態のこと。肉芽腫(にくげしゅ)は、傷などに反応して組織がかたまりをつくる状態。
半数以上の人は帰国後に合併症への対処のためにさらなる手術を必要とし、治療期間は平均で2カ月以上で、最長で1年かかった。
美容整形ツーリズムを原因とした合併症は、治療費が1万5083ドルから15万4700ドルと非常に高額だった。日本円で計算すると約200万円~約2000万円になる。治療の経済的な負担のために家を失った人もいた。米国の医療保険の仕組みは日本とは異なるので、日本とは単純に比較はできないものの、海外で医療行為を受けた後の不測の事態にかかる費用が思いのほか高額になる場合があることには注意すると良いかもしれない。
今回の研究は多くが中南米で行われ、日本から海外に美容整形のために渡航する場合に利用される韓国やタイなどとは状況が異なる。しかし、日本においても海外での施術を受けるときには、一定のリスクも想定して、情報収集を怠らないようにするなど慎重に検討することは重要だろう。
参考文献
McAuliffe PB, Muss TEL, Desai AA, Talwar AA, Broach RB, Fischer JP. Complications of Aesthetic Surgical Tourism Treated in the USA: A Systematic Review. Aesthetic Plast Surg. 2023 Feb;47(1):455-464. doi: 10.1007/s00266-022-03041-z. Epub 2022 Oct 31. PMID: 36315261; PMCID: PMC9619012.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36315261/
「異物肉芽腫、しこり形成」が美容治療の合併症では最多、厚労省研究班報告
https://biyouhifuko.com/news/japan/1248/
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