
城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長
- 裏留め埋没法は慎重に判断→裏留めは技術的難易度が高く、トラブル時の抜糸が困難になるため、小川氏は積極的に採用していない。
- 全切開手術は不確定要素が多い→術後の癒着や生体反応の個人差により、仕上がりに影響が出やすく、非常に難易度が高い。
- 正解の術式はなく試行錯誤が重要→世界的に確立された方法はなく、記録・検証・発信を通じて、自身の技術を磨くことが必要とされている。
──裏留めを求める人は多いが、課題もある。
小川氏: 裏留めの埋没法自体はすでに日本で浸透しており、上手に行い結果が良好な医師も多いはもちろん事実としてあります。しかし、裏留めは技術的に未熟な医師が行うと抜糸が困難になるケースもあり、個人的にはあまり好んで採用していません。
複雑な留め方によって取れにくくする方法もありますが、従来の方法だけで大きな支障があったわけではなく、それが本当に医療的メリットに基づく改良なのか、それとも「売れるための変化」なのか、判断が難しいのが実情です。
──埋没法のトラブルを聞くことは確かに多い。
小川氏: 埋没法一つを取っても、実にさまざまな手法が出てきているわけです。繰り返しになりますが、施術を受ける側にとって、「腫れが少ない」や「傷ができない」といった要素は確かに魅力的です。しかし私は、こうした術式の多くが、医学的に施術をより良くするためというよりは、ニーズに上手に応えることでクリニックの収益化を図る目的で開発された側面が強いと見ています。
──メスを入れるアプローチは?
小川氏: 「眼瞼下垂手術」や「全切開重瞼術」となると話は全く別になります。
特に全切開は、私自身、どれだけ症例を重ねても「簡単だ」と感じたことは一度もありません。
二重を形成する過程では、術後に起こる癒着や組織の食い込みといった「生体反応」によって仕上がりが決まってきます。たとえ左右対称に切開したとしても、癒着の強さや、まぶたの縁、まつ毛の生え際からの食い込み具合など、定量化できない要素によって結果が大きく左右されます。
──「生体反応」を踏まえた仕上がりを考える必要がある。
小川氏: 言い換えれば、シミュレーション通りに仕上がりを予測できる埋没法とは異なり、全切開では術中の操作だけではなく、術後の患者様それぞれの体のもつ生体反応という不確定要素をいかにコントロールするかが重要になります。
そこにこそ、この手術の難しさがあり、同時に奥深さもあると感じています。
──二重手術は難しい。
小川氏: 実際には東アジア圏が中心とした世界の論文を探っていても、「このデザインと操作なら誰が行っても失敗しない」という決定的な術式はまだ提示されていません。
もし本当に優れた術式があるのなら、いずれ二つか三つの型に収斂していくはずですが、現状では各術者が無数の選択肢から自分なりの「流儀」を組み立てている段階です。
だからこそ私は、毎症例を詳細に記録・解析し、学会やSNSで積極的にアウトプットを行いながら、トラブル率や術後満足度を定量的に比較するサイクルを日常的に回しています。
完璧な正解が存在しない以上、地道な試行と検証の積み重ねこそが、前進するための唯一の道だと確信しています。

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
- 技術は常に見直しと検証が必要→目元手術は10年以上携わっても難しく、術式の改良とデータによる検証が不可欠。
- 長期的な経過観察が技術向上に直結→同じ院に長く勤めることで、施術後の経過を追える点が大きな学びとなる。
- 短期で移動する医師への懸念→転々とする医師は施術の結果を見届ける機会が少なく、技術の深まりに疑問があると指摘。
──施術を通して常に腕を磨き続ける必要がある。
小川氏: 目元の手術は10年以上取り組んでいても飽きるどころか、いまだに悩まされ続ける領域です。
だからこそ私は、毎年術式を見直し、過去のデータと照らし合わせながら、「どの方法がトラブルの発生率を下げるか」、「どこに施術を希望している方々の不満が集中しているか」を必ず検証しています。
改良を怠れば、すぐに時代遅れになる。それが、美容外科の現実です。
──長く携わっていくと改善が続く。
小川氏: 同じ院に腰を据えて診療を続ける最大の利点は、自ら執刀した症例の「その先」を、何年にもわたって追跡できる点に尽きます。
美容外科は奥深い分野で、10年以上携わっていてもなお課題が尽きませんが、長期のフォローアップが可能かどうかで、技術の伸びしろは大きく変わってきます。
例えば、トラブル率を数値化することができます。 「どういった理由で施術を受けた方から不満が出るのか」、「どのような施術に満足度の差があるのか」といったデータが蓄積されれば、フィードバックを通じて施術を改善し、常に最適な状態を保つことが可能になります。これは、美容外科に限らず、どの分野の技術にも共通して言えることだと思います。
だからこそ、長く同じ院にいるということには意味があるのです。10年前に担当した方の経過を今でも見ています。その経験が、自分自身にとって大きな学びになっています。
──その後を理解できるのが大きい。
小川氏: 最近でも、4年ほど前に私が鼻の手術を担当した方が来院され、「最近になって傷が少し気になる」と話されていました。
当時は今と比べてデザインや切開の方法も異なり、「ああ、4年前はこういう術式だったな」と振り返ることができたのです。もちろん今のほうが知識も技術も向上し、正直に「当時はこの方法だったから、こういう結果になったのかもしれないね」と説明できる。そうした術後の経過に対する責任を自分で引き取れることは、医師にとって大きな意味があると思います。
──美容医療の世界では、クリニックを移っていく医師も多い。
小川氏: 1〜2年ごとにクリニックを転々としながら最終的に開業という道も否定しません。でも、それだと自分が手がけた症例の結果を見届けないまま次に進んでしまうことになり、果たしてそれで本当に技術が深まっていくのか、私は疑問を感じています。
だから私は、一つのクリニックには少なくとも3〜4年は腰を据えてほしいと思っています。実際、「自分がやった結果を見たがらない医師」が多い印象もありますが、そこから目をそらさずに、きちんと経過を見て、学びに変える姿勢が本当に大事だと感じます。(続く)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
プロフィール
小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長
2008年3月、九州大学医学部医学科卒業後、佐田厚生会佐田病院研修医、九州大学病院研修医を経て、10年4月に九州大学病院脳神経外科。12年9月に美容外科専門クリニック入職を経て、2014年12月城本クリニック。日本美容外科学会専門医(JSAS)。
