「細川亙 現代美容医療を殿が斬る」では、日本形成外科学会理事長をはじめ、多くの要職を歴任し、米国形成外科学会名誉会員でもある細川亙氏が、現代美容医療が抱える様々な問題に鋭い視点で問題提起する。「殿」というのは、細川氏が細川ガラシャの子孫だから。その源流は明智光秀に通じる。そんな歴史的背景を持つ細川氏が現代に舞台を移して美容医療の分野で一刀を振るう。激動の美容医療の世界をどう治めるのか。
第9回テーマ「タトゥー施術関連の厚生労働省通知」
「タトゥー施術が医行為であるか」は、従来、裁判で争われ、最高裁判所でタトゥー施術は医行為ではないと判断された経緯がある。そうした中で、タトゥー施術とアートメイクとの差が注目されている。厚労省はアートメイクを医行為の一環であると位置付ける通知を2年前に出しているが、この8月にあらためて発出している。細川氏は従来この厚労省の通知に疑問を呈してきたが、再度、その妥当性を問うている。
厚生労働省医政局長から令和7年8月15日付で、都道府県知事、保健所設置市長および特別区長を宛先に「美容医療に関する取扱いについて」と題した通知が発出された。その中でアートメイクについて以下のような記述があった。
「いわゆるアートメイクに関して、針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為のうち、施術箇所に本来存在しうる人体の構造物(眉毛、毛髪、乳輪・乳頭等)を描く行為及び化粧に代替しうる装飾(アイライン、チーク、リップ等)を描く行為は、医行為に該当するものである。そのため、例えば、「○○メイク」「○○タトゥー」といった「アートメイク」以外の名称で提供されていたとしても、かかる行為に該当するものは医行為に該当する。」
厚労省は平成13年に「タトゥーの施術」を「医行為」とみなすとする行政通知を出したが、最高裁判所は令和2年9月、タトゥーの施術は医行為に当たらないとする決定を下し、厚労省の出した行政通知を否定した。ところが令和5年7月に厚労省は「アートメイク」だけはタトゥーの中でも医行為とみなすという通知を新たに発出して最高裁判所決定を部分的に否定する姿勢を示した。この令和5年の通知については私の他、法律関係者や立法府構成員(衆議院議員)からも強い疑念が示されているが、それにも関わらず、医行為とみなすタトゥー施術の範囲を増やす通知を今回厚労省は発出したのである。
タトゥー施術に関して安全性を確保するための施策は?
本来、「タトゥー」というものはまさに「化粧に代替しうる装飾」そのものである。顔に歌舞伎役者風のタトゥー装飾を入れたり背中に龍をタトゥーで描いたりすることも「化粧に代替しうる装飾」である。つまり今回厚労省は「タトゥーはすべて医行為である」とも解釈できる通知を発出したのである。これは最高裁決定を全否定するに近いものである。
法律的な解釈からすれば厚労省の通知は行政機関としての権限を逸脱している。しかし現実に国民の保健衛生上の必要性からタトゥー施術に関して安全性を確保するための施策を実施すべきであると厚労省が考えているのであれば、その姿勢は尊重すべきである。ところが令和2年の最高裁決定から5年間も経っているが、厚労省は彫り師によるタトゥー施術について何ら保健衛生上の問題が生じているとは認識しておらず、また対策を取ろうともしていない。
彫り師がタトゥーすることによって国民に保健衛生上の被害を生じているという認識が厚労省にはないにもかかわらず、厚労省がこの度医行為としてのタトゥーの範囲を一層拡大する通知を発出したのはなぜか?
最高裁に否定された通知を出した先輩官僚への忖度とか、最高裁に対する意趣返しであるとか、厚労官僚の意地であるとか、そのようなものであろうと私は推測する。近年、財務省官僚が政治家に忖度して行政が捻じ曲げられたり、警察や検察が無辜の人に犯罪を擦り付けようとしたことが明らかになったりしてそれらの組織の責任が追及されている。すでに厚労省は平成13年の通知で彫り師の医師法違反という犯罪を捏造した前科がある。この前科に対する反省もなくまたぞろ今回のような通知を出すのは、もう過失というよりは故意の犯罪と言っても良い。最高裁の決定に明らかに反した通知を出し、これにより医師法違反の犯罪が捏造される事態になればその時は厚労省という組織とともに発出した厚労省医政局長の責任も追及されねばならない。
