
中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
中田元子(なかた・もとこ)氏
Mスキンクリニック院長
- レーザー治療は1回で終わらない → 日本人は炎症後色素沈着(PIH)を起こしやすく、1回のスポット照射でも準備からアフターケアまで約6カ月を要する。レーザー後の経過観察が治療の一部。
- 出力調整が難しい → 効果・痛み・ダウンタイム・合併症リスクは連動。出力を下げすぎると結果が出ず、強すぎるとリスクが高まる。限られた回数の中で結果を出すバランス感覚が重要。
- 経験の積み重ねが鍵 → 推奨パラメーターを基準に始めても、症例ごとに反応が異なる。肌質・季節・生活背景などを踏まえた微調整が不可欠で、実際はマニュアル通りでは良い結果は出せない。
──シミのレーザー治療の考え方とは。
中田氏: シミ治療というと、「レーザーを1回当てればきれいに消えて、そのままずっとキープできる」とイメージして来られる方も少なくありません。
実際にはそう単純ではありません。
特に日本人を含むアジア人の肌は、欧米人に比べて炎症後色素沈着(PIH)を起こしやすく、ひとつのシミのスポット照射だけでも、準備からアフターケアまでを含めると、だいたい6カ月くらいを一つの流れとして考える必要があると私は思っています。
──治療には時間を要する。
中田氏: はい。まず、スポット照射であれば2週間以上、全顔照射「トーニング」なら1カ月以上、スキンケアの見直しや、内服薬や外用薬などの「レーザーに向けた準備期間」を取ります。
その上でスポット照射を行うと、いったんかさぶたができて1〜2週間で剥がれ、その瞬間はとてもきれいに見えます。しかしその後、多くの方で炎症後色素沈着が出てきて、そこから数カ月かけてゆっくり引いていく。最初のレーザーから時間をおいて、「今回の結果」と評価できるのは、数カ月後です。
「トーニング」であれば、複数回の治療が前提ですので、もう少し長くなります。
ですから、私の中では「1回レーザーを当てる」というのは、その前後を含めた数カ月のプロセスの一部であって、「その日だけで完結するイベント」ではないと考えています。
──レーザー治療が「難しい」理由。
中田氏: レーザー治療というのは、単純明快なものではなく、奥が深い難しい治療だと感じています。出力を上げれば効果は出しやすいかもしれませんが、その分、ダウンタイムの遷延や合併症のリスクも伴います。逆に、リスクを恐れて弱くし過ぎると、今度は全く効果が出ないということにもなりかねません。
私はいつも、効果、痛み、ダウンタイム、合併症リスクはある程度連動しているとお話ししています。しっかり結果を出そうとすれば、どこかである程度「攻める設定」に踏み込まざるを得ない。
一方で、安全だけを優先して出力を落としていくと、弱い設定を10回重ねても、必ずしも満足いく結果にならないことが多い。
フェイシャル系のレーザートーニングやIPLなどは、「合併症は絶対に出したくないから弱めに」という判断になりがちですが、弱い設定で回数を重ねれば同じ効果が得られるわけではないのです。
レーザーは、「回数を重ねれば解決するという治療ではなく、ある程度限られた回数の中で結果を出さなければいけない治療」というところが難しい点だと感じています。
──経験に基づいた対応?
中田氏: 多くの先生がレーザー機器を導入されるとき、メーカーから「このシミにはこの設定で」「この病変には、この出力で」といった推奨パラメーターの説明を受けられると思います。それを基準にスタートするのは当然だと思います。
ただ、実際に臨床で使ってみると、うまくいく症例もあれば、「もう少し違う設定の方がよかったのでは」と感じる症例、合併症が出てしまう症例、ほとんど効かなかった症例など、必ずバリエーションが出てきます。
結局のところ、他の治療と同じで、1例1例を振り返りながら「この方の皮膚、この病態、この季節、この生活背景で、この設定は妥当だったのか」を検証していくしかありません。その積み重ねが、最終的に「経験値」として蓄積されていく。
レーザー治療は、マニュアルがあれば誰でも行える治療ととらえられがちですが、良い結果を出そうと思えば、実際はそうではないのです。

「6カ月を1セット」で考える。中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
- 治療は「長期プロセス」として設計 → シミ治療は1回で終わるものではなく、炎症後色素沈着(PIH)を防ぎながら6カ月程度をかけて肌の変化を見守る流れ。中田氏は、経過やリスクをまとめた資料を活用し、治療全体を理解しやすいよう工夫している。
- 「美容のかかりつけ医」という考え方 → 一気に治療して終わりではなく、加齢の進行を見据えて長期的にメンテナンスすることが重要。信頼できる医師・クリニックと継続的に関係を築くことが、美容の成果を安定させる鍵になる。
- 無理のない通院ペース設計 → 通院頻度は個人差があり、月1回から数カ月に1回まで柔軟に対応。特に肝斑などでは、紫外線・スキンケア・ストレス・ホルモンなど多要素を踏まえ、ライフスタイルに合った治療戦略を一緒に考えることが大切。
──「6カ月を1セット」で考える、現実的なゴール。
中田氏: シミ治療のカウンセリングの場面では、最初にかなり詳しく経過やリスクを説明しても、その全てを一度で理解するのは無理だと思います。
ですから私は、色素沈着の出方や経過、起こり得るトラブルを図と文章にまとめた資料をお渡しして、あとから不安になったときに見返していただけるようにしています。
アジア人の肌は炎症後色素沈着を起こしやすく、特に日焼けしやすい方、専門的に言うと「フィッツパトリック分類」でスキンタイプが高い方ではリスクが高まります。
そのため、スポット照射にしてもトーニングにしても、「6カ月程度を一連のプロセスとして要する」というイメージでお話しするようにしています。
また、美容医療全般について、私がいつもお伝えしているのは、「一気に治療して終わり」ではなく、「細くてもいいから長く続けることが大切」という点です。例えば、1年ほど定期的に通っていただき、良好な肌状態になったとしても、そこで完全にやめてしまうと、どうしても後戻りが起こります。
老化そのものは日々進んでいくので、良い状態を維持するためには、その方のライフスタイルに合わせたメンテナンスが必要です。
その意味で、私はよく「美容のかかりつけ医」という言い方をします。あちこちのクリニックを転々とするよりも、ご自身に合う医師やクリニックを見つけて、長く付き合いながら、自分のペースで老化やシミと向き合っていくことが、現実的でストレスの少ないやり方だと感じています。
──現実的な通院ペースも考える?
中田氏: 通院ペースについては、本当に人それぞれです。毎月きちんと通える方もいれば、3カ月に1回くらいが限界という方、もっと間隔を空けながら続けている方もいらっしゃいます。
大切なのは、「一気に治療して終わり」という発想ではなく、ご自身の生活に無理のないペースで長期的に肌と向き合っていくことだと思っています。
特に肝斑のような難治性の病変では、治療そのものだけでなく、紫外線とのつき合い方、スキンケアの習慣、ストレスやホルモンバランスといった要素も影響してきます。ですから、仕事や家庭環境、ライフスタイルを伺いながら、「この方にとって現実的な戦略は何か」を一緒に考えるようにしています。(続く)
プロフィール

中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
中田元子(なかた・もとこ)氏
Mスキンクリニック院長。1996年東京女子医科大学医学部卒業、同年同大学形成外科に入局。2004年より東京医科大学皮膚科、2007年より東京女子医科大学東医療センター美容医療部に勤務し、皮膚科・美容医療の診療経験を重ねる。2019年にMスキンクリニックを開設し、2021年には医療法人社団Mスキンクリニックとして法人化。日本レーザー医学会、日本美容皮膚科学会、日本医学脱毛学会、日本臨床皮膚外科学会、日本皮膚科学会、日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)などの学会に所属し、形成外科と皮膚科の両面から美容医療に取り組んでいる。
記事一覧
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シミのレーザー治療は1回では終わらない、半年スパンで見る理由とは、最初の1カ月は「肌づくりの準備期間」、Mスキンクリニック院長の中田元子氏に聞く Vol.1
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レーザー治療は光の波長を使い分けてシミを取りにいく、3つの波長の力を最大限に引き出す、Mスキンクリニック院長の中田元子氏に聞く Vol.2
https://biyouhifuko.com/news/interview/15560/ -
レーザー治療は攻めよりもまずは安全を優先、合併症を防ぐ丁寧な治療プロセス、Mスキンクリニック院長の中田元子氏に聞く Vol.3
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肝斑治療はいきなりレーザーに行かない、まず整える期間、慎重なレーザー判断を「長期戦」で、Mスキンクリニック院長の中田元子氏に聞く Vol.4
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