メスを使わず、フィラーを注入して鼻の形を整える「非外科的鼻形成」は、広く行われている美容医療の一つだ。一方で、極めてまれではあるものの、血管が詰まることで視力を失う深刻な合併症が報告されている。
米テキサス大学の医療系研究機関の研究グループが、鼻へのフィラー注入後に視力を失った症例を系統的に調べたところ、視力障害の82%が注入直後に発生し、完全に視力が回復したのは27%にとどまることが分かった。研究成果は2026年8月に発表された。
視力喪失の82%は直後に発症、完全回復は27%

鼻へのフィラー注入は手術を伴わない一方、血管閉塞による視力障害など重い合併症が報告されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 視力障害の82%は注入直後→ 鼻へのフィラー注入後に視力を失った22例を分析すると、多くは施術直後に発症していた。
- 鼻梁・鼻背への注入が最多→ 注入部位では鼻梁または鼻背が最も多く、使用製剤ではヒアルロン酸が半数を占めた。
- 完全回復は27%→ ヒアルロニダーゼなどの治療が行われても、視力が完全に戻らないケースが少なくなかった。
ヒアルロン酸などのフィラーを使った美容医療は、手術を伴わずに顔の輪郭や立体感を整えられる。一方、顔には目につながる細い血管が複雑に走っており、フィラーが誤って血管内に入ると、重い血流障害につながることがある。
特に注意されてきたのが、鼻や眉間、額など顔の中央部だ。
2026年の研究では、この中でも「鼻の非外科的形成」に焦点を絞った。研究グループはデータベースを検索し、重複を除いた1498件の文献を調査した。条件を満たした21報、計22例の視力喪失について、年齢や性別、フィラーの種類、注入場所、治療法、視力の回復などを整理した。
なお、今回の研究は過去に報告された症例を集めたものだが、鼻へのフィラー注入を受けた人の視力喪失の発生頻度を示した研究ではない。
22例の平均年齢は33.4歳で、90.9%が女性だった。使われたフィラーではヒアルロン酸が50%と最も多かった。
注入部位は18例で報告されており、このうち5例では複数の場所に注入されていた。鼻梁または鼻背への注入が12例と最も多く、眉間が6例だった。原著ではそれぞれ57%、29%と報告されている。
さらに大きな問題になるのが、その後の視力回復だ。完全な視力回復が確認されたのは27%にとどまり、回復までには平均5.3カ月を要していた。ヒアルロン酸を分解するヒアルロニダーゼをはじめ、ステロイドや抗菌薬などさまざまな治療が行われていたものの、視力障害が元に戻らないケースが少なくなかった。高気圧酸素療法については有望な可能性が示されたものの、研究グループは効果を判断するにはさらなる検討が必要としている。
鼻や眉間への注入、目の血管まで詰まらせる可能性

鼻の美容医療では、外科的手術だけでなくフィラー注入などの非外科的治療でも安全対策が重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 血管閉塞が原因と考えられる→ フィラーが顔面の動脈に入り、眼動脈系へ流れ込むことで網膜などへの血流を遮る可能性がある。
- 鼻や眉間は高リスク部位→ 過去の233例のレビューでも、鼻と眉間は視力喪失につながった代表的な注入部位だった。
- 予防と迅速対応が重要→ 確立した治療法がないため、血管解剖の理解、慎重な注入、十分なリスク説明が特に重要になる。
こうした厳しい予後は、以前から指摘されている。
2022年にブラジルのサンパウロ大学の研究者らが報告したレビューでは、世界で報告された233例を分析し、鼻と眉間が代表的な注入部位となっていた。患者は若い女性が多く、ヒアルロン酸や自家脂肪の注入後に突然の視力低下を起こすケースが目立っていた。
原因として考えられているのが、フィラーによる血管の閉塞だ。フィラーが顔面の動脈に入り、血流とは逆方向に押し戻された後、目に血液を送る眼動脈系へ流れ込むと、網膜などへの血流を遮断する可能性がある。
レビューでは、眼の痛みのほか、まぶたが下がる眼瞼下垂や、眼球を動かしにくくなる眼球運動障害などを伴うケースも報告されている。
同レビューでは、顔面フィラー後に視力喪失を来した233例のうち、最終的に172人で少なくとも片眼に重度の視力障害が残っていた。血管の閉塞が広範囲に及んだケースでは予後が悪く、脳梗塞など神経系の合併症を伴う症例も報告されている。現時点では、フィラーによる視力喪失に対して確立された治療法があるとは言い難い。
今回の研究では、発症後の治療だけに頼るのではなく、顔面の血管解剖を十分に理解した上での慎重な施術と、異常が起きた場合の迅速な対応が重要だと指摘している。非外科的鼻形成は手術に比べて手軽に見える美容医療だが、施術を行う側の十分な解剖学的知識と安全対策、適切なリスク説明の重要性を浮き彫りにしている。
参考文献
Pistone ES, Patel MM, Brondeel K, Nguyen P, Smith JM. Vision Loss Following Nonsurgical Rhinoplasty Injections: Systematic Review of Cases and Management. Aesthet Surg J. 2026 Aug 28\:sjag174. doi: 10.1093/asj/sjag174. Online ahead of print. PMID: 42660550.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42660550/
Kato JM, Matayoshi S. Visual loss after aesthetic facial filler injection: a literature review on an ophthalmologic issue. Arq Bras Oftalmol. 2022;85(3):309-319. doi: 10.5935/0004-2749.20220048. PMID: 34852044; PMCID: PMC11826751.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34852044/
