美容医療トラブル、身を守るために必要な知識とは、日本医科大学の朝日林太郎氏に聞く、後半
美容医療のトラブルが頻繁に報道されているが、実際のトラブル情報が被害を受けた本人からSNSなどで共有されることも増えている。しかし、起きている問題はすべてが表面化しているわけではなく、実態についてはよく見えないところも多い。今回、日本医科大学形成外科講師の朝日林太郎氏に、美容医療に関連する問題の実状と現場で感じる背後にある課題などについて聞いた。前後半でお送りする。後半は、美容医療トラブルに遭った時の対処について。
朝日林太郎(あさひ・りんたろう)氏
日本医科大学形成外科講師
──トラブルに遭った場合はどのように対応すれば良いか。
朝日氏: まず、治療を受けたクリニックの医師としっかり相談することが重要です。たとえ悪徳であろうと何だろうと、自分が受けた治療については、その医師が最も詳しいはずです。そこで対応できるのであれば、そこで対応してもらうのがベストです。
ただし、簡単な治療によって起きたトラブルが、必ずしも簡単な治療で治るとは限りません。そのため、複数の医療機関で相談することが選択肢に入る場合もあると思います。想定外の状況に対応できないのに治療している医師やクリニックも存在します。そのときには修正治療を検討するに当たって、治療の経過や見通しを客観的に評価するため、第三者の医師に診てもらうことは重要です。
──医師に相談するときに注意すべきことは?
朝日氏: 修正治療のときに限りませんが、最も重要なのは説明に納得できるかどうかです。医師の説明が明確でない場合、その医師は治療に変わる事柄のどこかに曖昧な部分を抱えていると考えます。医師は、それらの情報を把握して伝えられなければいけません。
私が治療する場合は、患者さんが納得いく説明できる自信はあります。どのくらいリスクがあるのか、どのような可能性があるのか、何を予測し、どのように準備するか、そしてどのような結果が期待されるか。これらの情報をしっかりと伝えることができます。逆に治療を断る場合にも、その理由を明確に示すことができます。
ご本人が医師の説明に納得して治療を受けられた場合には、悪い結果になったとしても、次にちゃんとつながると思います。納得しないまま治療を受けて、悪い結果になったら後悔につながります。
──医師の資格や経歴などを参考にできる?
朝日氏: 医師の資格や経歴を重要視することは良い考えだと思います。専門医であり、長いキャリアを積んでいる医師が必ずしもすべての手術に優れているわけではありませんが、一般的に、そうした経験を持つ医師から治療を受けることで、トラブルを避けられる傾向は高くなると考えます。ですから、治療を受ける際には、医師の資格や経歴に注目していただき、同時に医師側からもそのような情報提供が行われるべきだと思います。
医師がすべての手術の詳細な経験を開示することは難しいかもしれませんが、資格や経歴、情報発信などを総合的に見て、医師がどのような治療を手掛けてきたかを考えるとよいのでしょう。
──修正するかどうかの判断はどうすればよい?
朝日氏: 修正するかどうかの判断の目安は、明らかに見た目の問題があるかどうか。もう一つは機能的な問題があるかどうか。典型的なのは痛みがある場合です。これらの要因が存在する場合、修正治療を検討することが考えられます。なぜなら、これらの問題は生活の質(QOL)に直結するからです。
治療の結果、例えば、しこりが残った場合に、ご本人が気になるのは仕方ないのですが、実は治療しなくてもよいケースもあると考えています。医師はリスクを正しく伝えていかなければならない一方、逆に商業的な理由から、問題が小さくても大きく見せかけ、「治療しなさい」と弱みにつけ込み、高額の修正治療費を取るというケースもあり得ます。そうした可能性にも気を付けた方がよいでしょう。
──患者は元の自分に戻りたいと思う。
朝日氏: 患者さんもゴールを明確に決めなければなりません。残念ではありますが、元の状態に戻ることが難しい場合も多いのです。しかし、後遺症治療と同時にアンチエイジングや外見の変化を目指すことができる場合もあります。
本来、美容医療はプラスに持っていくために行われるのですから、プラスに持っていくように対応することも考えられます。そのように美容外科手術を提案することは重要と考えています。それぞれの目標を設定し、治療計画を立てることが大切です。
──医師とのコミュニケーションが重要。
朝日氏: はい。一方で、もう一つ、最近の傾向として心配していることがあります。
初回治療の症例のトラブルは今も昔もありますが、最近は「修正の修正」に関連したトラブルが増えています。つまり、初回治療のトラブル症例に対する修正治療のトラブルです。
修正治療は元の治療よりもリスクが高いことがあるため、その難しさを理解しています。ですから、トラブルへの対応は不可欠で、修正治療が必要になること自体は問題ではありません。
問題は、一部のケースで「あなたはこれを受けるべきだ」と説明し、治療を求める方々の弱みにつけ込んでいる事例です。患者さんに高額な費用を請求しながら不適切な治療を行い、状態を悪化させている事例があるのです。しかも、初回施術の何倍の治療費を請求していることもあります。
──変化が起きたきっかけがあるのだろうか。
朝日氏: はっきりとしたタイミングは指摘できませんが、修正治療を求める患者さんの弱みにつけこむような傾向を目の当たりにすることがあり、今後この問題が増加する可能性を心配するようになりました。
美容医療への関心が高まるにつれて、実際に治療を受ける方も増えてくると、修正治療も同時に増えてきます。それに伴って「修正の修正」は増える可能性はあるのでしょう。
ただし、私は後遺症や合併症の治療について積極的に情報を提供し続けています。ですから行き着くところのなかった方々がたまたま集まっているというだけかもしれません。
──修正あるいは修正の修正のトラブルは減らせるか?
朝日氏: トラブルは完全にゼロにできないと考えていますが、避けられるトラブルは防いでいく必要があります。治療選択が明らかに誤っていたり、治療経験のない医師が治療を提供したりする事例を防ぐことで、全体のトラブルを減少させることができます。
一般の人々には、美容医療について深く理解していただきたいと思います。美容医療の事故がセンセーショナルに報道されると、美容医療に不安を感じてしまう人が増えます。ただ報道するだけでなく、その背後にある問題にも焦点を当て、改善すべき点についても考えるべきだと思います。
情報をネット上で発信するだけでは、美容医療に詳しい人々にしか届かない面があると感じています。最近、テレビなどで情報が提供されるようになっているのは歓迎すべきことだと考えています。
──医師の教育の問題もある?
朝日氏: さまざまな要因が影響していますが、医師の要素も重要です。美容外科治療は形成外科のトレーニングを受けた医師でなければ適切な治療が難しいところがあると考えています。にもかかわらず、クリニックが増える中で、トレーニングを受けない医師が治療を提供し、本来ならば起こり得ないトラブルが実際に起きている。それは一つの課題となっています。
結局のところ、なぜトレーニング不足の医師が美容外科医として活動し、美容医療を提供するのか。保険診療の将来性や魅力の不足が一因でしょう。さらに、美容医療の待遇が保険診療と比べて魅力的であることもあります。保険診療がより魅力的で、医師が専念するに足るものであれば、そういったトレーニング不足の医師が減っていく可能性はあります。
最近、他の診療科から、専門医として経験を積んだ医師が美容医療に参入するケースが増えています。もとの診療分野で充実したキャリアを難なく築けるならば、美容医療に転向する必要はなかったかもしれません。つまり医療界全体の課題としてとらえる必要もあるのでしょう。
プロフィール
朝日林太郎(あさひ・りんたろう)氏日本医科大学形成外科講師2009年三重大学医学部卒業。東京労災病院にて臨床研修修了後、日本医科大学形成外科入局。 2020年自治医大大学院修了。同年4月より日本医科大学形成外科講師。同年9月より自治医大形成外科非常勤講師を兼任。日本形成外科学会 形成外科専門医。
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