海外で脂肪を使った美容医療が進化している。
「リポスカルプチャー(Liposculpture)」という、筋肉の輪郭が際立つように脂肪吸引や脂肪の注入を行う技術が進歩し、脂肪吸引もAI(人工知能)を利用し安全性を高められるようになっている。
また脂肪の注入により顔の若返りを実現する手法も成果を上げている。
2024年5月30日、第112回日本美容外科学会(JSAS)総会の海外招待講演で、南米コロンビアのTOTAL DEFINER院長で、進化型リポスカルプチャーの第一人者であるアルフレッド・E・ホヨス医師(Dr. Alfredo E. Hoyos)と、脂肪注入により顔の若返りを実践する米国FACES+院長のスティーブン・R・コーヘン氏(Dr.Steven R. Cohen)が最新情報を語った。
脂肪吸引するだけではなく注入もする
ホヨス氏が紹介したのは、High-Definition Liposculpture(HDL)およびHigh-Dynamic-Definition Liposculpture(HD2)。これらは脂肪吸引の進化系だという。いずれの技術も脂肪を単純に吸引するのではなく、筋肉の輪郭が際立つよう、彫刻を作り出すかのように意図的に脂肪を残すのが特徴となる。
HD2は、HDLをさらに進化させたもので、取り除く脂肪の量と残しておく量をさらに精密に調整できるようにした技術という。ホヨス氏の脂肪吸引では、筋肉の凹凸によってできる光と影を意識し、筋肉の輪郭がより美しく見えるように調整する。男性と女性の体型を踏まえ、それぞれの性別に合った見た目を目指すのも特徴となる。脂肪を吸引するばかりではなく、体型を理想的にするために脂肪の注入も行う。
脂肪吸引では肌にメスを入れて切れ込みを入れる(切開)が欠かせないが、安全のために切開の幅を小さくすることにもこだわっている。筋肉の輪郭を明確にするために必要な最低限の切開で皮膚や筋肉にできるだけ傷を付けないようにする。この技術も「パーマネント・ミニマル・マッスル・インシジョン(Permanent Minimal Muscle Incision)」という名を付けている。
脂肪吸引では、事故もたびたび報道されているが、ホヨス氏は安全性を高めるためにAIを活用している。ChatGPTを活用し、脂肪吸引の安全性を高めるための助言や誘導が行われる。また、施術を受ける人のBMIや体重に基づいて、吸引可能な脂肪の量や術後のケアを具体的に指示できるようにしているという。手術中の出血や術後の回復についても予測可能とする。このシステムについては「LISA(Liposuction Intelligent Safety Assistant)」と紹介した。
脂肪を改良して顔に注入
コーヘン医師は、再生医療と美容外科の専門家で、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校臨床教授も務める。
顔の老化を防ぎ、若返りを目指す最新技術と方法を解説した。特徴的なのは、顔に脂肪の注入を行うことだ。コーヘン医師は、脂肪を単に充填するものではなく、これによって若返りを導くものとして活用する。
注入する脂肪は、自分自身の脂肪を採取し、豊富な幹細胞を含むとされるSVF(ストローマ血管分画)リッチな脂肪へと改良する。フィルターを使った処理により、脂肪移植による若返りの成功率を高めている。顔の部位によって注入の仕方も調整しながら、最適な方法で注入し顔の見た目を若返らせることを実例と共に示した。本人の満足度につながっているという。
海外招待講演の座長は、第112回会長、THE CLINIC総院長の大橋昌敬氏と、自治医科大学形成外科教授の吉村浩太郎氏が務めた。講演後、大橋氏は「脂肪の用途は幅広く、若返りを含めてさまざまな分野での利用が考えられる」と、脂肪を活用した美容医療の展開に期待感を示した。
世界的には脂肪吸引は最も多く行われている美容外科手術。今回の講演からは、安全性の向上と、有望な脂肪の活用が進む可能性をうかがい知ることができる。