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美容医療の「直美」問題と専門医資格を取得する意義、信頼ある美容医療を提供するための課題、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、後半

カレンダー2024.10.17 フォルダーインタビュー

 美容医療を担っている医師の技術や倫理観が注目されている。医学部を卒業してから2年間の初期研修を終えてすぐに医師が美容医療に参入する「直美」が問題視され、美容医療に関わる医師はもっと技術を磨くべきだという考え方も出ている。また、専門医を取るための研修の中で医師の倫理観が育つことを大切と捉える見方もある。前回に引き続き、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に、美容医療に関わる医師の資格や倫理観などの課題と対策について聞いた。(後半)

2024年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員も務める共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

2024年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員も務める共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

久次米秋人氏
共立美容外科理事長

──美容医療を担う上で、専門医を取得することの意義が注目されている。

久次米氏: 最近では、形成外科専門医の資格を持つ医師が増えてきました。美容医療の施術を行う際に、専門医の資格は確かに役立つ部分があります。ただし、資格があるからといって、すぐに美容医療の施術ができるというわけではありません。実際のところ、美容医療は経験と技術の積み重ねが非常に重要です。

 私自身、以前は専門医資格がそれほど重要だとは思っていませんでした。しかし、ここ10年ほどで考えが変わりました。専門医資格を持つことで、医師としての技術やモラルが向上し、安全な治療提供につながると強く感じています。共立美容外科でも、入職する医師の中で形成外科専門医を持つ医師が増えており、専門性の高い医療を提供できる体制を整えています。

──初期研修を終えてすぐに美容医療に参入する「直美」が問題視されている。

久次米氏: 「直美」、つまり研修を終えたばかりの若い医師がすぐに美容医療に入るケースが増えていることは懸念しています。医師としての基本的な経験やモラルが十分に培われていない段階で美容医療に参入すると、施術を受ける方にリスクが生じる可能性があります。

 美容医療は見た目を美しくするだけでなく、医療行為としての安全性が重要です。基本的な医療知識や経験が不足していると、合併症への対応や適切な診断が難しくなることがあります。そのため、内科や外科などで数年間の経験を積んでから美容医療に進むことが望ましいと考えています。

倫理観が重要と述べる共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

倫理観が重要と述べる共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

──一般の方が信頼できる美容外科医を選ぶためには?

久次米氏: 正直に申し上げて、一般の方が信頼できる美容外科医を選ぶのは難しい面があります。広告やSNSの情報だけでは、医師の技術や倫理観を判断するのは難しいでしょう。ただし、いくつかのポイントに注意することでリスクを減らすことができます。

 まず、価格が極端に安いクリニックには注意が必要です。適正な価格設定をしているクリニックを選ぶことで、一定の品質が保証されると思います。また、医師の経歴や専門資格を確認することも有効です。形成外科専門医などの資格を持つ医師は、一定の研修と経験を積んでいる証です。

 共立美容外科では、施術を受ける方との信頼関係を大切にしており、必ず医師がカウンセリングを行い、希望や不安を丁寧に伺います。その上で、最適な治療法を提案しています。信頼できる医師との出会いが、満足度の高い美容医療の鍵となります。

 資格を持たないカウンセラーが一般の方に対応して、治療方針まで決めるようなクリニックが存在するようです。それは理解できないことであり、無資格のカウンセラーがそのような形で関わることは行うべきではないと考えています。

──トラブルへの対応について、どのような取り組みをされていますか?

久次米氏: 共立美容外科では、安全マニュアルを作成し、全スタッフに対して研修を行っています。医師、看護師、スタッフ全員が緊急時の対応や判断ができるよう、具体的な手順を共有しています。例えば、施術を受ける方の状態が急変した場合の対応や、救急車を呼ぶタイミングなどです。こうした安全管理の取り組みは、施術を受ける方に安心して治療を受けていただくために欠かせません。

 さらに、スタッフ全員が最新の知識と技術を習得できるよう、定期的な勉強会や技術研修を開催しています。これにより、常に高いレベルのサービスを提供できる体制を維持しています。

──美容医療の検討会が開催され、委員を務めている。

久次米氏: はい、私は厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」に参加しています。美容医療業界の課題について、積極的に意見を述べるようにしています。過度な広告や不適切な治療を行うクリニックに対する規制の強化や、医師の研修制度の見直しなどが必要だと考えています。

 以前は、人間関係や立場上、自由に発言できないこともありました。しかし、年齢を重ねるにつれて、業界全体のために言うべきことはしっかりと言おうと決意しました。美容医療業界をより良くするために、自分の経験や知識を活かして、積極的に貢献していきたいと考えています。

──今後5年、10年の美容医療業界の変化について、どのように予測する?

久次米氏: 美容クリニックの数が増え、過当競争が激化する可能性があります。歯科医院がどこにでもあるように、美容クリニックも増えていくでしょう。そうなると、施術を受ける方にとって信頼できるクリニックを選ぶのがますます難しくなるかもしれません。

 美容クリニックは、技術力だけでなく、医師としてのモラルや倫理観、そして施術を受ける方への誠実な姿勢が求められます。一部のクリニックでは過剰な広告や不適切な治療が問題となっています。これらの問題に対処するためには、業界全体での取り組みが必要です。

 具体的には、研修制度の見直しや、専門医資格の取得についても検討することなどが重要だと考えています。基本的な医療知識や経験が不足していると、適切な対応ができないリスクがあります。専門医資格の取得や長期間の研修を通じて、高度な技術と倫理観を身につけた医師が増えることで、業界全体の信頼性が向上すると期待しています。

 共立美容外科としては、これらの課題に対応しながら、施術を受ける方ファーストの理念を貫き、業界全体の健全な発展に寄与していきたいと考えています。

共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

共立美容外科理事長の久次米秋人氏。(写真/編集部)

プロフィール

久次米秋人(くじめ・あきひと)氏
1983年、金沢医科大学医学部卒業。高知医科大学整形外科を経て、89年、共立美容外科を開院し、現在理事長を務める。第107回日本美容外科学会(JSAS)学会長、JSAS理事を務め、24年から厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」構成員なども歴任。

連載の記事一覧

  • 美容医療の発展と課題と求められる倫理観、厚生労働省の検討会でも構成員として意見、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、前半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/9403/
  • 美容医療の「直美」問題と専門医資格を取得する意義、信頼ある美容医療を提供するための課題、共立美容外科理事長の久次米秋人氏に聞く、後半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/9492/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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