ヒフコNEWS 美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイト

直美の急増で日本の医療現場どう変わる?その背景と因果関係を探る、医師が今の状況に追い込まれている理由、人口減少で入院と外来が減る日本での美容医療【編集長コラム】

カレンダー2024.12.8 フォルダー連載・コラム

 直美が増えると日本の医療全体に影響する可能性があるという仮説が報道されることがある。例えば、「このままでは日本の医療は崩壊する…『直美』急増の先に待ち受ける『最悪の結末』」という記事を、週刊現代が伝えている。このほかにも新聞各紙が、直美の医療への影響を論じるようになっている。今回は、このような動きを踏まえて、「直美が医療全体に影響を与える」という点を実際どうとらえればよいか考えてみる。

※直美は、医学部を卒業後、2年間の初期研修を経て、直接美容医療に進むこと。

直美は、医師の偏在という点から報道が増えてきている

「直美」を念頭に、初期研修後に保険診療経験を従事させるなどの規制を提案。(出典/日本病院会)

「直美」を念頭に、初期研修後に保険診療経験を従事させるなどの規制を提案。(出典/日本病院会)

  • 一般認知度→ 報道や広報関係者でも直美を知る人は少なく、医療記者など専門分野に限られる。
  • 一般報道の増加→ 厚労省の医師偏在対策の議論を受け、地方の医師不足問題と絡めた報道が増加。
  • 医療への影響→ 直美が若手医師の流入を招き、日本の医療全体に影響を及ぼす可能性が議論されている。

 直美は、美容医療の分野ではよく知られるようになったが、美容医療に関心のない人には、まだまだ何も知られていない言葉と言って良いかもしれない。2024年12月の時点で、私が情報感度の高いと思われる知人の報道関係者や広報関係者に聞いてみたが、直美という言葉を知っているという人に出会うことは意外と少ない。医療関係の記者などはさすがに知っているという程度の印象だ。

 そのような反応と裏腹に、意識して見ていれば、新聞やウェブサイト、SNSを見ていると、直美について指摘する記事や発言を見ることは増えてきている。美容医療の医師によるSNS投稿の中には、直美という話を耳にする機会が多すぎることに対する不快感を表明する投稿を目にすることもある。美容医療に強い関心を持つ人の耳には届いている状況なのだろう。

 しかし、最近になって、一般の報道でも直美が地方の医師不足という観点から伝えられる機会が着実に増えていると思われる。これは、厚生労働省の検討会で「医師偏在対策」の議論が活発化し、その文脈で直美で医師が美容医療に流出しているという話がたびたび出てくるからだろうと推測する。そうした報道の中では、直美が増えることで、日本の医療全体に影響する可能性を指摘するものがある。

 例えば、NHKでは「休診・手術数か月待ち…深刻化する“医師の偏在”」といった番組が組まれている。医療のほころびを伝えるものだが、この中でも美容医療について若手医師の流入が紹介されていた。では実際のところ直美がどのように、どれくらい影響するのだろうか。

 冒頭に書いたとおり、以下で改めてここで言われている影響を考えてみる。

直美の増加が医療全体に与える影響

23年12月に日本医学会連合が厚生労働省に提出した「専門医等人材育成に関する要望書」。直美の増加に懸念を示した。(出典/日本医学会連合)

23年12月に日本医学会連合が厚生労働省に提出した「専門医等人材育成に関する要望書」。直美の増加に懸念を示した。(出典/日本医学会連合)

  • 専門医制度の影響→ 形成外科医を含む基礎的な分野の専門医が少なくなる可能性があり、バランスが悪化する可能性。
  • 地域偏在の影響→ 美容クリニックが都市部に集中しており、直美の増加で地方の医師不足に拍車がかかるという懸念。
  • 医師偏在指標→ 都市部(例: 東京789.8)と地方(例: 岩手釜石107.8)で大きな差があり、直美が都市部集中を加速させる可能性。

 そもそも日本では医学部2つ分の直美の医師が誕生すると指摘されたことが始まりだった。これはヒフコNEWSでも紹介したが、日本医学会の出した「専門医等人材育成に関する要望書」で言及されたものだ。1つの医学部の一学年が100人とすると、全国で200人近くとなる。これに加えて、直美ではないものの、美容医療に転進する医師は中途からも増えていると考えられる。それらを踏まえて、直美のインパクトが医療全体にどういう影響を与えるのかを考える必要があるのだろうと考える。

 この影響として、診療科ごとの偏り、地方での偏りが生まれることが大きいだろうと考える。これがまさに厚労省で議論されているところでもある。

 まずは診療科ごとの偏りはどうだろうか。

 年間誕生する医師の人数は、厚労省の資料を見ると1万人弱。これらの医師が未来の専門医療を支えていくことになる。国は専門医制度を運営し、この仕組みの下で専門医の養成を進めている。国が定めている専門医の分野は、内科や外科など基本領域が19領域、その下にある消化器病専門医や循環器専門医などのサブスペシャルティ領域は24領域ある。基本領域は、主要な医療の分野になり、例えば、美容医療に関連する形成外科専門医も一つだ。厚労省の資料によると、形成外科医は国内に約2000人存在する。全国の専門医の人数は、多くの領域で数千人規模になっている。

 これを踏まえて、直美が日本の医療全体でどれくらい人数のインパクトになってくるか考えると、毎年200人近くの新人医師が美容医療に流れると仮定すると、単純計算で10年で2000人近くになる。これは日本全体の形成外科専門医の人数に匹敵するといえる。形成外科は美容医療の基礎になる分野と見なされているが、基礎を修めている医師の方が、その応用をやっている医師よりも少ないというのは、バランスが悪いと見なされる可能性はある。他の専門医の人数と比べても少なくはない。

 国から見れば、美容医療に進んだ医師が、美容医療ではなく、なかなか医師が増えない外科や産科婦人科の専門医を取得する道に進んでもらえれば、診療科の偏りが防げると期待することもあるだろう。直美の増加により、診療科の偏りに拍車がかかるという心配はこのような状況から来ると考えられる。

 一方で、地域の偏りについても見てみる。現在は、都市部に医師が集中する傾向がある。国が公表している医師の地域ごとの偏りを示す医師偏在指標の数値を見ると、東京都の区中央部は789.8に対して、岩手県釜石の107.8など地方では100台の地域も多い。この数字が高いほど、人口当たりの医師が集中しているという意味になる。つまり、一人の患者に対応できる医師の人数が東京の中心部だと、地方の数倍になるわけだ。これを解消したいというのが国の狙いだ。

 美容医療のクリニックなどは都市部に集中している。そうした中で、直美が増えれば、都市部で勤務する医師を増やすことにつながってくると考えられる。地方での医師の偏りという点から言えば、直美が増加することは、それだけ都市部に医師を集中させることにつながり、国としては、その流れが進むと医師の偏在がさらに進むと、心配の種になる面はあるだろう。

 このような点から直美は日本の医療全体に影響を及ぼすという仮説が出ているのだろう。

 ちなみに、直美の増加は、美容医療でのトラブル増加とも関連付けられてきた。この点に関しては、厚生労働省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」を開催し、美容医療のトラブルに対しては、医療機関の定期報告や業界ガイドライン整備などの対策で進めることになった。直美はトラブルにも関連する問題と認識されたが、対策についての議論は別の検討会に委ねることになった。つまり、ここまで示したような医師の偏在という文脈から議論されることになった。

医療全体のほころびが直美を生む要因

厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」第4回を開催。(写真/編集部)

厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」第4回を開催。(写真/編集部)

  • 直美の背景と医療全体のほころび→ 入院や外来患者数の減少、医療需要の地域偏在、現場の疲弊が若手医師の美容医療進出を後押し。
  • 美容医療の魅力→ 自費診療のため価格設定が自由で収益性が高く、労働時間もコントロールしやすい。若手医師に高収入の機会を提供。
  • 解決のための視点→ 「誰がどこへ行くか」だけでなく、「なぜ医師がその状況に追い込まれるのか」を考慮する必要。

 ここまでは、直美が増えることで、日本の医療全体に影響があるのではという話だったが、その逆の因果関係も考える必要がある。

 つまり、入院や外来の患者数の減少や、医療需要の地域偏在、既存の医療現場の疲弊がもたらす「医療全体のほころび」がそもそも先にあって、若手医師を美容医療へと誘導している側面があるのではないか、という視点だ。具体的には、入院患者や外来患者の減少により医療現場が厳しい状況に直面していることが挙げられる。厚生労働省のデータによれば、入院患者数は長期的に減少傾向が続いており、コロナ禍で急激に減少した患者数が完全には戻っていない。外来患者についても同様の傾向が見られ、特に地方では患者数の減少が顕著だ。

 このような状況下で、医療機関の経営難が深刻化している。

 帝国データバンクの報告によると、2023年度は医療機関の休廃業・解散が過去最多を記録した。若い医師が日本国内の医療の状況を理解した上で、今後も安定して需要が増えると予測される美容医療に進路を定めるのは、原因ではなく、結果であると解釈することもできる。この因果関係を無視して「直美の増加が問題だ」とだけ指摘するのは不十分だ。

 もっとも未来を考えるまでもなく、現状をさらに掘り下げると、働きやすさの面でも美容医療が若手医師を引きつける要因を多く持つ。美容医療は自費診療で、保険診療のように公定価格に縛られないため、収益性を医療機関側でコントロールしやすい。しかも、また、夜勤が少なく、労働時間を調整しやすい点も魅力的だ。保険診療における専門研修中の医師が給与の上昇を期待しにくい一方、美容医療では若手の段階から高額報酬を得られるケースが多い。これらの点が美容医療を選ぶ動機を形成している。

 未来を考えても、現在を考えても、「直美が増えるから医療全体に影響する」という単純な図式だけではなく、「医療全体にほころびがあるから美容医療に進む医師が増える」という逆の因果関係の見方は理解しておくことは欠かせないだろう。「誰がどこへ行くか」を問題視するばかりではなく、「なぜ医師がそのような状況に追い込まれるのか」についても目を向けないと解決はしなさそうだ。

 以上は簡単な考察であって、データに基づいて緻密に計算することで、他の因果関係も見えてくるのだろう。日本の医療全体はより良くして、美容医療をより健全に発展させていくために考えるべきことはかなり多い。

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

お問い合わせ

下記よりお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。