ヒフコNEWS 美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイト

直美にとどまらず「直美開業」も心配する、名義貸し増える可能性も、きちんとした美容医療はできるのか、連載【細川亙 現代美容医療を殿が斬る】Vol.7

カレンダー2025.2.26 フォルダー連載・コラム

 「細川亙 現代美容医療を殿が斬る」では、日本形成外科学会理事長をはじめ、多くの要職を歴任し、米国形成外科学会名誉会員でもある細川亙氏が、現代美容医療が抱える様々な問題に鋭い視点で問題提起する。「殿」というのは、細川氏が細川ガラシャの子孫だから。その源流は明智光秀に通じる。そんな歴史的背景を持つ細川氏が現代に舞台を移して美容医療の分野で一刀を振るう。激動の美容医療の世界をどう治めるのか。

第7回テーマ「直美と直美開業の心配」

 2024年は「直美」が問題になってきたが、それだけにとどまらず「直美開業」が起こる可能性があるという。既に医学部を卒業後、臨床研修を終えた医師が直接開業する事例が出てきている。そうした美容クリニックで美容医療に通じた勤務医が医療を行っていればよいが、体制が整っていなければトラブルにつながりかねない。また、名義貸しクリニックを増やすことも考えられる。美容医療の増大には心配が尽きない。

 最近話題になっている言葉で「直美」というものがある。医師になって2年間の初期臨床研修を終えてすぐに美容医療の世界に進むこと、即ち「医師が直接美容医療に進む」という意味の言葉である。

 しかし2年間の初期臨床研修を終えた後すぐに耳鼻科に進んでも「直鼻」とは言わない。救急科に進んでも「直救」とは言わない。なぜに美容医療に進む場合は「直美」と呼ばれて非難されるかというと、美容医療は基本領域の診療科でないからである。

 現代日本の専門医制度では、内科、小児科、皮膚科、精神科、外科、整形外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、放射線科、麻酔科、病理、臨床検査、救急科、形成外科、リハビリテーション科、総合診療科の19の診療科が基本領域診療科として設定されている。すなわち日本の医療はこの19の基本領域で成り立っており、例えば心臓血管外科は外科という基本領域を学んだあとに進むべき専門分野で、消化器内科は基本領域である内科を学んだあとに進むべき分野なのである。

 美容医療は、基本領域である形成外科ないし皮膚科を学んだあとに進むべき医療分野である。手術を主にする美容外科ならば形成外科、外用剤や内服薬を主に用いる美容皮膚科ならば皮膚科を基本領域とすべきである。そのような専門医制度の中で「直美」は土台となるべき基本的領域の医療を身に着けぬままに美容医療に進むというショートカットをするから非難されるのである。

 ここ数年は「直美」という形で大手の美容外科チェーン店などに勤務する美容初心者医師が毎年100人から200人ほどいるらしい。初期臨床研修を終える医師数は毎年9000人程度なので1~2%程度のことであり、医療界全体に与える影響は大きくないようにも思われるが、今後はもっと増大していく可能性もあり、動静には注意する必要がある。

「直美開業」が既に起きている

 私が注目しているのは、2年の初期臨床研修を終わってすぐに美容医療分野に進むという「直美」どころではなく、初期臨床研修後直ちに美容医療で開業する「直美開業」の医師が世に出てくる可能性があることである。基本領域という土台の医療を身に付けることなく、その先の美容医療についてもまだ駆け出しの状態であるにもかかわらず、美容クリニックを開業するものだ。

 既に、弁護士資格を持ちながら、医師免許を取得したクリニックゼロプラス院長の石丸幸人氏が、直美開業を果たしている。彼は、アディーレ法律事務所の創設者である。医学部を卒業後に美容クリニックを開設した経緯を自身で述べている。美容系の勤務医を目指したところ採用されなかったそうだ。そのため開業という道を選んだと説明している。

 彼のように資金がある場合には自力での直美開業が可能であり、また資金がなくても医療をビジネスと考える資金提供者がいれば直美開業はできる。後者の場合には事実上の名義貸し開業になる場合が多いであろう。いずれにせよこれからは美容医療のできる医師によらない美容クリニックが続々と開業されていく可能性がある。

 もちろんそこで行われる美容医療がきちんと美容医療を習得した勤務医師によって行われればよいのであるが、そのようなところでどのような美容医療が提供されるのか注意すべきであろう。

参考文献

アディーレを創設した弁護士が開業医に!「勤務医の採用試験で全落ち。湘南美容に嫉妬している」(ダイヤモンドオンライン)

プロフィール

細川亙 現代美容医療を殿が斬る

細川亙 現代美容医療を殿が斬る

細川亙(大阪大学名誉教授)

米国形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会特別会員、日本頭蓋顎顔面外科学会名誉会員、日本創傷外科学会名誉会員、JCHO大阪みなと中央病院名誉院長。日本形成外科学会理事長、日本形成外科手術手技学会理事長などを歴任。大阪大学形成外科初代教授。1979年、大阪大学医学部卒業。

(編集:星良孝)

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

Author

米国形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会特別会員、日本頭蓋顎顔面外科学会名誉会員、日本創傷外科学会名誉会員、JCHO大阪みなと中央病院名誉院長。日本形成外科学会理事長、日本形成外科手術手技学会理事長などを歴任。大阪大学形成外科初代教授。1979年、大阪大学医学部卒業。

お問い合わせ

下記よりお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。