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スキンブースターで失明?ヒアルロン酸以外フィラーの合併症実態を見る、合併症発生時の対策が未確立の問題も、目の周りだけではなく、額やこめかみ、眉間など要注意【編集長コラム】

カレンダー2025.4.23 フォルダー連載・コラム
フィラー製剤が血管を詰まらせるリスクがある。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

フィラー製剤が血管を詰まらせるリスクがある。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 バイオスティミュレーターやスキンブースターと呼ばれる製剤の注入が人気となっている。

 CaHA(カルシウムハイドロキシアパタイト)やPLLA(ポリ-L-乳酸)、PDLLA(ポリ-DL-乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、PN(ポリヌクレオチド)など、ヒアルロン酸以外(非HA)の種類が増えている。

 そうした中で、PDLLA注入によって失明が生じたとの噂が、SNS上で拡散していた。

 こうしたSNS上の情報は、根拠となる文献が提示されず、信頼性が不明確な場合がある。今回の噂にしても、元の情報と見られるインスタグラムの投稿が閲覧できない状態となっていた。

 実際のところどうなっているか。

非HAフィラーによる失明は起こるのか

フィラー注射は合併症を起こすことがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

フィラー注射は合併症を起こすことがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 高リスク部位→ 目の周囲だけでなく、額、こめかみ、鼻、眉間もリスク部位とされる。
  • 発症タイミング→ 多くは注入後数日以内に突然発症。
  • その他のリスク→ 視力障害以外にも、肺血管や脳血管の塞栓、皮膚の壊死のリスクがある。

 非HAフィラーと視力障害に関する論文を確認した。

 香港や韓国の研究グループが2024年12月に関連した論文を報告している。

 非HAフィラー製剤のリスクについて体系的な分析が行われている。分析対象は、2014年から2021年に発表された47報の文献であった。

 結果としては、CaHA、PLLA、PDLLAのいずれも失明、視力が低下したケースが複数報告されていた。

 論文の考察では、こうした非HAフィラーによって視力障害がまれではあるものの、発生する可能性があると説明された。これは、フィラーが血管に流れ込み、目に血液を送る血管を詰まらせるためだ。

 また、論文では、視力障害のほかに、肺血管や脳血管に詰まったり、皮膚の壊死につながったりするケースがあると説明されている。ほとんどのケースは、注入後数日以内に突然視力低下すると報告された。

 また、今回の結果にはデータが示されていなかったが、PRP(多血小板血漿)による視力障害も起こる可能性があることにも触れられていた。

 リスクが高い注入部位は、目の周りだけではなく、額、こめかみ、鼻、眉間が挙げられている。

 今回の視力障害について調べていると、オーストラリアとニュージーランドでは、フィラーによる視力障害のガイドラインが発行されていた。

 これを見ていると、目の周りの血管の分かりやすい図が示されていた。

黄色く示されているのが血管。目の周りに血管が走っている。ここにフィラー製剤が入り、目の後ろの血管の方で詰まると、視力に影響すると考えられる。(出典/RANZCO Guideline for Filler Blindness)

黄色く示されているのが血管。目の周りに血管が走っている。ここにフィラー製剤が入り、目の後ろの血管の方で詰まると、視力に影響すると考えられる。(出典/RANZCO Guideline for Filler Blindness)

 目の周囲には複数の血管が存在することが分かる。これらの血管にフィラーが誤って流れ込む恐れがあるとされている。血管の中にフィラーが流れてしまい、眼球の後ろへとつながる血管を詰まらせると目の血流が途絶する。そうした事故が起こると、視力障害が発症する可能性がある。

※ここではフィラー製剤による目の血管が詰まることについて簡単に述べているが、厳密なフィラー製剤による視力低下のメカニズムは研究途上と見られる。

 なお、ヒフコNEWSの別記事でも、ブラジルの研究におけるバイオスティミュレーターの合併症について報告している。この中では、しこり、浮腫、細菌感染が多かったが、バイオスティミュレーターによる合併症はまれではあるが、発生のリスクがあることは理解しておく必要がある。

バイオスティミュレーター事故は治療が難しい

首に出現したPLLA(Elleva)によるしこりとその超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)

首に出現したPLLA(Elleva)によるしこりとその超音波の画像。(出典/J Cosmet Dermatol. 2024;23:2829-2835.)

  • 非HAフィラーの注意点→ ヒアルロン酸と異なり、合併症が起きた場合の有効な治療法が確立されていない。
  • 治療法の違い→ ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼで溶解可能だが、非HA製剤は薄めるか手術で取り除く必要があり、治療が難しい。
  • 治療成功率→ ブラジルの研究によると、非HAフィラー合併症の治療成功率はわずか1割程度と報告。

 ヒアルロン酸以外のフィラー製剤による合併症は、有効な治療法が確立されていない場合が多いことも注意が必要だ。ヒアルロン酸であれば、ヒアルロニダーゼという酵素を注射することで、ヒアルロン酸を溶かすことができる。一方で、前述の研究によれば、非HAのフィラーでは、薄めたり、手術で取り除いたりする治療が行われているが、治療の難易度は上がると考えられる。

 ブラジルの研究では、視力障害ではないが、治療に成功したのは1割であると報告されていた。この研究は、報告された合併症の件数が55ケースなので多くはないが、治療が難しい可能性は理解しておくとよい。

 バイオスティミュレーターやスキンブースターの施術を受ける場合、合併症リスクについて丁寧に説明しているかどうかは、医療機関の安全性に対する意識を反映している可能性がある。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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