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映画『サブスタンス』、若返りを求める動機は誰のため?美容医療や再生医療の限界と可能性を描く寓話、あなたは主人公か成功者か?【編集長コラム】

デミ・ムーア演じるエリザベスは若返りに希望を託す。(出典/映画『サブスタンス』)

デミ・ムーア演じるエリザベスは若返りに希望を託す。(出典/映画『サブスタンス』)

 映画『サブスタンス』を鑑賞した。美容医療や再生医療との関連が指摘されていたので、米国の映画であることもあり、海外、特に米国でそれらがどのように描かれているのかに関心を持った。若返りが関係すると聞いていたが、果たして若返りという価値は、どのように評価されているのだろうか。

※以下は、ネタバレも含みます。内容に関わる情報を得ない状態で鑑賞したい方は閲覧を控えてください。

若返りの価値を単純化

主人公は若返った肉体を手に入れる。マーガレット・クワリー演じるスーは人気者に。(出典/映画『サブスタンス』)

主人公は若返った肉体を手に入れる。マーガレット・クワリー演じるスーは人気者に。(出典/映画『サブスタンス』)

 ごく簡単にストーリーを書くと、「アクティベーター」という薬剤で、若返ることができるという話だ(若い肉体と元の肉体の2体に分かれる)。

 いくつか条件がある。「スタビライザー」という薬剤の投与を続ける必要があること。もう一つは、1週間ごとに、若返る前と若返った後の間で肉体を入れ替わっていく必要があるということ。それらが守れないと、元の肉体が崩壊するという代償を負う。

 薬を使って若返りを実現するというところが、アンチエイジングという意味で、美容医療や再生医療とつながる部分と考えられる。手術やフィラー注入によって外見を若返らせたり、薬によって老化を防いだりするのは、映画と共通している点だろう。

 では、若返ると、どのように報われるのか、課題となることはあるのか。

 考えたことを述べれば、若返る理由は、自分のためなのか、他人のためなのかという点だ。

 主人公のデミ・ムーア演じるエリザベスは、仕事が減少していく中で、若返ることで、かつてのように仕事が増えることを期待していたという点があったと思われる。そのほかプライベートでも、顔も忘れたような一部の人以外からは求められなくなっていた。

 嫌な発注者にクビを言い渡され、絶望感に打ちひしがれたところで、若返りのサービスに出会うことになる。果たして、若返ると、自身の若返った分身であるマーガレット・クワリー演じるスーが一気にスターダムにのし上がる。

 この経緯を見ると、若返る理由は、他人を見返したいといった、他人からどう見られるかを意識した結果という側面があるように見えた。

 美容医療や再生医療でも、自分自身が満足するというケースもあると思うが、他人からどう見えるかを気にした結果、若返りを目指すというケースも多い。就職、結婚、昇進、仕事の成功などが、その人の外見によって影響を受けるようなケースでは、若返りは他人からの評価とつながる。

 映画では、まさに望んだ通りに、若返りによって仕事は好転することになった。プライベートも充実する。美容医療や再生医療でも、他人からの評価が高まることがあると思うが、映画はそれを単純化して描いている。

老化を気にしない成功者にも課題

デニス・クエイド演じる発注者のハーヴェなど成功者からは老いの要素を感じる。(出典/映画『サブスタンス』)

デニス・クエイド演じる発注者のハーヴェなど成功者からは老いの要素を感じる。(出典/映画『サブスタンス』)

 一方で、若返りの副作用についても単純化して分かりやすく表現していると考えられる。

 前述の通り、約束を守れないと、肉体の崩壊という代償を負うが、映画では、実際にその代償である自らが衰える事態に直面することになる。

 これは、現実にもつながっていると見えた。程度の差こそあれ、美容医療や再生医療でも限界があると考えられ、最終的に老化に直面する必要があるという意味では、映画で描かれたものと共通点があると考えられる。

 いつかは他人からの評価が暗転することになり得る。映画では、評価の暗転をホラーやスプラッターといった形で、単純化して描いていると見受けられた。血みどろの展開は、夢から覚めて、地獄絵図だった。

 結局、他人からの評価という面で考えると、限界があるようにも感じられた。

 ここから、美容医療や再生医療とのつながりをあと一歩踏み込んで考えると、他人の評価のために何が必要か、自分のために何が必要かを冷静に判断する必要性があるという点かもしれない。

 エリザベスやスーについて考えると、結局、美容医療や再生医療で得られる、外見の改善や若返りには意味があるものの、他人の評価に左右されるのではなく、自分を失わないように利用するのが重要だった。利用の仕方を誤ると、トラブルにつながるという点は映画と同じ。加えて、エリザベスは自分自身を完全に失い、正常な思考ができなくなっているところも描かれた。もっと自分を冷静に見ていられれば、老化とうまく付き合えたかもしれない。

 一方で、デニス・クエイド演じる発注者のハーヴェイなど、エリザベスやスーに仕事を与える側の人間は、皮肉にも老化した姿で描かれている。彼らは、それで成功している。主人公とは対照的だ。これら成功者は、外見の改善や若返りは、さほど必要としないのかもしれない。では、彼らは自分たちの老化とうまく折り合えているのだろうか。それについては、映画では、醜悪なものとして描かれている。彼らは彼らで、他人の評価という点で劣っていることは課題であるととらえることもできる。つまり、美容医療や再生医療のニーズは、彼らのような成功者にこそ潜在的に存在するともいえる。

 自分自身の老化について客観的に見ながら、メンテナンスするような考え方でアンチエイジングの手段を使う姿勢が求められている。そうしたスタンスは、美容医療や再生医療を自ら求める人だけでなく、そうでない人にも必要とされていると見えた。

 ある意味で、美容医療や再生医療の限界と、可能性を象徴的に描いた映画だったのではないかと考える。

映画『サブスタンス』

題名:サブスタンス
公開:2025年5月16日~

■監督・脚本:コラリー・ファルジャ『REVENGE リベンジ』
■出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
イギリス・フランス/142分/R-15+ 配給:ギャガ
(c)2024 UNIVERSAL STUDIOS

サブスタンス
https://gaga.ne.jp/substance/
予告動画
https://youtu.be/nfNuuLSLtso

参考文献

大阪・関西万博に実際に行ってみた──「若返り」意識の大阪、森下竜一氏(大阪総合プロデューサー)が第2回再生医療抗加齢医学会で講演、美容医療との接点も考えながら2km大屋根リングを歩く【編集長コラム】
https://biyouhifuko.com/news/column/12453/

【2025年美しさとは】老化を遅らせる、アンチエイジング医療の最前線、「10歳若返り」が世界で本格的に動き出す、日本抗加齢医学会の山田秀和理事長に聞く Vol.1
https://biyouhifuko.com/news/interview/10704/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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