ポイント
- 脱毛サロン大手が破たん相次ぎ、前払い依存のもろさが表面化。
- コロナ禍以降、日本は世界と異なりレーザー脱毛への関心が低下。
- 美容医療市場は拡大しており、出費は注入やスキンケアなどにシフトか?

ミュゼプラチナム。(写真/編集部)
既報の通り、ミュゼプラチナムの運営会社が経営破たんした。8月18日、破産管財人が破産手続開始決定を報告している。
過去最大級の債権・負債を抱えた脱毛サロンの行き詰まりは、低価格で脱毛を提供する時代の転換点となる可能性がある。美容医療にとっては前向きにとらえられる側面も見える。
コロナ禍と脱毛サロンの苦境

脱毛サロンの倒産。過去最多を更新。(出典/東京商工リサーチ)
- 脱毛サロンの倒産続出→2022年「脱毛ラボ」、2023年「C3」「銀座カラー」、2024年「ビー・エスコート」など。医療脱毛クリニックも破たん。
- 世界的傾向→美容医療全般の関心は上昇。理由はリモート会議で顔を見る機会増加、韓国美容人気、ダウンタイム中に人と会う必要がなかったため。
- 日本の特徴→ケミカルピーリング関心は増加したが、レーザー脱毛・豊胸は関心減少。外出機会減少が背景と推測。
振り返ると、このおよそ4年間に脱毛サロンの倒産が相次いだ。
2022年には「脱毛ラボ」運営のセドナエンタープライズ、2023年は「C3」運営のビューティースリー、「銀座カラー」運営のエム・シーネットワークスジャパン、2024年には「ビー・エスコート」運営のセピアプロミクスが相次いで破たんした。さらに「アリシアクリニック」を運営する医療法人も経営破たんするなど、エステ脱毛だけでなく医療脱毛にも不安が広がっている。
これらの倒産が報じられた際には、ビジネスモデルにも注目が集まった。脱毛サロンは前受金を利用して大量に広告を打ち、人を集め、さらに広告に投資する仕組みを取っていた。売上が伸び続ければ成立するが、伸びが止まれば自転車操業のように立ち行かなくなる。
では、なぜ売上が伸びなくなったのか。最大の要因はコロナ禍とされた。外出機会が減り、肌を人前にさらさなくなったことで、脱毛を必要としない人が増え、新規に脱毛サロンを利用しようとする人も減少した。
この現象は海外研究でも指摘されている。米国の研究グループが2023年5月に美容医療誌で発表した論文は、2020〜2022年の世界の検索トレンドを分析し、美容医療への関心の変化を報告している。
世界的には、美容医療全般への関心は高まった。その理由は、コロナ禍でリモート会議が増え、自分の顔を見る機会が増加したこと、K-POP人気を背景とした韓国美容への関心上昇、ダウンタイム中に人と会う必要がなかったことなどだった。特に、豊胸、ヒアルロン酸注入、レーザー脱毛、脂肪吸引、フェイスリフトといった施術の関心が増加していた。
一方、日本では異なる動きが見られた。ケミカルピーリングへの関心は増加したが、レーザー脱毛と豊胸への関心は減少したと報告されている。理由は論文でも深掘りされていないが、外出や肌の露出機会が減ったことが背景にある可能性が指摘できる。
脱毛関心低下の裏側にある動き

拡大する美容医療市場。(出典/矢野経済研究所)
- 日本の美容医療市場の拡大→2020年に4050億円へ一時減少したが、2024年には6310億円へ拡大。非外科的治療を中心に支出が増加。
- 脱毛・豊胸への関心低下→全体的な関心は高まる中で、この2領域だけが低下。理由は明確でないが、支出が注入治療やスキンケアへシフトした可能性。
- 業界への影響→脱毛サロンの前払い依存モデルが淘汰され、業界健全化の契機になる可能性。
不思議なのは、日本でもコロナ禍以降、世界的な傾向と同じく美容医療全体への関心は高まっていた点だ。矢野経済研究所の報告によれば、国内の美容医療市場は2020年に一時微減し4050億円だったが、その後増加を続け、2024年には6310億円に達している。非外科的治療を中心に出費は確実に増えており、美容医療への心理的ハードルは下がっている。
そのなかで脱毛や豊胸の関心だけが低下するという、一見世界と逆行する動きが起きた。理由は明確ではないが、美容医療を行い、それを公言する人が増えたことで支出の方向性が変化した可能性がある。
つまり、これまで脱毛や豊胸に向かっていた出費が、注入治療やスキンケア施術など他の美容医療に移ったのではないか。肌を露出したり、人と直接会ったりする機会が減少したことも、脱毛や豊胸の優先順位を下げたと考えられる。
美容医療全体の関心が高まる一方で脱毛業界が打撃を受けたのは事実だが、前払い依存の不安定なビジネスモデルが淘汰され、業界の健全化が進む契機となる可能性もある。
海外ではコロナ禍でも脱毛への関心は高まっており、日本とは異なる動きを示した。理由はまだ明確ではないが、世界的な美容医療関心の高まりの中で、脱毛は主要施術の一つとして引き続き注目されるだろう。
現時点では国内の脱毛市場は厳しい状況にあるものの、美容医療市場全体が拡大していることを踏まえれば、今後脱毛への関心も再び高まる方向へ転換する可能性は十分に考えられる。
参考文献
脱毛サロン16社破たん、2024年過去最多、安全・安心の受け方求められる、直近2年超の被害者27万人超え、東京商工リサーチが集計の結果を報告
https://biyouhifuko.com/news/japan/10939/
Lem M, Kim JK, Pham JT, Tang CJ. Effect of the COVID-19 Pandemic on Global Interest in Plastic Surgery. JPRAS Open. 2023 May 21;37:63–71. doi: 10.1016/j.jpra.2023.05.002. Epub ahead of print. PMID: 37360055; PMCID: PMC10200276.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37360055/
美容医療市場、引き続き拡大し6310億円、矢野経済研究所が報告、2024年も非外科的治療などがけん引、アンチエイジングへの注目など心理的ハードル下がる
https://biyouhifuko.com/news/japan/13379/
