ポイント
- 再生医療の治療を受けた外国籍の人物がアナフィラキシーショックで死亡。
- 実際に、公開されている情報を参考に、クリニックに足を運んでみた。
- 情報公開や医療と美容のルール作りなど、課題を感じる結果に。
東京都内で再生医療を提供しているクリニックで、細胞を使った治療を受けた外国籍の人物が、治療後に急変して死亡した。
厚生労働省が2025年8月29日にこの事故報告を受けて情報を公開し、関連の再生医療などの提供一時停止などを命じた。
この一連の状況に関連し、根本的に改めるべき課題があるのではないか。
クリニックと開設者の変更が届けられていた

再生医療を原因として死亡が発生。(出典/厚生労働省)
この死亡は、報道ではアナフィラキシーショックとの指摘もあるが、厚労省資料では急変・心停止とされており、因果関係は未解明。アナフィラキシーショックが関係するとすれば、蕎麦やピーナッツなどでも発生するアレルギー反応で、どんなものでも体内に入れば起こる危険性がある。クリニックが事前の検査を怠っていれば問題と言えるだろう。今後、その原因究明が待たれる。
ただ、ここでは、この事故を一つのきっかけとして、再生医療の情報公開や運用の根本的な問題について指摘して改善を提案する。
厚労省の公表資料によると、事故は2025年8月20日に発生したようだ。
同資料によると、8月22日に事故を起こしたというティーエスクリニックは東京サイエンスクリニックに名称変更したと届出されている。また、このクリニックの開設者は、一般社団法人THだったが、こちらも8月25日に一般社団法人日本医療会に変更しているという。
筆者は、厚労省が提供する再生医療のリストサイトから、ティーエスクリニックを調べてみると、東京都中央区銀座5丁目にティーエスクリニックとあった、さすがにこちらの名称変更は間に合っていないのかもしれない。
事故を起こしたクリニックはどこにある?

厚生労働省の再生医療でティーエスクリニックを確認。(出典/e-再生医療)
一般社団法人THも、日本医療会も、ティーエスクリニックも、東京サイエンスクリニックも、ウェブ検索してみても出てこない。
そこで、このクリニックに足を運んでみた。
すると、銀座5丁目というと、銀座和光や銀座三越、鳩居堂にもほど近い、銀座の一等地、国内でも有数のエステ企業が入居するビルの9階に、ティーエスクリニックとも、東京サイエンスクリニックとも名称が全く異なるTokyo Stemcell Researchとあった。東京サイエンスクリニックではないようだ。
GoogleでTokyo Stemcell Researchを検索すると、日本東京幹細胞移植治療研究所が出てきた。その住所は東京都中央区銀座4丁目となっていたので、そこに足を運ぶと、そちらは閉業しているということで、別の再生医療クリニックが入居していると見られた。
すると、Tokyo Stemcell Researchが、何らの事情で、4丁目から5丁目に移転したのかもしれない。
Tokyo Stemcell Researchに電話をしてみると、日本東京幹細胞移植治療研究所が応答し、運営するのは一般社団法人THで、ティーエスクリニックは、同法人が運営する別のクリニックということだった。
厚労省の公表資料では、一般社団法人THはクリニックの運営から外れているということなので、何らかの事情で、ティーエスクリニックは、一般社団法人日本医療会に移したものの、受付では把握しきれていなかったのかもしれない。
*その後、電話代行会社というところから非通知番号から電話がかかり、受付の説明は誤りだとお詫びがあった。
こうした命の関わる事故を起こし得る再生医療で、他の事故もこれまでに報告されていることを踏まえても、再生医療の提供医療機関の情報公開は改めてもよいのではないか。
少なくとも連絡先などは示されていたほうがよいように見えた。そこで、再生医療のリストについて改めて確認した。
上記、ティーエスクリニックのところには、届出資料も公開されていた。
そこにあったのは、発信している責任者の連絡先はなく、ティーエスクリニックと、院長の名前しか記載されていなかった。開設者である法人名も、住所も電話番号もメールアドレスもない。
クリニックの名前が変われば、この再生医療リストのどれが当てはまるのか分からない。一般の人が連絡する手段は分からない。
こうした最低限の情報は公開することが、問題発生前に問い合わせするなどのためにも必要と考える。問題発生したときにはなおさら必要になる情報だろう。
なぜ「慢性疼痛」が目的?

銀座を歩いて考えた。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
このほか資料はいくつかの再生医療の目的ごとに届出資料が公開されているが、この中に今回の事故と関連する「慢性疼痛」がある。長引く痛みを主訴にして再生治療を受けるというものだ。
「慢性疼痛」を目的として届出資料が多数存在している。
慢性疼痛がなぜ多いかといえば、国内で美容やアンチエイジングを目的として提供される再生医療が、慢性疼痛を目的として提供されることが多いからだと考えている。
なぜこんなことになるかといえば、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(安確法)」によって、日本国内では、自費診療や研究目的で、再生医療を民間の審査を受けるプロセスで提供できるようになっているが、あくまで対象は「医療」に限られているからだ。つまり「美容」や「アンチエイジング」は対象になっていない。
一般に海外の富裕層が、日本にアンチエイジングなどのために再生医療を受けているといわれることがあるが、実際には、美容やアンチエイジングのために再生医療等の審査を受けて、認められて提供している医療機関はない。あるとすれば、それはあくまで違法の再生医療となる。
慢性疼痛は、免罪符になっている。美容やアンチエイジングを目的として再生医療等を提供することはできないが、慢性疼痛を軽くすることを目的とすれば、医療として提供できるということをうまく生かしているという意味だ。
誰しも体の痛みは、多かれ少なかれ持つものだ。肩が痛い、腰が痛い、節々が痛いなどの症状さえあれば、美容やアンチエイジングを真の目的として細胞移植を受けることが可能となる。
こうした状況は、問題とまでいえないかもしれず、秘密とまではいえないかもしれないが、美容やアンチエイジングを目的とできない中で、実質に美容などが目的とされている状況を考えれば、いわば公然の秘密にも見える。
医療と美容を分けてとらえ続けるからこんなことになる。ルールを整備して、情報公開も含めて、問題を起こさない体制を、公的な体制で統制すべきだろう。
参考文献
再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_62642.html
届出された再生医療等提供計画(治療)の一覧
https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/published_plan/index/2
【訂正】
・本文で同法人が運営する別の法人と記載していましたが、正しくは同法人が運営する別のクリニックです。また一般社団法人THは名称変更という表記をしましたが、ティーエスクリニックの開設者からは外れている状況となります。(2025/8/30)
