
点滴。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
国内で2025年8月に再生医療に伴い外国籍の人物が治療後に急変し、亡くなったことが明らかになった。これを受けて、再生医療関連の有害事象についての論文を確認している。
前回は、2018年に複数のケースをまとめた論文を確認したが、今回は2021年の欧州からの死亡事例の報告を見る。
これは、未承認の幹細胞治療を受けた人物が重篤な合併症を発症し、最終的に死亡したケースだった。
未承認の幹細胞治療の半年後から異変が起こる

細胞を培養して治療に使う。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 事例の特徴→海外で未承認の再生医療を受けたケース、「幹細胞ツーリズム」の危険性を示す症例報告
- 患者→末期腎不全で透析中の48歳男性(2018年、ウクライナのクリニックで幹細胞注射を受ける)
- 最終的な経過→医療機関での治療後に一時的改善するも、退院4日後に自宅で死亡
報告したのは、スロベニアの研究グループ。欧州医学研究誌で報告されたものだ。
海外に渡航して未承認の再生医療を受ける 「幹細胞ツーリズム」の危険性を示す症例報告となっている。日本国内の8月の死亡事例も、外国籍の人物が死亡したと伝えられており、医療ツーリズムに伴う可能性があり、問題として共通している可能性がある。
報告によると、末期の腎不全で透析治療を受けていた48歳男性が、2018年にウクライナのクリニックで、胚性由来と説明された幹細胞の静脈注射を1回だけ受けていた。
これが実際に「胚性幹細胞」かは明らかではないものの、胚性幹細胞だとすれば、それは、受精卵が細胞分裂していく過程で、一定の大きさの胚に成長した際に、その中から採取できる細胞を指す。一般的には「ES細胞」と呼ばれているタイプに相当すると考えられる。これは自分自身の細胞を使った治療ではない。
論文によると、クリニックは、「臓器機能を改善し若返りをもたらす」と説明していたという。治療を受けた人物は腎臓の機能が低下していたということで、その回復のために効果があると期待したと予想される。
治療前の検査や治療内容についての詳細は不明だったというが、治療から6カ月後に患者の体には壊死性皮膚潰瘍が現れた。皮膚の表面の組織が死んだ状態になる異常な状態だ。
さらに、9カ月後には、胆汁うっ滞性肝炎、心機能の悪化が発生した。つまり肝臓や心臓に異常が現れたことになる。その後、医療機関での集中的な治療により一時的に改善は見られたものの、退院4日後、自宅で死亡した状態で発見された。
幹細胞の製剤そのものや培地の成分などが関与か

研究が不十分な治療が存在する。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 症状の原因→肝障害・皮膚潰瘍・心機能悪化は、糖尿病や腎不全だけでは説明困難と研究チームが分析
- 想定される要因→患者本人の細胞ではない幹細胞製剤や培地の成分による毒性の可能性
- 被害の内容→身体的ダメージに加え、高額費用による経済的・精神的打撃も発生
研究チームは、肝障害、皮膚潰瘍、心筋症の悪化は、元々男性が抱えていた病気である糖尿病や腎不全などだけでは説明ができなかったと説明する。このため患者本人の細胞ではない幹細胞を含む製剤そのものや培養に用いられた培地の成分による毒性の影響があった可能性が推測されている。
患者は高額な費用を支払ったにもかかわらず改善せずに、命を失う結果となり、身体的な被害だけでなく、経済的、精神的な打撃にもつながったことになる。
今回の過程からは、幹細胞の治療とその後の有害事象の関係性が完全には解明されたわけではないことが分かる。しかし、因果関係が否定できない有害事象のデータが科学的に報告されたことは意味がある。再生医療において予測できない合併症が起こり得るという点は注意する必要があるのだろう。
また、治療直後だけではなく、半年後以降にまでリスクが存在するということも重要な点だろう。治療を受けた後は、長期にわたって、その影響を確認することが大切であることも知っておくべきだろう。
臨床試験で有効性や安全性を証明されておらず、科学的な根拠の乏しい再生医療の利用を検討する場合には、そのリスクを理解することは欠かせない。
