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厚労省通知「メールやチャットの診療」違法の恐れ、オンライン診療はリアルタイム情報が必要、キャンセル不可や高額処方などトラブル増加の報告も【連載・厚労省通知】

カレンダー2025.9.26 フォルダー連載・コラム
厚生労働省に要望書。(写真/Adobe Stock)

厚生労働省に要望書。(写真/Adobe Stock)

 厚生労働省が2025年8月に出した美容医療関連の通知を基に、その内容を連載で紹介している。

 前回は看護師による施術の違法性について取り上げたが、今回は「メール・チャットのみによる診断・処方」について。

 オンライン診療の普及に伴い、便利さから利用が増えている一方、違法の可能性があるケースが存在している。今回の通知では、法律違反の考え方を示している。

メールやチャットだけでは診療と認められない

オンライン診療ではリアルタイムの対応が求められる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

オンライン診療ではリアルタイムの対応が求められる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 通知の前提 → 医師法第20条で「無診察治療は禁止」と定められており、診察には問診・視診・聴診など一定の診断行為が含まれる。
  • オンライン診療の条件 → 指針ではリアルタイムでの視覚・聴覚情報を得る通信手段が必須。文字・写真・録画動画のみでは不十分とされた。
  • 違法となる例 → メールやチャットだけで診断・処方を行う行為は、情報が限定的で診察に当たらず、医師法第20条違反となる恐れがある。

 今回の通知は、厚労省が2022年2月に出した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を参考に、美容医療でのオンラインでの診断や処方についての法律的な白黒を明確にしようとしている。なお、この指針では、オンライン診療について、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」と定義付けている。

 通知では、大前提として、法律では診察をせずに治療などをすることが禁じられていることを示している。具体的には、医師法第20条によって、無診察で治療などを行うことが禁止されている。この「診察」とは、問診、視診、聴診などの手段を問わず、現代医学の中で一定の診断を下し得るものと説明した。

 その上で、医師法第20条の関係で「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が定められていると触れた上で、この指針に基づいて、オンライン診療では、可能な限り多くの診療情報を得るため、リアルタイムでの視覚や聴覚の情報を含む情報通信手段を採用することを求めた。逆に、オンライン診療において、文字、写真、録画動画のみのやり取りでは完結してはいけないと指摘した。

 これを踏まえて通知では、違法な例を示している。メールやチャットによるやり取りはリアルタイム性に欠けるため、得られる情報が限定的と指摘。こうしたメールやチャットだけの情報に基づき、医学的情報が十分でないにもかかわらず、画像や動画のみで診断や処方を行おうとする問題を挙げている。その上で、対面診療と同等の診察が行われていないにもかかわらず、診断や処方などを行えば、オンライン診療指針に反し、医師法第20条違反になる恐れがあると整理した。

GLP-1薬、美肌、薄毛などの薬処方どうなる?

チャットだけでは違法と判断される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

チャットだけでは違法と判断される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • メール・チャット処方 → 通知に基づけば違法とされる可能性が高く、GLP-1薬や美肌・薄毛治療薬など美容医療で普及するオンライン処方にも行政対応の余地がある。
  • 残るグレーゾーン → 例えば、医師並みの能力を持ったAIが登場したとして、利用者対応を行う場合、それが「リアルタイム診療」に当たるかなど課題になる可能性。
  • 今後の課題 → 基準の明確化で合法的なオンライン診療は増える一方、キャンセル不可や高額処方などのトラブルが国民生活センターから報告されており、防止策が求められる。

 国内では、薬のオンライン処方をはじめ、メールやチャットだけで薬の処方を受けられるサービスが存在している。

 今回の通知に基づくと、メールやチャットだけで薬を買う状況は違法と考えられる。

 美容医療では、主に薬のオンライン処方が普及し、メールやチャット中心に行っている例もあり得る。最近、広がり始めた検索サイトのAIモードで調べると、オンライン診療で処方を受ける方法は簡単に見つけることができる。美容医療では、GLP-1受容体作動薬のオゼンピック、マンジャロ、ウゴービ、ゼップバウンドといった薬のオンライン診療による処方が広がりを見せている。このほかにも美容医療関連では、美肌、スキンケア、薄毛などの薬の処方が行われており、提供するクリニックで方針は異なると見られるので、今後、違反があるところには行政対応が行われる可能性もあるだろう。

 グレーゾーンは残る可能性も考えられる。通知では、リアルタイムでの情報を得ることがオンライン診療では必要であると説明しているが、例えば、リアルタイムに医師並みの能力を持ったAIが登場したとして、これが利用者への対応を肩代わりする場合、それが「リアルタイムでの診療」に当たるかどうかは通知だけでは判断することが難しい。こうしたオンラインのサービスは大丈夫なのかは個別に判断されることになる。

 ただ、厚労省から基準が示されたことで、ルールに則ったオンライン診療も増えてくる可能性もあり、今後、オンラインでの薬の処方がさらに増える可能性もある。国民生活センターの2023年の報告では、オンライン診療では、キャンセルできない、説明なく高額の薬が処方されたなどのトラブルが報告され、増加傾向にあると明らかにされている。トラブル防止も課題だろう。

参考文献

美容医療関連通知(厚生労働省)

オンライン診療の適切な実施に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000901835.pdf

美容医療の「違法ライン」を厚労省が通知で明示、2024年検討会報告書を基に法的解釈や行政対応など整理、警察庁・消費者庁とも連携【連載・厚労省通知】
https://biyouhifuko.com/news/column/14485/

美容医療のオンライン診療で相談急増、国のルール沿わないダイエット目的の薬処方の実態、糖尿病薬でトラブルも
https://biyouhifuko.com/news/japan/4866/

記事一覧

  • 美容医療の「違法ライン」を厚労省が通知で明示、2024年検討会報告書を基に法的解釈や行政対応など整理、警察庁・消費者庁とも連携【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14485/
  • 美容医療の「無資格診断・施術」違法性を明確化、脱毛・アートメイク・HIFUなど具体事例を明示、厚労省が報告書の法的解釈を解説【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14499/
  • 厚労省通知で医師の指示のない看護師単独での施術は違法、医師側にも管理責任、脱毛・アートメイク・HIFU施術などが違法な例に、美容医療での扱いを明確化【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14628/
  • 厚労省通知「メールやチャットの診療」違法の恐れ、オンライン診療はリアルタイム情報が必要、キャンセル不可や高額処方などトラブル増加の報告も【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14644/
  • 厚労省通知で診療録作成・保存義務を再確認、記載漏れも「義務違反」の可能性、閉院後も保存対象、美容医療でもカルテの重要性高まる方向に【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14671/
  • 厚労省通知で「診療時間中、原則医師は常勤」のルール再提示、1954年の通知内容を挙げる、安全体制の不備も違法と説明 美容クリニックに求められる組織のルール【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14789/
  • 厚労省通知で明確化された立入検査のルール、法律違反疑いで保健所が現場確認、非協力は刑事罰の対象になる可能性も【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14839/
  • 厚労省通知で行政対応フロー明確化、是正命令→業務停止→許可取消・閉鎖、都道府県知事による行政対応を説明、管理者変更命令や刑事罰も【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/14902/
  • 厚労省通知「美容医療に関する取扱いについて」、警察対応も明確化、無資格施術などは刑事事件にも、消費生活センターとの連携も指示【連載・厚労省通知】
    https://biyouhifuko.com/news/column/15030/

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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