
厚生労働省。(写真/Adobe Stock)
厚生労働省が2025年8月に出された美容医療に関する通知をもとに、その内容を連載形式で伝えている。
前回は看護師による単独施術の違法性について取り上げたが、今回は「診療録の作成・保存義務違反」に焦点を当てる。
美容医療を提供する医療機関のカルテの扱いについて、一般的な医療のルールを示すことで、実質的にその重要性を再認識させる内容になっている。
「記録していない」だけでなく「不十分な記録」も違反

診療後に診療記録を作成することが義務付けられている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 診療録の作成・保存義務 → 医師法第24条により、診療内容を遅滞なくカルテに記載し、原則5年間保存する必要があり、違反すれば50万円以下の罰金の可能性。
- 記載すべき内容 → 氏名、住所、診療日、病名、主要症状、治療内容などが医師法施行規則で定められ、欠落すれば「作成義務」を果たしていないと判断され得る。
- 保存と開示の責任 → 医療機関廃止後も管理者が保存すべきであり、診療を受けた人から求められた場合にはカルテを原則開示する義務がある。
通知では、診療録、いわゆるカルテの作成と保存に関して、医師法に基づく明確なルールが存在することが示された。
通知によると、医師法第24条では、医師が診療を行った際には、その内容を「遅滞なく診療録に記載」しなければならず、記録は原則として5年間、医療機関の管理者が保存しなければならないと定められている。これらの義務に違反した場合、医師法に基づき50万円以下の罰金が科される可能性がある。
また、診療録に記載すべき具体的な内容は、診療を受けた人の氏名、住所、診療日、病名、主要症状、治療内容などがその対象と医師法施行規則第23条で詳細に定められている。
通知では、これらの項目が欠落している記録については、「作成義務を正当に果たしていない」と判断される可能性があるとした。
さらに、医療機関が廃止された場合の取り扱いについては、「廃止時点における管理者が保存するのが適当」とされ、閉院後であっても記録を保存しておく責任が残るとしている。
カルテの原則開示ルールも示された。施術を受けた人からカルテ開示を求められた場合には、原則として応じる必要があるというものだ。
また、通知では、違法なケースとして次のような例が挙げられている。診療を行ったにもかかわらず診療録を全く作成していない場合や、記載要件を満たしていない場合は、いずれも医師法第24条違反となり得る。
美容医療でも守られるべき原則と読み取れる

診療録を記録し、保存する。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 美容医療にもカルテルール適用 → 通知に明示はないが、美容医療関連で示された以上、診療録の法的ルールが美容クリニックにも適用されると解釈するのが自然。
- 施術を受ける側のメリット → カルテが残され開示されやすくなることで、自分が受けた施術内容を後から確認しやすくなる。
- 今後の方向性 → 電子カルテを普及される一般的な動きが進む中、美容医療でも施術内容を利用者と共有する仕組みが一般化する可能性もある。
通知内では、こうした診療録に関する法律が「美容医療にも適用される」などと明示しているわけではないが、美容医療関連の通知に書かれている以上、ルールが美容医療でも守られるべき原則と受け取るのが自然だろう。
美容医療の現場では、カルテが残っていない、記載が不十分という状況を耳にすることはある。しかし、今後は、通知で示されたカルテのルールが美容クリニックにも適用される方向と考えられる。美容医療を受ける人にとっては、施術後にカルテの内容を確認できるようになり、自分の受けた施術がどのようなものだったか知りたいときには、開示対応が受けやすくなり、施術内容をより詳しく理解できるようになることが考えられる。
日本国内では、美容医療にかかわらず、カルテを電子的に保存するように求めるルール変更が行われる方向になっている。今後、美容医療でも、施術後に施術内容を利用者と共有するような動きが一般的に求められるようになる可能性も考えられる。
