クマ取りの手術では、自然な見た目を実現するため細かな配慮が求められる。最近、ナチュラルな仕上がりが重視される中で、どのようなポイントに気を付けるとよいのだろうか。神戸大学客員教授で、RE_CELL CLINIC医師 原岡剛一氏は、光と影のバランスの調整、出血の最小化、眼輪筋を大切にする手術など、自然な仕上がりにつながる具体的な工夫について語る。
原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
神戸大学客員教授 RE_CELL CLINIC医師
- クマ取り手術の目的→光と影のバランスを整え、暗い印象を与える下まぶたを明るくする
- 適切な止血管理の重要性→電気メスで最小限の止血を行い、熱損傷を防ぐことでダウンタイムを短縮し、仕上がりの質を向上
- 合併症のリスク→神経損傷など、感覚に影響を与える重大な合併症が報告されることもあり、解剖学の知識が欠かせない
──手術には繊細さが求められる。
原岡氏: 私はクマ取りの手術の際、筋肉の処理や脂肪の移動を行いながら光と影のバランスを考えるようにしています。
例えば、目の下のへこみを埋め、膨らみを整えることで、光が当たる部分と影になる部分を整えるというコンセプトです。眼輪筋は顔の骨にしっかりと付着しています。そのため、その部分には脂肪が存在しないために、へこみを生じ、影の原因となっています。
つまり、眼輪筋が骨に付着した部分を剥がして、へこみの部分を浮かせてやります。その部分に、脂肪で膨らんだ部分から脂肪を移動させて、へこみを埋めてあげるわけです。もちろん眼輪筋と骨の付着は非常に強固ですので、ハサミや電気メスを用いて手術する必要がありますが、その結果、影だった部分に光が当たり、クマで暗い印象を与えていた下まぶたが明るくなります。
──手術技術が重要。
原岡氏: 例えば、出血をいかにコントロールするかも大事です。
電気メスで組織に熱を加えて凝固させる、いわゆる「焼く」ことで出血を抑えることはできますが、最低限の止血操作により適切な手術を行うことが、ダウンタイムを少なくするには必要です。
すべてを焼きながら、熱損傷が広範囲に及び、組織が黒く変色しているケースもあります。私は「絨毯爆撃」と呼んで、そのような手術は行いませんが、もちろんそんなヤケドの状態にされた組織の回復は遅れると予想されます。それはダウンタイムを長引かせ、最終的には仕上がりの質を損なう結果につながります。
もう一つ、まれに重大な合併症が報告されることがあります。例えば、眼窩下神経という顔の感覚を司る神経が損傷したケースがSNSで紹介されていました。解剖を理解していない医師が手術を担当することなどあり得ないと思います。
では、なぜそんなことになるかといえば、たとえば出血が多く視野が確保されていない状況、つまりよく見えないで手術が行われた場合には起こりうる合併症だと思います。止血がうまくいかないとそうしたリスクも高まります。安全な手術には適切な止血管理が欠かせませんし、上でも述べましたように、それは整容的にも、ダウンタイムの面からも良い結果につながります。
このような方法を駆使して、私は患者さんにとって自然で美しい結果を提供できるよう努めています。手術方法にはさまざまなやり方がありますが、これまでの形成外科医としての経験と技術を活かして、患者さん一人ひとりに最適な治療を提案していきたいと考えています。
- 下まぶた手術の重要性→自然な表情を保つことが最も重要で、特に涙袋がその役割を果たす
- 裏ハムラの利点→眼輪筋を温存するため、自然で美しい涙袋を形成しやすい
- 手術選択の多様性→患者の状態や背景を考慮し、表ハムラ、裏ハムラ、脱脂術など最適な方法を選択することが大切
──下まぶたの状態に注目する。
原岡氏: 最近、下まぶたの手術を行う際に、大切なのは自然な表情だと考えています。
たとえば涙袋は、下まぶたの表情に非常に大切な役割を果たしています。なぜなら本来涙袋は、人が笑顔になる時、楽しい時、明るい気持ちの時に、眼輪筋の収縮によって現れるものです。ですから、涙袋はその方が楽しんでいる印象を周囲に与えます。
そんな涙袋ですが、下まぶたが「クマ」と呼ばれる状態になってしまった場合、涙袋はクマに隠れてしまい、目立ちにくくなってしまいます。
そして裏ハムラは、眼輪筋を温存するために、きれいな涙袋を求める方にはお勧めしたい手術です。
芸能人の方がテレビで並んで座っていると、ヒアルロン酸で形成された涙袋が常に大きく盛り上がっている方を見かけることがありました。涙袋を強調するメイクがはやった頃は、極端な涙袋を求める方が一時的に増加していました。多様性が重視される最近は、自然さを求める方も増加しており、それはクマ取りの世界でも同様だと思います。
──国内外の学会でも、多様性が求められる。
原岡氏: 大きな目に憧れる方は多く、目頭切開や目尻切開を希望される方も多いのですが、上にも述べましたが、多様性が重視される最近は、むしろ自然さを求める方も増えています。
──クマ取りが良くない形で広がった。
そもそもなぜクマ取りが流行したかというと、美容外科医がクマ取りの需要を意図的に高めた部分もあるのではないか?と思っています。需要が高まると、当然参画する美容外科医も増加します。
当初、クマ取りは脱脂術から広まりました。その後、表ハムラが広まり、裏ハムラが広まったわけですが、「裏ハムラができる医師が優れている」といった単純なものではないことはご理解いただきたいと思います。患者さんの状態、背景などを考慮して、適した治療法を提案し、提供することが大切です。
- 適切な手術の重要性→脱脂術自体が悪いわけではなく、患者に適した手術法を選択することが重要
- 術後写真の課題→SNS上で術直後の写真が多く見られるが、数カ月後の状態が重要であり、短期間の写真では判断が難しい
- 術後フォローの重要性→手術後の状態を半年間以上観察することで、最終的な仕上がりを正確に評価可能
──先の指摘のようにトラブルが起こる可能性もある。
原岡氏: 脱脂による問題が多く噴出しました。
かつて一部の美容外科医たちが、脱脂術で切除された脂肪が並べられ、あたかも「たくさん取るのが、良い手術」と言いたいような光景をSNSにアップしていました。中には切除した脂肪を患者さんの上に並べて、患者さんのお顔の上に絵を描いたようなものまで見られました。
そんな行為は道徳的に大問題で、看過できないのですが、手術の内容にも疑問が残ります。たくさん取ればその時は良いかもしれませんが、将来的には下まぶた全体がへこんでしまう危険性があります。
決して脱脂術が悪いわけではありません。脱脂術で綺麗な結果を出している先生もたくさんおられます。「大切なことは適切な手術」ということをおわかりいただきたいです。
──適切な手術こそ大切。
原岡氏: 最近では、SNSを拝見していると、裏ハムラの症例が多くなっているように感じます。
そうした中に術直後の写真が載っていることがあります。フォローしていても術後1カ月程度の経過写真のみが公開されている場合が多々あります。正直に申し上げると、それで何が分かるのだろうかという思いがあります。その時はきれいに見えていても、3カ月、半年と経過していった後、そこからどうなっていくかが重要です。
私はいつも患者さんに「SNSの手術直後の写真が腫れていないのは当たり前ですよ。なぜなら腫れる前の状態だからです」とお話ししています。そして「脂肪を取られ過ぎて、へこんでしまって後悔するのは数カ月経ってからです」ともお話ししています。
SNSをご覧になる際には、是非そのような点にも注意していただきたいと思います。
──実際に受けてみないと分からない?
原岡氏: 実際にどのような操作が行われているのか?は、手術を行っている医師自身にしか分からないのが現実です。
最近では患者さんが担当医を選ぶためにSNSを頼ることが圧倒的に多いのですが、残念ながらSNSを情報源として得られた情報の信頼性は高いとは言えません。一口に「裏ハムラ」と言っても、その中身は大きく異なることもあるのです。手術に関する情報はSNSだけに頼り過ぎるのではなく、実際に足を運んで情報を収集し、十分に熟考したうえで担当医を決定することが大切です。
──手術後の状態は変わっていく。
原岡氏: 私は手術後の患者さんを慎重にフォローしています。最低でも術後半年間の経過観察を行わなければ、最終的な仕上がりを正確に評価することはできないと考えています。
術後3カ月経っていても腫れが残る方もおられれば、逆に腫れが引くことで皮膚のたるみが目立つこともあるのです。長期間の経過観察は医師にとっても、貴重な経験であり、その蓄積は何ものにも変え難い大きな武器にもなるのです。(終わり)