ヒフコNEWS 美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイト

【2025年美しさとは】大学病院の役割と自由診療の課題、幼児のヘルメット治療や身長を伸ばす治療など新しい動きも、帝京大学形成・口腔顎顔面外科講座の小室裕造教授に聞く 後半

カレンダー2025.1.15 フォルダーインタビュー
小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏。帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授(写真/編集部)

小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏。帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授(写真/編集部)

小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏
帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授

  • 大学病院での美容外科教育→ 日本の大学では美容外科を学べる環境が不足。大学病院が保険診療を優先するため、多くの若手医師は外部クリニックで実務経験を積むのが一般的。
  • 形成外科と美容外科の関係→ 世代間で美容外科への意識に差があり、若い世代は美容医療を受け入れやすい傾向。一方で、従来の形成外科の枠組みにこだわる意見も残る。
  • 美容医療の時代的変化→ 日本でも美容医療への抵抗感が減少し、中高年や男性を含めた新たな層の利用が拡大中。ジェンダーレス化も需要増加の一因。

──大学病院では、形成外科と美容外科との間には依然として距離があるとされる。

小室氏: 日本の大学で美容外科を学べる環境は十分とは言い難い現状です。大学病院は保険診療が中心で、美容医療が正常な組織を扱うことに伴うリスクへの認識が強く、「美容はやらない」という方針を取るところが多いのです。

 その結果、多くの若い医師は大学病院の研修と切り離す形で、外部のクリニックで美容医療の実務を経験する形が一般的になっている。海外、特に米国などを見れば、大学の形成外科部門において美容外科の教育や研修を積極的に行っているケースも存在しています。やはり日本も、制度面・経営面の課題を乗り越えて、美容外科の教育を大学レベルで充実させる必要があると感じています。

──これからの形成外科と美容外科の関係は?

小室氏: 形成外科医の間でも、美容外科に対する見方は世代によって大きく違います。若い先生方は最初から「形成外科=美容を含む専門領域」という感覚で入ってくるので抵抗が少なくありません。上の世代は「形成外科は再建外科だ」というイメージが強く、「美容はちょっとどうなんだ」というネガティブな印象を持つ方もまだいます。教授クラスのなかにもそういう人がいますし、歴史的に見ても美容外科は「外科の中の特殊な分野」と考えられてきた歴史があります。

 ただ、私としては、時代の流れを見れば美容外科を外して形成外科を考えることは難しいと考えます。アジア人向けの術式をカスタマイズするのもそうですし、SNSなどを通じて若い人たちが情報を得るようになった今、美容医療はますます広がっていくと考えられます。世界の潮流を見ても、美容医療の需要は一時的に伸びが鈍ることはあっても、極端に縮小することは考えにくいです。若い世代が「当たり前」に感じてきた美容医療が、彼らが中高年になる頃には「若返り」のニーズに自然と結びついていくと考えられます。

──時代の変化がある。

小室氏: 実際、昔の日本では、中高年の方にとって美容医療に対する抵抗がかなり強い時代もありましたが、現在では価値観が変化しています。

 私が米国に留学していた頃、向こうでは中高年になったときこそ「第2の人生を楽しむため」に美容外科に踏み切る人が多かったのです。日本も徐々にそうした流れに近づいていると考えられます。ちょっとシミを取っただけで「人生が明るくなった」と喜ぶ方もいますし、今後は男性の利用者も確実に増加すると予測されます。まだそこまで高いわけではないけれど、ジェンダーレス化が進めば、化粧品を使う延長で「少し整形してみようか」という人が増える可能性が高いです。

──海外ではフェイスリフトなど若返り効果を狙って一般的に行われている。

小室氏: フェイスリフトというと、「切る」というイメージから敬遠されがちですが、熟練した医師が施術を行うと、非常に自然できれいな若返り効果が得られます。

 実際、欧米の方は皮膚が薄く、年齢が進むとシワが目立ちやすい分、フェイスリフトすると劇的な変化が見られる場合が多いです。40代くらいでしわしわになっていた肌が、まるで別人のようにピンと張るのを目にすると、改めて外科的アプローチの有効性を実感します。

 一方で、日本人は皮膚や皮下組織が比較的厚いので、同じ術式でも白人ほど目立った劇的変化が得られにくい傾向があります。それでも、皮膚タイプや加齢度合いによっては高い効果が期待できますし、最近はスレッドリフトで様子を見て、いずれフェイスリフトもやろう、という方も増えてきました。

 ただ、まだ日本では「大掛かりな手術」という先入観があって、欧米ほど一般的ではない現状があります。文化の違いもあるでしょうが、今後、中年以降の年代が増えるにつれ、「改めてしっかりリフトしたい」というニーズが高まると予測されます。

──形成外科の技術が生かされる。

小室氏: フェイスリフトは、形成外科の強みが特に発揮される領域です。私たちは顔面神経麻痺の治療や顔面骨の治療を日常的に扱っているので、神経や血管の配置に熟知しています。

 そこが安全性にも大きく寄与しているんです。フェイスリフトの仕上がりやダウンタイムに不安を感じる方もいるかもしれませんが、解剖を踏まえて正確に施術すれば、出血やダメージを最小限に抑えられますし、顔面神経への影響も十分に考慮されます。そういう点で、形成外科の技術が大いに役立ちます。

 適切に活用すれば、若返り手術には多くのメリットがあり、今後も需要が続くと考えられます。何より「美容医療でポジティブになれる」人が確実にいるのは事実。だからこそ美容外科を切り離して形成外科を考えるのは難しいと考えます。

  • 形成外科の魅力→ 形を整える技術に「デザインする楽しさ」を感じ、形成外科の道を選ぶ。創造的なプロセスがやりがいの源となる。
  • 自由診療の課題→ 自由診療分野では規制が追いつかずトラブルリスクが高い。学会連携やガイドラインの整備が重要。
  • 2025年の展望→ 美容外科の教育体制を再構築し、安全・安心な美容医療を提供。患者と医師が誇りを持てる環境作りを目指す。

──修練がその後につながる。

小室氏: 私は元々アートやデザインに興味があり、「手術でデザインをする」という形成外科の考え方に惹かれました。皮膚や骨をどう切り、縫合し、形を整えるか──絵を描いたり、造形作品をつくったりするような感覚に興味を感じました。

 私が形成外科の道を歩み始めた当時は形成外科自体がまだ新しい領域で、大学の診療科として標榜しているところも少なかった。それでも私は、「人の身体を再建、形成する」という分野に無限の可能性を感じ、自然にその道を選んでいきました。結果として、美容外科を含むさまざまな領域にも携わるようになったわけです。

──形成外科の力が発揮される。

小室氏: 一番の転機になったのが、「小児の頭の手術」に取り組んだことです。生まれつき変形している小児の頭蓋骨の形を修正してあげるというのは、リスクも大きいけれど、やり甲斐のある分野でした。

 実際、頭の形を修正する新しい術式を考案するために奮闘していた時期は、本当に夢中でやっていました。形成外科医にとって、新しい技術や術式を工夫して形づくる作業は、まさに創造的なプロセスです。私にとって大きなやりがいの源となりました。今思えば、あの経験こそが「形成外科を選んでよかった」と心から思えた瞬間だったのかもしれません。

──頭の治療というと、最近、自由診療で赤ちゃんの頭の形をヘルメットで矯正する治療が人気だ。

小室氏: 赤ちゃんの頭蓋形態をヘルメットで矯正する治療です。それも自由診療です。米国などでは昔から広く行われており、頭の形を直す「ヘルメット療法」が一般的に行われてきました。薄い髪色のため歪みが目立ちやすく、歯並びの矯正と同じように「できるだけ早く矯正を」という文化が根付いています。

 でも日本では、髪が黒いせいもあって、そこまで気にしない人が多かった。一方で今は「早めに治さないと将来困る」と積極的な宣伝もあって、かなり商業ベースになってきている印象があります。なにしろ費用も50万円近くと高額で、若い夫婦には負担が大きいです。

 極端に頭の形が歪んでいたり、顔の非対称につながるような将来的な問題が予測されるケースではヘルメット矯正も良い選択肢と考えられます。ただ、軽度なケースにも美容目的として推奨される場合もあり、逆に倫理的な線引きがあいまいになっている部分もあって、小児の頭蓋骨の手術を行っている脳外科や形成外科の先生と指針を作る必要があると感じています。

──自由診療では、身長を伸ばすため治療も宣伝されることがある。韓国では問題も指摘されている。

小室氏: 「自由診療だから」という理由でルールが追いつかず、十分な規制が整っていないのが現状です。

 結局のところ、美容目的のヘルメット矯正や身長を伸ばす治療を否定するものではありません。必要な方々には役に立つ方法ですし、両親や本人が望んで受ける選択肢の一つとしてあり得る。ただ、その際にきちんとした病態の診断、医療としての安全基準や、問題が起きた場合の対応を取れる体制、費用面の透明性などが確立していないと、トラブルが起きるリスクは高まります。

 そういう意味でも、学会が連携してガイドラインを作るだとか、医療従事者が正しく情報を発信するとか、仕組み全体を整えることが大切だと感じています。

──2025年をどう展望しますか。

小室氏: 第一に「教育体制の整備」、第二に「安全・安心な美容医療の提供」のための取り組み強化です。

 これまでの医療制度や自由診療への懸念、大学病院とのかい離といった課題も整理し、2025年は「より良い環境づくり」に向けて大きく踏み出す年にしたいと思っています。私自身、形成外科のさまざまな分野に携わってきた経験から、大学での教育・研修システムの再構築が不可欠だと痛感しています。そのためには美容外科で開業されている先生方との連携が欠かせません。

 施術を受ける方々も医師も安全・安心に、そして誇りをもって美容医療に取り組める土台を築くことこそ、私たち形成外科医の責務。今後もご協力いただきながら、一丸となって美しく健全な美容医療の発展をめざしていきたいです。

 今、美容医療の負の側面ばかりが目立って、「美容医療は悪者だ」という風潮になりそうなのが、とても怖いです。実際には患者さんをハッピーにできる「夢のある医療」なんですが、安全・安心に提供するためにはきちんとした体制づくりが必要ですよね。(終わり)

プロフィール

小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏。帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授(写真/編集部)

小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏。帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授(写真/編集部)

小室 裕造(こむろ・ゆうぞう)氏
帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科学講座 教授

86年、千葉大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院形成外科入局、東京都立駒込病院形成外科医員などを経て、順天堂大学医学部形成外科講師。

99年に米国イェール大学へ留学。帰国後、順天堂大学医学部附属浦安病院形成外科・美容外科教授を経て、2015年より現職。

頭蓋顎顔面外科、顎顔面変形、再建外科など広範な実績を有する。日本形成外科学会専門医、日本美容外科学会専門医。日本形成外科学会、日本頭蓋顎顔面外科学会、日本創傷外科学会、日本美容外科学会の評議員など公職も多数務める。

記事一覧

  • 【2025年美しさとは】若返り治療から鼻形成まで、これからの美容医療、第48回日本美容外科学会(JSAPS)総会の展望、帝京大学形成・口腔顎顔面外科講座の小室裕造教授に聞く 前半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/10884/
  • 【2025年美しさとは】大学病院の役割と自由診療の課題、幼児のヘルメット治療や身長を伸ばす治療など新しい動きも、帝京大学形成・口腔顎顔面外科講座の小室裕造教授に聞く 後半
    https://biyouhifuko.com/news/interview/10898/

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

お問い合わせ

下記よりお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。