堀田和亮(ほった・かずあき)氏
医療法人社団SMILE LAND理事長/BIANCA CLINIC
- 日本の美容医療の課題→ 日本の美容医療は「安心・安全」「高い技術力」が強みだが、韓国のようにエンターテインメントやカルチャーを活用した発信力が弱い。
- 国際的な競争力向上→ 国際学会での症例発表や海外来院者向け情報提供を強化し、日本の美容医療を世界にアピール。
- 来院者の多様化→ 海外からの来院者の約5割が米国の白人層。白人、黒人、アジア系など多様な肌タイプに対応するノウハウを蓄積。
──日本の美容医療はどう進化?
堀田氏: 現状、日本の美容医療が海外で十分に認知されていない理由の一つに、「発信力の弱さ」が挙げられます。
例えば、韓国はK-POPやドラマといったエンターテインメントを通じて自国の美容医療を世界にアピールすることに成功しました。多くの人々の憧れの対象になっています。一方で、日本の美容医療は「安心・安全」「高い技術力」という大きな強みを持ちながらも、それを効果的に世界に伝えきれていないのが実情です。
日本の美容医療が国際的に競争力を持つためには、エンターテインメントやカルチャーを活用して発信力を高める必要があります。例えば、日本のアニメやアイドル文化はすでに世界的に浸透していますが、それが美容医療に結びついているわけではありません。韓国のように「美容=憧れ」という構図を日本でも作り上げる取り組みが求められると思います。
私たちのクリニックでは、まず国内でしっかりと信頼される治療を提供し、その実績を基に海外への発信を進めています。国際学会での症例発表や、海外からの来院者向けの情報提供など、日本の美容医療の魅力を具体的な形で伝える活動を強化しています。また、アメリカやヨーロッパなどさまざまな国から訪れる方々に対応することで、日本の美容医療の国際的な競争力を高めています。
──海外からの来日外国人にも対応する。
堀田氏: 現在の円安の状況下で、日本の経済的価値を高める一つの方法として、日本にとってインバウンドは非常に重要なテーマです。日本の美容医療の魅力をさらに発展させ、内需だけでなく外需を取り込むことが鍵になると考えています。
私たちのクリニックでは、「海外事業部」を設置し、海外から訪れる方々がスムーズに治療を受けられる環境を整えています。従来のインバウンド事業では、中国人富裕層をターゲットにした再生医療が主流でした。しかし私たちはそれにとどまらず、さまざまなスキンタイプに対応できるクリニックを目指しています。
実際、私たちの海外からの来院者の約5割は米国から来院する白人層です。白人、黒人、アジア系など、さまざまな肌のタイプや特性に対応するためのノウハウを蓄積することで、多様な層を幅広く受け入れています。この取り組みによって、日本の医師たちは幅広い症例を経験し、技術をさらに磨く機会を得ています。このような経験は、医師個人のスキル向上にとどまらず、学会での発表内容にも多様性と深みをもたらし、美容医療全体の発展にもつながります。
一方で、インバウンド事業の課題として、「言語の壁」が依然として大きな障害となっています。多言語対応が不十分なために、海外から訪れる方々が不安を感じる場面があるのは事実です。この課題を解決するために、私たちのクリニックでは多言語対応スタッフの配置や翻訳ツールの活用を進めています。また、文化や習慣の違いにも配慮したホスピタリティを提供することで、治療を受ける全ての方が安心できる環境を整えるよう努めています。
- 自由診療の課題→ 自由診療へ移行する医師の増加が問題視されており、背景には保険診療の収入構造や制約が影響している。医療全体のバランスを取る制度構築が必要。
- クリニックの取り組み→ 勉強会や研究会を通じて技術や知識を共有する「カッティングエッジ」プロジェクトを立ち上げ、医師のスキル発信と美容医療全体の活性化を目指している。
- 未来の美容医療への考え方→ 流行に流されず、誇れる医療を提供することで日本全体の美容医療のレベルアップにつなげていくことが重要。
──自由診療の中で、その人全体を診ていく医療、いわゆる「ホリスティック」な医療を提供。
堀田氏: 日本の医療制度には、国際的に見てもユニークな強みがあります。それは、医師が未承認の薬剤や機器を自らの裁量で使用できる自由度の高さです。この柔軟性は、日本の医療が持つアドバンテージの一つと言えます。しかし、この自由度がある一方で、日本国内で、厚生労働省が美容医療の検討会を開始し、結果として、自由診療を取り巻く規制が強化の方向となっています。
特に近年、自由診療へ移行する医師が増加していることが課題として浮上しています。いわゆる「直美」のような問題が象徴するように、この流れは美容外科だけでなく、他の診療領域にも波及する可能性があります。
ただ、こうした規制強化の背景には、保険診療の制約や収入構造の低さがあり、これが医療全体に悪影響を及ぼしている現状があるのではないでしょうか。保険診療の充実は、日本の医療を持続可能にするための鍵だと考えています。ですから、自由診療が抱える課題を解決するだけでは十分ではないのでしょう。保険診療の制度的な課題にも向き合い、全体としてバランスの取れた医療制度を構築することが、日本の医療全体のために必要だと考えています。
──そうした中で、クリニックの体制の充実を図っている。
堀田氏: 私たちは、クリニック内外の垣根を超えて、勉強会や研究会を通じて知識や技術を共有する活動に力を入れています。その一環として立ち上げた「カッティングエッジ」というプロジェクトでは、従来の学会が持つ閉鎖的なイメージを払拭し、医療従事者がスポットライトを浴びながら、自分たちの取り組みを発信できる新しいステージを提供しています。
この取り組みは、美容医療の発展だけでなく、そこで働く医師たちのモチベーション向上にも寄与しています。従来の学会では十分に評価されなかった医師のスキルや成果を、より明確に打ち出す機会を作ることで、美容医療全体を活性化させることを目指しています。
また、こうした活動を通じて、日本の美容医療をもっと海外に発信したいという思いがあります。日本には「安心・安全」「高い技術力」という大きなアドバンテージがありますが、それを効果的に発信できていないのが現状です。こうした取り組みを強化し、多様な文化圏へ日本の美容医療の魅力を伝えていくことが、今後の課題であり可能性でもあると考えています。
──日本の美容医療をさらに発展させるためには。
堀田氏: 日本の美容医療の未来を考えたとき、私たち一人ひとりが「かっこいい医療」を提供することが大切だと思っています。それはただ流行を追いかけるのではなく、自分たちが誇れる医療を提供し続けること。それが結果として、日本全体の美容医療のレベルアップにつながると信じています。(終わり)
プロフィール
堀田和亮(ほった・かずあき)氏
医療法人社団SMILE LAND理事長/BIANCA CLINIC