
KAIROS(カイロス)院長の林鍾学(リム・ジョンハク)氏。(写真/編集部)
- 韓国の美容医療発展の背景→ 国内市場の小ささから海外技術の積極導入・応用が進み、症例の蓄積と臨床応用が加速された。
- 韓国製美容機器や製剤の強み→ 模倣から始まったが、低価格かつ高性能な製品に進化し、世界各国へ輸出。韓国企業の存在感が拡大。
- 江南区の施術トレンド→ 小顔・痩身を目指した非侵襲的な施術(脂肪溶解注射、HIFU、レーザー、糸リフト)が人気。ダウンタイムの少ない選択肢が好まれる。
──日本との関わりが深い。
林氏: 1980年に韓国で起きた光州事件の時に軍医を務めていたのですが、社会的に混乱していました。そこで、私は国外へ出ようと決め、大阪大学の皮膚科と形成外科で研修することにしたのです。そこで2つの分野で専門医資格を取得し、愛媛大学で博士号を取りました。
※光州事件は、韓国の南西部で起きた軍事政権への民主化運動。
その後、韓国サムソン駅に近いインターコンチネンタルソウルの中で開業しました。韓国では施設ごとに院長を置くことが義務付けられているため、一つのクリニックを拡張、大型化して運営する傾向があります。私が開業したのは30年前で、手狭になり現在の場所に移転してから20年以上が経過しました。
以前はクリニックが今ほど多くありませんでしたが、北のアックジョン地区から地下鉄三号線に沿って南下する形で、美容クリニックが次第に増えていきました。アックジョンの方には老舗の美容外科が多くあります。江南区では、現在、一つのビルに十数院ものクリニックが入居するほど、美容クリニックの密度が高まっています。今後も増えるでしょう。
──韓国の美容医療が進んでいるのはなぜ?
林氏: 日本は国内市場が大きいため、海外に出る必要がありません。それに対して韓国は国内市場が小さいため、日本のようにはいきません。どんどん新しいものを取り入れていく。海外に新しい技術や機器があれば積極的に取り入れていく。新しい手技も新しい機器もどんどん入れるのです。韓国の国民は、新しい医療技術を比較的早期に受け入れる傾向があるため、臨床応用が加速されます。そうすると、症例が蓄積されることで、さらなる新技術の導入が進みます。
一方で、韓国で開発した機器は、積極的に海外への導入を進めて、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けて、韓国に逆輸入する。韓国は積極的に攻めなければ、何も得られないのです。
日本はもっと保守的ですね。1980~90年代は日本の方が先進的であり、私たちが日本に学んでいました。それが2000年代以降は逆になって、韓国が先行して、韓国の医療機器が日本に入るようになりました。こうして韓国の美容医療が進歩したのです。
──韓国の美容医療機器や製剤は国際的に存在感が大きくなった。
林氏: 初期は海外の技術を取り入れて、模倣して製造していたのです。海外メーカーの製品を学び、改良して低価格で提供しました。価格競争が生じるため、製品価格は低く抑えることになります。そうしていると場合によっては、模倣製品の方が、性能面で優れる場合もあります。
今やボツリヌス製剤やヒアルロン酸製剤の韓国企業は多数に上ります。これらの製剤はアジア、欧米をはじめとした世界各国に輸出されており、グローバル市場における存在感を高めています。
──国内外から美容医療の施術を希望して人が江南区にやってくる。
林氏: 今は「小顔」を意識した施術が増えています。身体も痩身を目指して、脂肪溶解注射などが流行しています。リフトアップ施術では、超音波やレーザー、糸リフトが人気です。そうした非侵襲的な方法でも、十分に良好な結果が得られます。切開を避けダウンタイムを最小化する流れですね。
コラーゲンやヒアルロン酸の注入から、スキンブースター(バイオスティミュレーター)も増えています。ジェットインジェクターなど、針を使わずに製剤を注入する新しい技術も登場しています。
ただし、こうした製剤の注入では、皮膚の注入層を誤ると、しこりなどの合併症を起こしますから、解剖学の理解が不可欠です。
このほか日本のように医療行為として提供することは韓国では現時点では難しいですが、再生医療への関心も高いです。

KAIROS(カイロス)院長の林鍾学(リム・ジョンハク)氏。(写真/編集部)
- トラブル対応の重要性→ 美容医療におけるトラブルは避けられないが、予防と初期対応が重要であり、そのためには専門的な知識と教育が不可欠。
- 韓国の学会体制→ 韓国の形成外科学会は美容も含み、皮膚科・眼科・耳鼻科など多分野からも美容医療に参入しており、専門医が安全性を担保している。
- 韓国のトラブル事例→ 脂肪注入による敗血症、血管損傷、ヒアルロン酸による失明などの重篤な合併症は日本・中国・韓国に共通。
──日本では美容医療のトラブルが増えている。
林氏: 美容医療においては、何らかの施術を行えば一定のトラブルは避けられません。そのトラブルをいかに予防して、万が一トラブルが発生しても、大事に至らないよう適切に対応することが重要です。ただし、そうするには知識が必要ですので、学会やセミナーで学ぶ必要があります。専門医資格を取得することは、トラブルの予防につながると考えています。学会が適切な処置をできるような講座を設けるなど、学会がその役割を果たす必要があります。
──韓国の学会はどうなっている?
林氏: 日本では、日本形成外科学会が主に病気やケガによる組織の再建を対象としていますが、韓国の形成外科学会では、再建だけでなく美容領域もカバーしています。
さらに、皮膚科、眼科、耳鼻科なども美容医療に参入しています。まぶたや鼻などに関連しますから、それらの学会で認定を受けた専門医が、美容医療に積極的に参入しているのです。韓国において美容クリニックが増加している背景には、保険診療の収益性が低いという事情があります。専門医を取ると基本的な手技は身につきますから、何かあれば修正もできます。合併症などが生じた際にも自分で適切に対応することができます。形成外科でなくても、皮膚科でもいいですし、外科でもいいです。基本的な手技を習得することで、安全性の高い医療の提供が可能になります。
──韓国でもトラブルは起こっている?
林氏: 韓国でも事故はあります。脂肪注入の敗血症、首の血管損傷、ヒアルロン酸塞栓による失明などは日中韓で共通する問題です。
韓国では2024年に研修医がストライキを起こして以降、大学病院の救急医療体制が機能不全に陥っています。韓国は研修医不足で救急対応が逼迫しており、美容外科患者の受け入れが困難な状況が続いているのです。だからこそ、事前の予防が最優先課題となっています。これは現在の大きな課題の一つです。しばらく正常には戻らないでしょう。現在、韓国の医療体制は深刻な混乱状態にあります。(続く)
