
韓国在住美容インフルエンサーのスアオンニさん。(写真/スアオンニさん)
- クリニック選びの課題→ 多くの訪韓者が広告やアプリを参考に「工場系」チェーンクリニックを選ぶ傾向がある。
- 工場系の問題点→ 施術が流れ作業になりやすく、個別の対応が不十分な場合がある。施術の質にもバラつきが見られる。
- アップセルの功罪→ 患者の渡韓頻度や施術効果を考慮した提案は正当なアップセルだが、利益優先の不要な勧誘も存在。
──韓国を拠点に美容医療の情報を発信している。
スアオンニさん: 韓国に暮らして15年になりました。結婚を機にソウルへ移り、出産と子育てを経て、45歳になりました。
30歳頃から老化を感じてはいたのですが、その時は美容医療なんて敷居が高すぎる印象を持っていました。
その後、40歳を境に鏡に映る顔が急に老け込んで見えたことが、私と美容医療の最初の接点になりました。このまま年齢による差が顕著になっていくのだと実感し、悲しくなったのです。それで「韓国は美容医療が有名なのに試さない手はないだろう」と思い、少しずつクリニックの門を叩くようになりました。
──韓国の美容クリニックはどう選べば?
スアオンニさん: 韓国に来る方々は、多くの方がアプリなどの広告を頼りに「工場系」と呼ばれる安い医院を狙ってくる方も多いと思います。全国展開しているチェーンの多くは、工場系と呼ばれることがあります。工場系という名の通り、流れ作業のように、決まった施術が淡々とこなされます。
その点から、工場系は誠実に向き合ってくれないと感じることが少なくありません。
──それは困った状況だ。
スアオンニさん: 満足できない場合、泣き寝入りせざるを得ないこともあります。
工場系のクリニックは積極的にアップセルしますから、気持ちをしっかり持たなければ、必要性の低い施術を勧められて、結果的にカモにされることもあります。だから、みんないろいろと情報を調べるのだと思います。
もっとも、アップセル自体は悪ではありません。例えば、ある人が渡韓して、安い韓国製のヒアルロン酸を希望し、1ccだけ注入してもらおうとしたとします。その場合に、クリニックから見たときに、渡韓の頻度を考慮し、希望された注入量では3カ月くらいしかもたないと判断されることがあります。そうした場合に、製剤の維持期間、ヒアルロン酸の質や量などを考えて、ほかの価格の高い製剤などを勧めることがあります。これはその方の状況を考慮した、正当なアップセルと言えます。
渡韓された方は多くの情報を得て来ますが、クリニックは多くの症例を経験して、膨大な情報を根拠として提案をしており、判断に用いる情報量には大きな差があるのです。そうした中で、必要なアップセルを提案する必要はあります。
ですが、そうではないアップセルが行われていることも確かです。その判断の見極めは非常に難しいのが実情です。

韓国在住美容インフルエンサーのスアオンニさん。(写真/スアオンニさん)
- 工場系クリニックの現実→ 工場系にも技術力の高い医師が在籍している可能性があるが、技術にはばらつきがある。
- 拡大するチェーンの実情→ マーケティングと価格競争で成長しているが、クレーム対応や製剤の信頼性に課題も。
- 施術内容による使い分け→ 注入技術が必要な施術(ヒアルロン酸、スキンブースター)は個人クリニックが選ばれる傾向。
──工場系のクリニックで良い施術を受けるには?
スアオンニさん: 工場系には申し上げたように課題があるものの、私は工場系のクリニックを全否定するわけではありません。腕の良い医師も工場系で修行を経て独立するというのは珍しくありません。工場系で勤務する医師の技術にはばらつきがあり、いつまでも工場系でしか働けない医師がいる一方で、将来有望な、技術に優れた医師、いわば「金の卵」に巡り会うこともあります。
工場系では医師を指名できない場合が多いようですが、評判の良い医師の名前がわかれば、指名できるのが理想です。
そのように医師の技術の差がありますから、工場系は、安さが重要ということで、もし施術が期待外れでも仕方がないと割り切るしかない、ギャンブルに近い側面があるのです。
──そうはいっても、チェーン展開するクリニックは増加している。
スアオンニさん: 韓国の美容クリニックは競争が激しく、マーケティングに力を入れなければ集客ができず、継続は困難です。工場系と呼ばれるチェーン美容クリニックは、マーケティングの巧みさと低価格を武器に、成功しているのです。でも、工場系に継続的に通っている利用者層が多様であるため、結果としてクレームが増え、対応に苦慮するケースも見られます。
実情としては、ここまでお話ししたような課題があります。このほか使用されている製剤の種類が不明確であったり、本来の用法とは異なり、必要以上に希釈されていたりするといった問題も聞くことがあります。
──トラブルは避けたい。
スアオンニさん: ずっと工場系に通っている人は、金の卵に出会えている人もいるでしょう。一方で、工場系に通い続ける中で、施術ミスや結果への不満を感じることもあるでしょう。そうすると、疑問を感じて、個人クリニックなどを探すようになります。比較対象が増えると、総合的に判断して通いたいと思えるクリニックが見つかることもあるでしょう。
例えば、ヒアルロン酸注入やスキンブースター注入のような技術が問われる施術は、工場系では注射技術に優れた医師が少ないため、しこりが生じたり、施術に失敗したりするケースが少なくありません。ですから、工場系では、注入系はやらないと決める方も多い。注入系の施術のみ個人クリニックで受けるという方もいます。ヒアルロン酸注入なども金額が高いですから、信頼できるクリニックを選ぼうとする傾向が強まるのも自然な流れです。
レーザーのようにリスクが比較的低い施術は工場系でも構わないという考えもあると思います。(続く)
