
つかはらクリニック院長および日本医学脱毛学会理事長である塚原孝浩氏。(写真/編集部)
塚原孝浩(つかはら・たかひろ)氏
つかはらクリニック院長/日本医学脱毛学会理事長
- 前受金ビジネスモデルの問題→
施術未消化でも収入が得られる前受金方式が一般化し、経営破綻に至るクリニックも多数発生。業界の課題となっている。- 現在の脱毛業界の状況→
新型コロナの影響で新規顧客が減少し、脱毛業界は厳しい経営環境に直面。自転車操業的なビジネスモデルが限界に。- 医療脱毛とエステ脱毛の違い→
エステ脱毛は衰退期に入りつつあるが、医療脱毛は過当競争の激しい「レッドオーシャン」状態にある。価格競争が激しく、赤字経営のクリニックも多い。
──美容医療の中でも、脱毛は良くも悪くも注目を集めている
塚原氏: 長い脱毛の歴史を振り返ると、最初は針脱毛が行われ、その頃に誕生したのが日本医学脱毛学会でした。正確に言えば、「絶縁針脱毛」と呼ばれる施術でした。
大きな転機は1990年代後半、レーザー脱毛が出てきたことですね。それが爆発的に流行し、針脱毛が下火になりました。2000年代には、いわゆる「ブルーオーシャン」で、私のクリニックも2004年に開業しました。当時は、個人のクリニックが次々と脱毛を手掛けていました。
その後に、2010年代に大手の美容クリニックが脱毛を手掛け始め、脱毛専門のクリニックが増えました。さらに、この頃から、医師がオーナーではない一般社団法人が脱毛クリニックを開き始めました。これが大きな流れです。
エステと同様に、前受金でセット契約をしてもらい、施術が残っているにもかかわらず収入が得られず、倒産するところも増えました。これは悲しい側面です。
──現在、脱毛業界は厳しい環境にある。
塚原氏: 従来、脱毛サロンは、前受金によるコース契約と広告集客を組み合わせることで、自転車操業的な経営を続けていた面がありました。新型コロナで新規の利用者が減少して、行き詰まるところが増えたのです。
どのような業界も成長期を経て、安定期に入り、やがて衰退期を迎えます。脱毛業界も同じように状況は移ろいます。あるコンサルティング会社の分析を確認したのですが、エステ脱毛は衰退する一方で、医療脱毛はまだ衰退期には入っていないという結果になっていました。医療脱毛はブルーオーシャンだった時期を経て、現在はレッドオーシャンの只中にあると考えられます。現状では、過当競争の状況にあり、脱毛専門のクリニックは、赤字を余儀なくされるような価格設定となっています。
大手のトレンドを聞くと、女性脱毛は飽和しつつありますが、男性脱毛は伸びていると推定されます。
- 学会による質の担保→
加盟は医院単位で審査され、管理医師が入会後に看護師が所属する形。チェーンクリニックでも医院ごとに審査を受け、院長が変われば再審査が必要。- 脱毛施術における重要な視点→
施術の診断・設定・実施の担当者によって結果や安全性が大きく左右される。医師の診断や急変時対応の体制が整っているかが重要。- 個人クリニックの利点→
初診で医師が診断し、設定確認や急変対応も医師が行う体制は、個人クリニックの強みとされる。一方、チェーンクリニックでは対応にばらつきがある。
──学会としてはどんな仕組みで質を担保している?
塚原氏: 元々、針脱毛の時代はレーザー脱毛よりも技術を要するものでした。個人クリニックの院長と看護師が会員になってきた歴史があります。そうした経緯もあり、チェーンのクリニックであっても、すべての医院が一括して加盟する仕組みにしていません。それぞれの医院の管理医師が入った後に、その医院に所属する看護師が入会します。医院単位で審査を受ける仕組みです。このようなルールにより、会員の美容クリニックでは施術の質が保たれていると考えています。
同じチェーンクリニックであっても、医院によって意識に違いが出てくるわけです。医院の院長が代わった場合、新たに就任した院長が学会への入会を希望する場合は、改めて再審査を受ける必要があります。
──脱毛を手掛ける美容クリニックも変化して、それにとどまらない医療を手掛けるようになった。
塚原氏: 私自身、日本医学脱毛学会理事長を務めていますが、2000年代と比べると脱毛のウエートは減っています。美容皮膚科を中心に、幅広い施術を手掛けるように移り変わってきました。
求められる施術は時代と共に変わってきます。2000年代も、ほくろの除去や眼瞼下垂の手術が求められていました。これは今でも多いのですが、こうした処置は、一度受ければ完了する単発型の施術です。一方で、繰り返し施術を受けるヒアルロン酸注入やボツリヌス療法、高周波などの照射系の施術、糸リフトといった継続型の施術が増えています。肌管理など、継続的なケアに重点を置くようになっています。
──そうした中で脱毛の受け方をどう考えると良い?
塚原氏: レーザー脱毛は看護師が医師の指示の下でレーザー施術を行っているケースがほとんどですが、誰が診断し、誰が施術の条件を決め、誰が実際に手を動かすかによって結果も安全性も変わることは理解しておいてよいでしょう。
初診で医師が肌質や毛質を確認し、施術の当日に医師が設定を最終確認し、急変時に院内で医師が対応可能かを確認する。これは、個人クリニックの利点といえるでしょう。同様な対応は、チェーン展開しているクリニックでは一般的ではないかもしれませんが、同じチェーンの場合であっても、医院ごとに対応の質や意識に差がある。
料金体系にも注意が必要です。極端に安い価格では、そのようなクリニックは、赤字を前提に運営されている可能性があるため、経営が立ちゆかなくなり、コース途中で通えなくなる恐れもあります。極端に価格が安すぎる施設には注意が必要です。
こうした点は美容医療全般に言えるのではないでしょうか。(続く)

つかはらクリニック院長および日本医学脱毛学会理事長である塚原孝浩氏。(写真/編集部)
プロフィール
塚原孝浩(つかはら・たかひろ)氏
つかはらクリニック院長/日本医学脱毛学会理事長
1961年大阪府和泉市生まれ。福井医科大学(現・福井大学医学部)卒業後、1987年に近畿大学医学部附属病院形成外科に所属。同大学救命救急センター出向を経て、1993年に大学院を修了し医学博士号を取得。2004年大阪市阿倍野区で、つかはらクリニック開業。2017年よりあべのハルカス22階に移転。日本美容外科学会(JSAPS)評議員、日本美容皮膚科学会代議員などを務める。形成外科専門医、救急科専門医を保有。
