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「本当は美容外科に進みたかった」社会的評価の低さという 壁をどう越えたか、技術・人間力・発信力で見つけた医師像、城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏に聞く 前編

カレンダー2025.7.22 フォルダーインタビュー
城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長

  • 脳神経外科での経験が礎に→解剖学や手術準備、アウトプット重視の姿勢などの研修経験が現在の美容外科医としての基盤となっている。
  • 美容外科への転身と理想の探求→当初は安価で多くの施術をこなすスタイルだった。利益優先の体制に違和感を覚え退職することに。
  • 現在地と今後の姿勢→実力主義の自由診療の世界で、自身の価値観に沿った医療を提供できていると語る。

──脳神経外科の出身。

小川氏: 専門医を取る前に辞めていますので、脳神経外科を本格的にやってきたと言うつもりは一切ありませんが、その経験は今も自分の中で生きていると感じています。

 私はもともと美容外科に関心がありました。医院のホームページで述べていますが、私が医学部を卒業した当時も今も、美容外科の社会的な地位は低いと考えており、そこに不安を抱いていたことがありました。私は美容外科医を目指すと言い出すことができず、胸に思いを秘めたままいました。

 それに、出身の九州大学には当時、美容外科とも関連している形成外科の医局が存在しませんでした。今では設置されていますが、まだ10年も経っていないくらいです。当時、私は九州大学に入っておきながら、他大学の形成外科の医局に入ることには抵抗がありました。

 その結果、希望に近かった脳神経外科を選んだという経緯です。学生のときに実習を回る中で、脳神経外科のダイナミックさに惹かれました。「忙しくても充実した人生が送れる」と感じ、まずは脳神経外科に進みました。手術の研修は有意義で、忙しくも充実した日々を送っていた実感があります。脳神経外科をやりたくて選んだので、良い記憶しかありません。大学の医局の中でしっかり育ててもらったと思っています。辞めたのも嫌だからというわけではありません。

──脳神経外科で多くの学びがあった。

小川氏: 例えば、脳神経外科で得られたのは、「アウトプットする」という習慣が身についたことです。

 脳神経外科時代は、学会にはすべて出て発表するという方針の下で研修していました。「アウトプットをしなければ成長に限界がある。アウトプットすることでこそ知識が深まり、厳しい目にさらされることで高みに到達できる」という考えが徹底されていたのです。私自身、常にアウトプットを心がけてきました。そうした環境の中で得た知識は大きかったと感じています。

 手術するには、まず徹底的に解剖学を学ばなければなりません。毎日カンファレンスがあり、そこで自分が担当しない症例も含めて、手術計画を立てることもあれば、その症例に関する解剖学的な知識を問われたりしていました。

 医局時代に学んだのは、ただ見学して終わるのではなく、準備段階の重要性でした。その経験があったからこそ、美容外科に進んでもやっていけているのだと思います。今の自分の礎になっています。

──その後、美容外科に移ることにした。

小川氏: これは保険診療の問題になりますが、脳神経外科の仕事自体は充実していたものの、2012年頃その限界を思いました。10年、20年先を行く先輩たちの働き方と、自分の5年目の生活を比べたのですが、収入に大きな差はない中で、責任だけが増えていく。医療が医師の自己犠牲の上に成り立っているという構造に違和感を覚えたのです。このままモヤモヤしながら保険診療で自分を追い込むよりも、夢として秘めていた美容外科に進みたいという思いが再び持ち上がりました。人生は一度きり。であれば、もともと興味のあった美容医療に挑戦しようと決意し、転科を歓迎していた大手クリニックに飛び込みました。

──夢を抱いて入った美容外科の世界での経験とは。

小川氏: 当時、私が入職したクリニックでは、施術代を安く抑え、多くの方に施術を行うという方針が取られていました。広告に二重埋没法が2万9800円などと示され、1日に何件もこなす日々でした。

 大学時代と比べれば教育体制は十分ではなりませんが、手を動かしながら数をこなす点では、技術習得の場として一定の意味はあったと考えています。

 ただ、その後に違和感を抱くようになりました。いわゆるカウンセラー制度が幅を利かせてきたためでした。カウンセラーがリードする形で、不必要と思われるような施術が、売上のために勧められているような傾向が目に付くようになりました。そうした中で、私はカウンセラーと衝突することもたびたびでした。

 「ここでは、自分の目指す医療はできない」と判断して、2014年の冬に退職し、城本クリニック福岡院に移ったのです。自由診療の世界は実力勝負です。どれほど腕があっても、医師として選ばれ、売上という形で評価されなければ、生き残ることはできません。しかし、数を追うのではなく、良い医療を提供することを目指したいと考えました。

 私にとっては、脳神経外科時代に培った解剖学の知識、徹底した準備、常に発表、発信を続けてきた姿勢が自分を支えてくれています。幸い、現在の福岡院で、自分の理想とする美容医療に集中できていると考えています。これが今の私の現在地です。

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

  • 専門医資格への考え方→専門医資格は技術の担保ではないが、誠実さと研鑽の証として価値があると評価している。
  • 人間関係の構築が信頼と再来につながる→技術だけでなく、誠実なコミュニケーションが重要。不満があっても対応次第で信頼を得られ、再来につながるケースも多い。医師の人間性が最終的な評価に大きく関わる。
  • 美容外科医に必要な3要素→現在の競争環境では、「技術力」「発信力」「人間力」の3つが不可欠。

──クリニックが変わると状況は変わる?

小川氏: 城本クリニックはチェーンクリニックではありますが、真面目な医師が多いと感じています。技術力に関しても、私は当院のドクターを信頼していますし、実際に来院される方々からの評価も高いと受け止めています。

 もちろん、中には美容外科に「とりあえず稼ぎたいから美容に来た」という人もいますし、そこから成長していくケースもあるでしょう。なので一概に否定はしません。

 しかし、当院ではそういった動機の人よりも、もともと美容医療を真剣にやりたい人、ある程度の美容歴や形成外科・他科の専門医資格を持っている人を中心に採用しています。

 要するに、「採用段階から真面目な人を選ぶ」というのが基本方針です。技術的なうまさに関しては、正直なところ採用してみないとわからない部分もありますし、そもそも技術というのは採用してから育てていくものだと思っています。

──城本クリニックは専門医保有者が多い。

小川氏: 一般論として言えば、「専門医資格があるからといって手術が上手いとは限らない」というのが、私の正直な考えです。あくまで「最低限の知識と経験を経てきたことの証明」にはなりますが、技術力を直接担保するものではありません。

 それでも、専門医資格を取ること自体には価値があると思っています。なぜなら、どんな分野であれ、専門医を目指して長年研鑽を積む姿勢や、「とりあえず資格だけは取っておこう」という最低限の誠実さがある人には、真面目に医療と向き合おうとする意志が感じられるからです。そういった人は、結果的に上達していく可能性も高いと見ています。

──美容医師に求められる要素はほかにも?

小川氏: 来院する方々との関係性は、最終的には医師一人ひとりの人間性にかかっていると思います。

 手術が1回で終わったとしても、「もうこの先生には任せたくない」と感じたら、その方は戻ってきません。

 逆に、たとえ仕上がりに不満があったとしても、「この先生ならしっかり対応してくれる」と思ってもらえれば、また来院してもらえることも多い。美容医療の現場では、そうしたケースは少なくありません。結果だけでなく、人間関係の構築が大きな意味を持つ分野だと私は感じています。

 実際、過去に満足いただけなかった方が、「ここを直してほしい」と言って再来されたこともあります。そのときに誠実に対応すれば、むしろ信頼が深まり、別の施術を任せてもらえることもあります。美容外科ではトラブル=もう来院しないとは限らず、そのときの対応次第で信頼を得るチャンスにもなり得るのです。

──医師との信頼関係が重要。

小川氏: 今の美容医療業界では、マーケット自体は飽和状態に近く、新規の来院数は限られています。しかも医師の数は年々増加しており、完全に取り合いの構図になっている。

 その中で生き残っていくためには、「いかにリピーターを獲得できるか」が非常に重要なポイントになります。

 私は、これから美容外科に入ってくる若い医師に対して、よくこう伝えています。「最初は暇でいい。とにかく売上は気にせず、たくさん患者様と話してほしい」と。忙しいドクターは、どうしても診療時間が短くなりがちですが、時間がある新人医師こそ、丁寧に話を聞くことで信頼を得やすい。場合によっては、「人気の先生よりも話をよく聞いてくれた」と、ファンになってくれることもあるのです。

 例えば、トラブルが起きたときこそ、対応の仕方が問われます。「気持ちはわかります。では、こう対応しましょう」と丁寧に寄り添える医師であれば、大きな問題にはなりにくい。逆に、トラブルがあったときに「何を言っているのか分からない」「態度が冷たい」と感じさせてしまえば、それだけで信頼は失われてしまう。世の中には、技術は高いのにそうした対応で損をしている医師も少なくありません。私は、そういう医師にはなりたくないと思っています。

 だからこそ、“技術力・発信力・人間力”の三つが、今の美容外科医にとって必要不可欠なスキルだと私は考えています。いくら技術があっても、人として信頼されなければ選ばれない。コミュニケーションは欠かせない。こうした3つのバランスが取れていないと、美容業界では生き残っていけないのではないかと実感しています。(続く)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)

プロフィール

小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長
2008年3月、九州大学医学部医学科卒業後、佐田厚生会佐田病院研修医、九州大学病院研修医を経て、10年4月に九州大学病院脳神経外科。12年9月に美容外科専門クリニック入職を経て、2014年12月城本クリニック。日本美容外科学会専門医(JSAS)。

記事一覧

  • 「本当は美容外科に行きたかった」、評価の壁を越えた理由、技術と人間力と発信力と、城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏に聞く 前編
    https://biyouhifuko.com/news/interview/13698/
  • 美容医療の難しさと向き合い、目元、糸、注入の三領域にフォーカス、修正できない施術はやらない、城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏に聞く 中編
    https://biyouhifuko.com/news/interview/13717/
  • 美容医療「悪徳」の線引きと、“バスター”として発信してきた7年の軌跡、「売名」「ポジショントーク」批判への思いとは、城本クリニック福岡院・院長の小川英朗氏に聞く 後編
    https://biyouhifuko.com/news/interview/13745/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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