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身体醜形症を疑う、家族や友人が「そこまでしなくても」と言うときは要注意、「本人独自のこだわり」や「左右差」が問題になりやすい可能性、原井クリニック院長の原井宏明氏に聞く 第2回

原井クリニック院長の原井宏明(はらい・ひろあき)氏(写真/編集部)

原井クリニック院長の原井宏明(はらい・ひろあき)氏(写真/編集部)

原井宏明(はらい・ひろあき)氏
原井クリニック院長

  • 年代別の表現→10代は「モヤモヤ」「鏡が手放せない」など漠然とした表現、40代は具体的な部位への言及が多い
  • 悩みの部位の違い→世代や文化により異なり、昔は色白志向、現在は色黒を気にする傾向がある
  • 共通する行動→世代に関係なく「気になる部位を隠す」「鏡で確認する」などの行動が共通して見られる

──身体醜形症(醜形恐怖症)は、幅広い世代が関係する?

原井氏: 年齢層について言えば、強迫症は小学校低学年でも発症します。

 例えば、死の概念が芽生える頃には「自分が神社できちんとお祈りをしなかったせいで、病気のおじいちゃんが亡くなるのでは」などの「強迫観念」が始まり得ます。強迫観念とは本人の意図とは無関係に頭の中に湧いてくる不快な考えを指します。

 身体醜形症の場合の強迫観念は、「自分は醜いのではないか」になります。思春期ぐらいから他人の評価を意識するようになり、第二次性徴期に外見が大きく変わる頃から症状が現れるようになります。精神科を受診するタイミングは個人差があり、上は60代でも来院があります。

 私たちは患者さんに手記を書いていただいています。10代の患者さんは「とにかくモヤモヤする」「鏡を手離せない」といった漠然とした表現が多いのですが、40代くらいでは「あの時からこの部分が気になるようになった」「この部分が気になる」と具体的に説明できる傾向が見られます。

──気にされる部位としてはどこが多い?

原井氏: 悩む部位は世代や文化で変わります。

 10代でシミやたるみを気にすることは少ないでしょうし、低身長を気にし始めるのは成長が止まってからです。昔は色白を気にされることが多かったのですが、今は色黒を気にされることが多いです。

 悩む部位が違っても「マスクを外せない」や「常に前髪で額を隠す」など、気にしている部位を隠し、鏡を見て確認するといった行動レベルでの症状は共通しています。

 私は自分自身で診療したことがある症状について本にしていますが、実際には診たことがないパターンもあります。たとえば「筋肉型」とも呼ばれる筋肉への過剰なこだわりの方でしょうか。

 私自身もジム通いをしています。ジムではサプリメントやプロテインの情報があふれています。通常のトレーニングの範囲であれば問題ありませんが、行き過ぎた筋肉増強の追求が本人の苦痛に転じた場合、そこには強迫関連症である身体醜形症の影が差す可能性があると考えています。今後増えることが十分考えられます。

  • 外見のこだわり→鼻や口など顔の中心部に集中しやすく、手術を重ねても満足せず、こだわりが強化される傾向がある
  • こだわりの本質→「醜さの嫌悪」ではなく、「本来の状態に戻したい」という認識が症状の核となる
  • 判断の目安→「家族や友人に“やりすぎ”と指摘されたか」は、病的こだわりの重要なサイン

──美容外科領域では、鼻の整形を繰り返す方に精神的問題が潜むという報告があった。

原井氏: 外見へのこだわりは鼻や口といった顔や体の中心部に集約する傾向があります。私の外来でも、手術を重ねるほど満足度が下がり、こだわりが強化されるケースを見てきました。

 身体醜形症では、醜いものに嫌悪感を持つのではないと考えています。実態としては、本来の状態に戻そうとするこだわりが、症状につながりやすいと考えられます。左右差を正したい、大きな鼻を小さくしたいなどです。

松浦氏: 鼻整形について考えますと、美容整形手術の費用やリスクが高い一方で、いざ手術を受けた後に、満足度が低い場合が考えられます。その場合、簡単に元に戻らず、「思い通りにならない」という失敗体験につながり、精神的な重圧となり得ます。

 再手術を繰り返しても改善が得られるとは限らず、自分自身の認識が歪み、精神的な負担が一層大きくなる可能性があります。もともと持っていたこだわりやすい傾向(強迫症の傾向)に、見た目へのこだわりが重なると、身体醜形症につながりやすいと思われます。

──老化なども身体醜形症につながる?

原井氏: 老化のシワやたるみなどが身体醜形症につながるケースはあまり診ることがありません。加齢変化に対する悩みは、一般のアンチエイジング行動、ボツリヌス療法などですが、病的こだわりがあるかというと、そういう印象はないですね。

松浦氏: 身体醜形症につながりやすい見た目の特徴には、左右差がある場合だという印象があります。その視点から考えますと左右差がなく起こるような老化の変化はあまり問題になりづらい。

 しかし、シミが顔の片方だけに見られる場合などは、身体醜形症につながりやすい可能性があります。病的なこだわりがあれば、強迫的メカニズムを疑う必要があります。

 また、ウィッグ無しでは外出できない高齢女性、髪の生え際が後退したのではと鏡と格闘する若い男性など、外見に関連した恐怖心の出方はさまざまです。

原井氏: 老化の変化に病的なこだわりを持つ場合も、身体醜形症に当てはまり得ます。繰り返しになりますが、何を気にするかは人それぞれです。

 例えば、手背や前腕に見える浅い静脈を「目立つから全部消したい」とレーザー治療を繰り返す人なども見受けられます。外見の悩みはさまざまです。

──美容医療との関連をどう考える?

原井氏: 脱毛や肌の美容が一般的になり、男性でも全身脱毛を受ける時代になりました。それらの多くは健康的な美容行動の範囲にとどまるでしょう。

 一方で、顔のシミを取らずにはいられないと、特定の欠点で頭がいっぱいになり、ほかのことが考えられなくなったら要注意です。

──身体醜形症につながるサインをどう考えれば?

原井氏: 美容医療を検討している人に私がまず尋ねるのは、「家族や友人から、そこまでしなくてもいいのでは?と言われた経験があるか」という点です。周囲は「気にしない方が良い」と言っているのに自分は気になって仕方がない。そのギャップこそが病気のサインです。ですから、家族や友人など美容医療について聞いてみることを勧めます。

──精神科に相談するのが望ましい?

原井氏: 実態としては、精神科医の側も「見た目の悩み」を訴えて来院する患者さんを診ることに必ずしも慣れていないと考えられます。

 例えば、身体醜形症は強迫症の一種と考えられますが、国内で「強迫症を専門に診ます」と掲げる精神科は多くありません。身体醜形症を扱うところとなるとなおさら少ないです。私の知る限りほとんどありません。

 そうした中で「鼻が曲がっている」や「血管が浮いている」と精神科で訴えると、統合失調症の「身体的な妄想」と誤診され、抗精神病薬を処方されるケースも珍しくないのではないかと考えられます。

 私自身も長らく強迫症の治療を続けてきましたが、「これは身体醜形症だ」と体系的にとらえられるようになったのは、ここ10年ほどのことです。

 こうした国内の状況を考えますと、私たちの外来にたどり着くのは「氷山の一角」だと考えています。深刻に悩みながらもメンタルの問題とは考えず、あるいは誤診を恐れて受診しない層が水面下に存在する可能性があるのです。(続く)

原井クリニック院長の原井宏明(はらい・ひろあき)氏(写真/編集部)

原井クリニック院長の原井宏明(はらい・ひろあき)氏(写真/編集部)

プロフィール

原井宏明(はらい・ひろあき)氏
原井クリニック院長
1984年に岐阜大学医学部を卒業後、ミシガン大学文学部に留学し文化人類学を専攻。1985年より神戸大学精神科で研修を行い、1986年に国立肥前療養所へ入職し山上敏子氏から行動療法を学ぶ。1998年に国立菊池病院へ転勤し精神科医長を務め、うつ病や不安障害、薬物依存の専門外来や治験を担当。2000~2001年にハワイ大学精神科アルコール薬物部門へ留学し、2003年に臨床研究部長、2007年に診療部長に就任。2008年より医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長、2013年からハワイ大学精神科臨床准教授を兼任。2018年に同クリニックを退職後、同年9月に株式会社原井コンサルティング&トレーニングを設立し代表取締役に就任。2019年1月より現職。

記事一覧

  • 身体醜形症、「見た目」へのこだわりが病気に変わる時、自分の顔が気になり鏡を見続けてしまう…原井クリニック院長 原井宏明氏に聞く 第1回
    https://biyouhifuko.com/news/interview/14302/
  • 身体醜形症を疑う、家族や友人が「そこまでしなくても」と言うときは要注意、「本人独自のこだわり」や「左右差」が問題になりやすい可能性、原井クリニック院長の原井宏明氏に聞く 第2回
    https://biyouhifuko.com/news/interview/14322/
  • 「嫌なことをあえて選ぶ」コンプレックスを曝け出し身体醜形症と向き合う、3日間の集団集中治療、原井クリニック院長の原井宏明氏に聞く 第3回
    https://biyouhifuko.com/news/interview/14510/
  • 身体醜形症からの回復を支える「3日間集団集中治療」、「エクスポージャー」と「儀式妨害」がもたらす変化、原井クリニック院長の原井宏明氏に聞く 第4回
    https://biyouhifuko.com/news/interview/14528/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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