
中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
中田元子(なかた・もとこ)氏
Mスキンクリニック院長
- 治療設計は「安全性ファースト」 → 3波長を駆使しながら、症例ごとに波長・照射径・出力を細かく設計。まず「合併症を起こさないこと」を最優先し、その次に「効果を出すこと」を重視している。
- 画像による経過観察が鍵 → 毎回撮影した写真や肌診断機器の画像を比較し、シミの反応や炎症後色素沈着・色素脱失の有無を精密に確認。反応が落ち着かない部分は照射を控えるなど、状態に応じて調整する。
- 一人ひとりに最適な出力を追求 → 前回の治療反応を踏まえ、弱ければ強め、強ければ抑えるといった微調整を実施。安全性と効果のバランスを保つため、全て自らの手で照射を行っている。
──合併症を起こさないことが重要になる。
中田氏: 3波長使えるとなると、治療設計の自由度が高くなります。一つ一つの症例に対して、どの波長をどのスポットサイズ(照射径)を用いてどの程度の出力でどのように照射するのか、頭の中で組み立てていきます。
特に全顔治療「Wピコトーニング」では、合併症を生じずに最大限の効果を引き出せるギリギリのところの見極めが重要です。しかし、効果を求めすぎるよりは、まずは安全に行うことが不可欠であり、治療を行う上で一番大切なのが「合併症を生じないこと」、二番目に大切なのが「効果を出すこと」だと考えています。
──いかに条件を決めていく?
中田氏: 欠かせないのが画像による評価です。来院のたびに写真撮影し、肌診断機器の画像も含めて、過去の画像と比較して、一つ一つにシミに対して、どう変化したか、どこに炎症後色素沈着が残っているか、色素脱失は生じていないかといった点を細かくチェックします。
前回の照射の反応がまだ治まりきっていないシミに対してはその日は攻めないようにし、逆に前回の治療で反応が弱ければより強めの設定にします。高い精度と安全性をコントロールできるように、毎回自分で照射することにこだわっています。

中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
- 痛みのコントロールも治療の質を左右 → 全顔治療では照射時間が長く痛みも強くなるため、ゲートコントロールセオリーを応用。軽い圧迫やアイシングなどで痛みの伝達を抑え、快適に施術を行っている。
- レーザー前後の複合施術で安全性と効果を高める → ケミカルピーリングや毛穴洗浄、エレクトロポレーションを組み合わせ、レーザー光の透過性を上げつつ、トラネキサム酸導入で炎症後色素沈着を予防。総合的な肌質改善を図っている。
- 「シミ」に見えても悪性の可能性を見逃さない → 老人性色素斑や肝斑だけでなく、日光角化症や基底細胞がんなども紛れるため、診断が最重要。悪性が疑われる場合はレーザー適応外とし、専門医に連携する。形成外科と皮膚科の両視点が不可欠。
──痛みのマネジメントも重要。
中田氏: 全顔治療では、パス数を増やしたり重ね打ちをしたりすれば、照射している時間も長くなりますし、出力を上げれば痛みも強くなります。しかし、ある一定の設定を超えなければ効果を出しにくくなります。
そこで、痛みをできるだけ和らげるような工夫をしています。ゲートコントロールセオリーを利用して、軽く押さえたり、さすったり、あるいはアイシングしたりしながら照射します。
ゲートコントロールセオリーとは、触覚や圧覚の刺激が痛みの伝達を部分的にブロックするという理論です。お腹が痛いときに手を当てると痛みが和らぐというとわかりやすいと思います。
──レーザーの前の肌への施術はほかにも?
中田氏: せっかく受けていただく治療ですから、1回1回の効果をできるだけ引き出したいですし、安全に行うためも、作用機序の異なる複数の治療をレーザー治療に組み合わせています。
ケミカルピーリングや角栓除去、毛穴洗浄、エレクトロポレーションなどです。前処置を行うことで、レーザー光の散乱を減らして透過深度を上げることが期待できますし、後処置で、例えばトラネキサム酸を導入することで、色素沈着のリスクを減らし安全性を高めます。
また、このような治療を組み合わせることで、レーザー単独よりも、肌質改善効果がぐっと高まるのも大きなメリットです。
──「シミ」に見えるものの中には、前がん病変や悪性腫瘍も紛れている。
中田氏: 「シミ」と一口に言っても、実際には様々な病変が混在しています。老人性色素斑(日光黒子)、そばかす(雀卵斑)、肝斑、ADM、脂漏性角化症などです。日光角化症などの前がん病変や基底細胞がんなどの悪性腫瘍も念頭に入れておかなければなりません。
大事なのは、最初にきちんと診断をつけることです。いわゆるシミだと思って受診された方の中に、悪性が含まれていることがあります。悪性が疑われる病変については、レーザーの対象にはせず、専門の医療機関で生検や手術を行ってもらう必要があります。
その上で一つ一つの病変を診断し、「これはレーザー照射を行う」「これは切除が望ましい」「これは経過観察」といった判断をしながら、トータルでどの順番でどこまで治療するか計画を立てます。
この部分は、形成外科的な視点と皮膚科的な素養の両方が求められるところだと思います。(続く)
プロフィール

中田元子(なかた・もとこ)氏。Mスキンクリニック院長。(写真/中田氏)
中田元子(なかた・もとこ)氏
Mスキンクリニック院長。1996年東京女子医科大学医学部卒業、同年同大学形成外科に入局。2004年より東京医科大学皮膚科、2007年より東京女子医科大学東医療センター美容医療部に勤務し、皮膚科・美容医療の診療経験を重ねる。2019年にMスキンクリニックを開設し、2021年には医療法人社団Mスキンクリニックとして法人化。日本レーザー医学会、日本美容皮膚科学会、日本医学脱毛学会、日本臨床皮膚外科学会、日本皮膚科学会、日本形成外科学会、日本美容外科学会(JSAPS)などの学会に所属し、形成外科と皮膚科の両面から美容医療に取り組んでいる。
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