日本でスレッドリフト(糸リフト)が広がった背景には、生活に組み込みやすいちょうどよさに加え、術式や糸、そして「スレッドリフトに何を期待するか」という位置付け自体の変化がある。これからスレッドリフトはどのように変わっていくのか。引き続きドクタースパ・クリニック院長の鈴木芳郎氏にスレッドリフトの過去と現在、そして未来を聞いた。(聞き手/ヒフコNEWS編集長 星良孝)

鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏。ドクタースパ・クリニック院長。(写真/編集部)
鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏
ドクタースパ・クリニック院長。
- 日本における先駆的導入→鈴木氏は1999〜2000年に米国で学んだ「ケーブルスーチャー」を日本に持ち込み、糸による引き上げを「リフト治療」として体系化・紹介した。
- 学会発表と技術の広がり→2000年以降、学会発表を継続。2004年頃にロシア発の吸収性スレッド「アプトス」が注目され、韓国を経由して日本にも技術が伝わった。
- フェイスリフト代替への期待→注目点は「どれだけ上がるか」「どれだけ効果が続くか」。切らずにフェイスリフト並みの効果を得られないかという期待が強かった。
──日本では他に先駆けてスレッドを使ったリフトに取り組んだ。
鈴木氏: 糸で引っ張るという行為そのものは、施術としてどこかで誰かがやっていた可能性はあると思います。ただ、「リフト」という治療概念として整理し、術式として持ち込んで広めた、という意味では、早い時期だったという自負はあります。
1999年から2000年にかけて、米国カリフォルニアでゴードン・ササキ先生から「ケーブルスーチャー」の手法を学び、それを日本に持ち帰って引き上げを行った。現在のスレッドリフトとは異なり、ほうれい線を上から引き上げる形のスレッドリフトでした。それは日本での初期の動きの一つだったと思います。
──2000年には学会発表もした。
鈴木氏: 2000年から学会での発表を続けています。当初は、興味を持つ人が「少しずつ」増えたという印象です。最初は、ケーブルのような自作の工夫も含めて試行錯誤していました。
──転機があった?
鈴木氏: 「アプトス(Aptos)」が話題になった頃からです。それはロシアのドクターが開発した糸で、今も形を変えながら存在しています。素材が吸収性で溶けることが特徴です。
2004年には韓国でアプトスの講習会があり、日本から参加した医師が技術を持ち帰って国内で始めた、という流れがありました。その後、製品として海外で開発されたものが、徐々に日本に入ってくるようになります。新しい糸を用いた講習会が頻繁に開かれるようになり、糸を使った引き上げが少しずつ広がっていきました。この動きはずっと続いてはいたんですが、当時は「今みたいに爆発的に増える」という状況ではなかった。むしろ一度、下火になった時期もあったと思います。
──注目されるのは「どれだけ上がるか」「どれだけ続くか」。
鈴木氏: そうです。いかに引っ張り上げるか、いかに持ち上げるか。そして、その持ち上がった状態がどのくらい続くのか。そこが最も注目されました。
要するに「切らないで何とかなる」「フェイスリフトと同じぐらいの効果を出せないか」という発想が強かった。スレッドリフトを、フェイスリフトに代わるべきものとして捉えようとしていたんですね。

鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏。ドクタースパ・クリニック院長。(写真/編集部)
- ブームの変遷→2013年頃に短い吸収糸を多数入れる「ショッピングスレッド(現在のショートスレッド)」が流行し、手軽さと引き締まり感から一気に裾野が拡大。
- ニーズと位置づけ→目的の中心は「たるみ治療」で、加えて「小顔に見せたい」という需要が強い。
- フェイスリフトとの違い→スレッドリフトは「切らないフェイスリフト」の代替ではなく、現在は役割が整理された。それは定期的に行うことで老化の進行を抑え、軽い引き上げを維持する治療として受け止められている。
──2013年頃に「ショッピングスレッド」が流行した。
鈴木氏: はい。2013年ぐらいに流行し始めました。短い溶ける糸を複数挿入して顔の皮膚を支えます。これなら簡単にできる、と飛びついたドクターが多くいました。そこで裾野が一気に広がった感覚があります。
ただ、その時も「持ち上がる、持ち上がる」と言ってやっていたけれど、実際はフェイスリフトのように明確に上がるものではありませんでした。けれど、やった後に引き締まるし、ちょっと上がった感じがする。そうした体感がブームをつくった面はあります。
──「ショッピングスレッド」という言葉自体はメディア発。
鈴木氏: そうなんです。出版社が「ショッピングスレッド」という名前をつけたんですね。「買い物のついでに行える」というイメージが打ち出されたのです。今は「ショートスレッド」と呼ぶことが多いですが、当時はその言葉のインパクトもあって、一時のブームを強く形成したと思います。
──その後、主流が「コグ糸+カニューレ」に移った。
鈴木氏: その後また数年して、いま主流になっているのは、棘(コグ)のついた糸をカニューレで入れるタイプです。これも韓国発の流れが大きい。症例数はどんどん増え、2023年の時点では8万〜9万件くらいだったものが、年間で10万件を超える規模になってきている。
──スレッドリフトが伸びて、二重まぶた手術と肩を並べている。
鈴木氏: 二重まぶた手術の件数は、だいたい年間10万件前後で長く横ばいですよね。年によって少し下がることもある。そういう状況の中で、糸リフトが伸びて逆転したように見えるのは、象徴的だと思います。
──糸リフトは「誰が、何を目的に受けているのか」。
鈴木氏: 大きな目的は基本的に「たるみ治療」です。若い人でも「たるみが気になる」「自分はたるみを治したい」と思っている人が受ける。それに加えて「小顔になりたい」というニーズが大きい。引き上げることでフェイスラインがシャープになって、顔が小さく見える。その効果を前面に出して人を呼ぼうとしているクリニックも多いと思います。
──施術に必要な料金は入れる糸の数で変わってくる。
鈴木氏: フェイスリフトは切開してしっかりやる分、時間がかかりますが、おおまかな料金の相場ができています。それと比べると、「フェイスリフトの何分の一」と単純に言い切れるものではありません。
スレッドリフトは「リフト」という言葉が指す範囲が広いんです。ショッピングスレッドのように少しだけ入れるものでも「リフト」と言うし、長い糸をしっかり入れるものも「リフト」と呼ばれる。入れる本数やテクニックで費用は大きく変わります。一方でスレッドリフトは軽いものから重いものまで幅があり、価格のばらつきが大きい。だから単純比較は難しい。
──糸リフトの意味合いはフェイスリフトの代わりではない?
鈴木氏: 当初は「切らないでフェイスリフト並みに」という発想がありました。でも、実際には糸の役割もあります。
定期的にやることで老化の進行を抑える効果を実感する人も増えています。劇的に上がるわけではないけれど、少し上げた状態を維持していく。そうすると長い目で見て、実年齢との差が出てくる。そういう使い方が、糸リフトの現実的な位置づけとして広がってきた面はあると思います。(続く)
プロフィール

鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏。ドクタースパ・クリニック院長。(写真/編集部)
鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏
ドクタースパ・クリニック院長。
1957年生まれ。1983年東京医科大学医学部卒業。東京医科大学形成外科教室入局後、国立東京第二病院で研修・勤務。マイクロサージェリー(切断指再接着術など)を日常的に行うなど形成再建外科の技術を習得し、顔面外傷治療の経験を通じて顔面解剖・構造への理解を深めた。1990年日本形成外科学会認定医取得。1992年東京医科大学形成外科助手、1993年医学博士取得。1995年同講師。1996年海老名総合病院形成外科部長。米国など海外の著名医師に師事し美容外科の研鑽を積む。2001年サフォクリニック副院長。日本のスレッドリフト黎明期から糸による引き上げ治療に取り組み、中顔面若返り手術であるケーブルスーチャー法を国内で早期に導入した医師として知られる。2006年ドクタースパ・クリニック新宿美容外科・歯科院長、2010年ドクタースパ・クリニック開業。2014年東京医科大学形成外科学分野 客員講師。日本糸リフト協会理事長、日本美容医療協会理事長、日本美容医療総合学会理事。千葉大学形成外科客員講師、滋賀医科大学形成外科客員講師。日本美容外科学会(JSAPS)専門医、日本形成外科学会(JSPRS)専門医。国際美容外科学会(ISAPS)正会員、日本抗加齢医科学会(JAAM)専門医。
