
ブノワ・ヘンドリクス氏。ベルギー形成外科医。レーベン大学病院形成外科。Augmented Anatomy創業者。(写真/編集部)
ブノワ・ヘンドリクス氏
ベルギー形成外科医
レーベン大学病院形成外科
Augmented Anatomy創業者
- 目的→注入治療の血管内注入リスクを減らすため、顔の上に血管走行を重ねて「見える化」する。
- 仕組み→MRIデータから血管を3Dで描き出し、スマホアプリでAR表示。一般的な解剖図ではなく、データ通りに本人の血管を表示する。
- 使い方→浅い層から深い層まで表示を変えながら血管を避けた注入ルートを検討でき、フィラーだけでなくボツリヌストキシンにも活用可能。注入ポイントの履歴も記録できる。
──顔の血管が目に見えるようにしている。
ヘンドリクス氏: そうです。顔に重ねて血管がどのように走っているかが見えるようにしています。
私はベルギーの形成外科医です。これまで臨床に携わる中で、注入治療における安全性、とりわけ血管内注入のリスクについて、強い問題意識を持ってきました。
フィラーやトキシン注入は日常的な治療になりましたが、重篤な合併症がゼロになったわけではありません。多くの場合、その原因は「どこに血管が走っているのか分からないまま注入している」ことにあります。
そこで私は、個々の方々の血管がどう走っているかを、直感的に理解できる方法が必要だと考えました。
──開発されたシステムは、どのような仕組み?
ヘンドリクス氏: 開発したシステムでは、まずどの方のMRIデータを取得します。そのMRIから動脈解剖を抽出し、3Dモデルを作成します。
その情報をスマートフォンのアプリ上で表示し、さらに拡張現実(AR)の形で顔の上に重ねて表示します。
スマートフォンの画面越しに、目の前の顔に、その人の血管がどのように走っているかが見える仕組みです。
画像として映し出されているのは一般的な血管の走行を示しているのではありません。あくまで「その人自身の血管」です。
──個々人で血管の走り方は違う。
ヘンドリクス氏: 全く違います。血管走行は個人差が大きい。
このシステムは、MRIに基づいているため、表示される血管はすべて個別化されています。
表示の深さも調整でき、浅層の血管、深部の血管を切り替えて確認できます。注入前にこれを確認することで、血管を避けたルートを選択しやすくなります。
──注入治療では、どのように活用されている?
ヘンドリクス氏: 私は注入前に、血管がどのように走っているか確認します。
これはフィラーだけでなく、ボツリヌストキシン注入でも有効です。
注入ポイントの履歴も記録することが可能です。初回の施術時に顔に目印を置き、スマートフォンで認識させる。次回以降、そのポイントを再現することで、前回の注入履歴を正確に把握できます。

データベースに保存された血管の走り方を示すデータに基づいて、画面の顔の上に血管を映し出す。画面の顔はヘンドリクス氏だが、血管の形は保存されたデータ通りの形になっている。(写真/編集部)
- 安全性向上→重い合併症はまれなため大規模検証が必要。現実的な指標として内出血を評価。血管を避けられることで内出血が減少した。
- 今後の展望→現在はスマホ表示だが、将来はARグラスで顔に血管を重ね表示し、両手を自由に使って注入できる形を目指す。
- 実用化状況→Augmented Anatomyが「ARTERY 3D」として製品化。主にベルギーで約30クリニックに導入され、国際展開も計画。
──安全性向上の効果は?
ヘンドリクス氏: 動脈内注入のような重い合併症はもともと頻度が低いため、統計的な有意差をもって安全性を示すには2万症例くらいを対象に検証する必要があります。
そこで私たちは、より現実的な指標として、注入後の出血や内出血の程度を評価しました。
血管の位置が分かっていれば、そこを避けられるため、内出血は明らかに減少すると考えられるからです。
実際に測定した結果では、内出血の有意な減少が確認できています。
──今後の課題と展望は。
ヘンドリクス氏: 血管可視化システムの課題は、MRIが必要な点です。MRIはどうしても必要になります。
一方で、現在はスマートフォンで確認していますが、これをARグラスで見えるようにすることを考えています。
すると顔を直接見ながら、その上に血管が重なって見える。両手を自由に使って注入できる。これが実現すれば、臨床のあり方は大きく変わると考えています。
──既に実用化されている?
ヘンドリクス氏: 私が創業したAugmented Anatomyで、「ARTERY 3D」として製品になっています。主にベルギーで約30クリニックに導入されていますが、これから国際的に広げていこうと考えています。
プロフィール
ブノワ・ヘンドリクス氏
ベルギー形成外科医
レーベン大学病院形成外科
Augmented Anatomy創業者
ブノワ・ヘンドリクス氏は、ベルギー・レーベン大学形成外科に所属しながら。ベルギー国内にプライベートクリニックを構える。顔面解剖の可視化をテーマとするAugmented Anatomyの創業者。複数の国際的な学会に所属。顔面解剖および美容医療に関する学術論文を発表。国際学会においても顔面美容医療をテーマに講演を行うなど、世界的に活躍している。
参考文献
ARTERY3D
https://artery3d.com/
