
尾見徳弥(おみ・とくや)氏。クイーンズスクエアメディカルセンター皮膚科部長/日本医科大学客員教授/東京医科大学客員教授。(写真/編集部)
尾見徳弥(おみ・とくや)氏
クイーンズスクエアメディカルセンター皮膚科部長/日本医科大学客員教授/東京医科大学客員教授
- 消費者保護の重要性→アンチエイジングや栄養分野は成長領域だが、倒産問題などを背景に、美容医療は「医療技術」以上に消費者の金銭面・安全面を守る視点が不可欠となっている。
- 「直美」問題と収入構造→十分な臨床経験を積まずに美容医療へ進む医師が国内外で増加。保険診療の低収入や専門医取得までの長期間研修が、自由診療へ直接参入する動機になっている。
- 教育体制と専門性の可視化→美容医療を体系的に学べる大学は限られ、専門性を裏付ける資格保有者も少数。医師教育の整備とともに、消費者が医療機関を選別できる仕組みづくりが重要。
──美容皮膚科の分野で注目する動きは?
尾見氏: 前向きに捉えているのは、アンチエイジングの動き、栄養の領域です。
ただ、医療技術の議論が大切である一方で、それ以上に消費者を金銭面でも医療面でもどう守るかが重要になっています。最近は、脱毛を中心に、エステや医療機関の倒産が目立ちました。消費者の金融面の負担も大きく、救済が十分でない。これは医療法というより消費者保護の問題で、医療側だけではどうにもならない面がある。美容医療は結局「消費者問題」でもあるので、そこを無視できません。
──美容クリニックが増加する中でトラブルになるケースも多い。
尾見氏: いろいろ論点はありますが、やはり「直美」問題だと思います。医師が教育を受けた上で診断を付けられるようになり、施術にも慣れてから美容医療を行うべきだ、という考え方が根底にあると考えています。
海外の医師仲間と話しても、ヨーロッパやシンガポールなどで共通して言われているのが「最初から美容に直行する医師が多い」という話です。これは日本だけの問題ではありません。
違う角度から見ると、医学部に入って収入を得る考えでいた人たちが、想像ほど収入を得られないと判断して、直接自由診療に参入する方向へ流れている面もあります。収入を動機に医学部に入った人に、専門医まで10年近くかけて研修しろと言っても、現実には簡単ではないでしょう。
私は一つの案として、専門医の初診料を上げることは効果があると思います。シンガポールでは初診料だけで1万円程度取ることもあるし、韓国でもそれに近い額を取る。一方で日本は初診料が2~3千円で済みますから、保険診療で収入を得ることがますます難しくなっています。
例えば「専門医は初診1万円」など、専門性に正当な評価がつけば、医師側の動機づけにもなる。海外では、専門医でないと美容ができないような仕組みもあります。
──「直美」対策として、教育を強化すべきという声も。
尾見氏: もちろん教育は大事ですが、教育の受け皿も十分ではありません。
例えば大学で、美容に対して前向きに取り組めるところがどれくらいあるか。全国に医学部は多くありますが、美容に関して体系立てて対応できる大学は限られています。美容外科をやりたい人が、どこへ行けばよいか。実質的に「ここに行けば学べる」という道筋が見えにくいのが現状です。
また、美容皮膚科に行きたいという医師の中には「美容外科より簡単だろう」と思って入ってくる人が少なくない面があります。日本美容皮膚科学会の会員数は増えていますが、実際に高度な専門性を裏付ける資格を持つ人がどれだけいるかというと限られています。
医師への教育も必要ですが、消費者が医療機関を選別できる状態を作ることも重要と思います。
- 消費者の選別力向上が最重要→価格だけで判断せず、医師の経歴や医療体制、安全管理(特に麻酔管理)を見極める力が不可欠。問題施設が看板を変えて存続する例もあり、「誰が・どの体制で」行うかの可視化が鍵となる。
- 再生医療・自由診療のリスク構造→根拠が不十分な高額治療(100万〜300万円例)や誇大説明が課題。自由診療は規制が及びにくく、法的拘束も限定的なため、エビデンスと認可状況の確認が重要。
- 啓発と情報整備の必要性→専門医資格の整理や公的資格の明確化、一般向け情報の充実が求められる。学会としても市民公開講座やHP発信などを通じ、信頼できる医療を見抜ける環境づくりを進める。
──消費者が選別できるようにする、という視点。
尾見氏: そうです。「リテラシー」とまで大げさに言わなくても、消費者が、どこまで医療機関を見分けられるか。ここが一番重要です。大きなポイントになると思います。
これは難しいです。美容に関心のある人は、一定程度勉強しているはずですが、勉強の仕方を間違えることもある。価格だけで動いてしまったりします。
例えば、麻酔がどれほど危険かを理解していないところもあります。局所麻酔や静脈麻酔を、安全管理の体制が十分でない環境で行うのは本来あり得ないのですが、現場ではそうした話も耳にします。
──事故や重篤例が起きても、分かりにくい面がある。
尾見氏: 問題が起きても看板を変えて続けるような例があると、結局、外からは分かりません。だから「誰がやっているのかが分かる」「どういう体制かが分かる」ことが重要になります。
本当は、教育を受けていて、例えばシミを悪性腫瘍と取り違えない、といった基本ができる医師がよい。しかし現実には見分けが難しい。専門医資格も多すぎて分かりにくい。いわゆる企業の「認定医」もありますが、公的な専門医のほうが、裏付けがしっかりしています。
皮膚科の美容レーザー領域なら、日本皮膚科学会の教育体制に紐づいた資格のほうが、まだ整理しやすいと思います。
──業界ガイドラインづくりも動いています。
尾見氏: 今ガイドラインを作ろうという動きはあります。
作成途中ですが、内容は「ガイドライン」というより、「この設備が必要」「こういう体制が必要」といった、運営面の要件に近いものが多い印象を持っています。いわゆる医師が考える臨床的なガイドラインとは少し違います。
別の形で一般向けの情報をより充実させていく必要があるでしょう。消費者をターゲットに、選別できるようにお膳立てする。私の個人的意見としては、その方向に行かないといけないと思っています。
──美容医療の関連で注目される再生医療も選び方が難しい。
尾見氏: まさに同じ構造があります。再生医療の領域でも、怪しい医療機関が少なくないです。例えば「血液を培養して戻せばがんが予防できる」「治療になる」といった説明が、十分な根拠がないまま行われる。
しかも価格が高額で、1回の採取や処置で100万〜300万円といった例もあります。認可やエビデンスが不透明なまま高額医療が行われるのは問題です。
──消費者の心理としては「治る」と書かれていたら惹かれてしまう。
尾見氏: そうです。自分の細胞でがんが治るなら、これほど魅力的な話はないですが、エビデンスもないと、まずいです。
しかもインバウンド中心でやっているような施設も見られます。私は学術の場でも、少なくとも「その細胞が何をしているのか」「どんな作用がありそうか」くらいは調べないといけないと強く思っています。
──日本では自由診療中心のクリニックには規制が届きにくい。
尾見氏: そうです。自由診療は保険の枠外にありますから、保険側のルールを厳しくしても、影響が及びにくい。
さらに日本は職業選択の自由があり、法的に縛るのも簡単ではない。だから結局、一番良いのは消費者が学んで、経歴や体制を見て、危ないところを避けられるようになることだと思います。
──保険診療と自由診療の線引きも、議論が尽きません。
尾見氏: 線引きは本当に難しいです。例えば同じ皮膚科領域でも、保険が効くものと効かないものが混在します。
多汗症治療の一部は高額治療でも保険が効く一方で、AGA治療薬は保険が効かない、といった具合に、説明が難しい面がある。厚生労働省としても、患者団体の声などで揺れる部分はあるでしょう。
──課題を解決していく必要がある。
尾見氏: 消費者側の選別力を高めることが重要です。ここ1〜2年は、その重要性がいっそう増す時期だと思います。消費者が学べる環境を整え、どの医療機関が信頼できるかを見抜ける環境を整えることが重要です。
私は2027年に長野県軽井沢市で開催される第45回日本美容皮膚科学会総会・学術大会で大会長を務める予定ですが、その際には市民公開講座のような形で、啓発につながるセッションを作りたいと考えています。学会全体としては大学中心の色が強いですので、啓発に強い関心が向きにくい面もありますが、ホームページで一般向けに情報を出すなど工夫します。
プロフィール

尾見徳弥(おみ・とくや)氏。クイーンズスクエアメディカルセンター皮膚科部長/日本医科大学客員教授/東京医科大学客員教授。(写真/編集部)
尾見徳弥(おみ・とくや)氏
クイーンズスクエアメディカルセンター皮膚科部長/日本医科大学客員教授/東京医科大学客員教授
1988年3月、日本医科大学卒業。日本医科大学皮膚科入局。92年、日本医科大学大学院卒業。96年、デンマークAarhus大学客員研究教授。1997年にクイーンズスクエアメディカルセンターセンター長。2010年、日本医科大学連携教授、2012年客員教授。同年、東京医科大学客員教授。日本皮膚科学会認定専門医、美容皮膚科・レーザー指導専門医、日本アレルギー学会認定専門医。日本美容皮膚科学会理事・広報委員長、国際抗加齢・再生医療学会理事長などを歴任。
