
間葉系幹細胞の静脈投与に関する論文を発表。(出典/日本再生医療学会)
日本国内で「幹細胞の点滴」などとして広がっている間葉系幹細胞の静脈投与が、今後は、より安全性を意識した方法で実施されることになりそうだ。
日本再生医療学会が2025年3月20日に間葉系幹細胞の安全な静脈投与につながる手順やチェックポイントの要点を示した論文を発表した。この論文は、医療従事者向けであると同時に、実際に再生医療を受ける人やその家族にとっても、治療のリスクや安全性を理解し、判断する上で有益な内容が含まれている。
治療前に確認すべき8つの重要ポイント
日本国内では、間葉系幹細胞としては、主に脂肪から採取した細胞が用いられている。これは、美容クリニックなどで行われる自由診療の施術にも広く使われている。
今回の論文では、幹細胞を得るためのプロセスや、静脈投与に伴う塞栓などの合併症リスクについて記載されている。幹細胞を静脈投与した場合、一般的な薬剤とは異なり、比較的大きな細胞が注入されることで、毛細血管に詰まる可能性がある。論文によれば、肺や心臓、脳の血管に詰まると、肺塞栓、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、健康に重大な影響を及ぼす恐れがあるとされている。
幹細胞を用いた施術は若返りなどを目的に行われることがあるが、こうしたリスクに関する情報提供は欠かせない。施術を受けるにあたっては、幹細胞の点滴にはリスクが伴うことをあらかじめ理解しておく必要がある。
施術を受ける際に、医師が本人およびドナー(多くの場合は同一人物)に十分に確認すべき項目は、以下の通り。なお、自由診療で行われる幹細胞治療には、基本的に自分自身の細胞が用いられるため、ほとんどすべてのケースで施術を受ける人とドナーは同一人物と考えられる。
- 認定再生医療等委員会に提出された説明文書の内容が、本人またはドナーに正確に伝えられているか
- 細胞採取や投与に関するリスクが十分に説明されているか
- 特に、血管での塞栓が起こる可能性について説明されているか
- 上記の説明内容が診療記録(カルテ)に記載されているか
- 健康被害が発生した場合の補償について説明されているか
- 不調や緊急事態、苦情等への24時間対応の連絡先が明記されているか
- 緊急時の対応体制について説明されているか
- 採取された細胞が最終的に使用不可となる可能性についても説明されているか
静脈注射を受ける人ばかりではなく、幹細胞を採取する場合にも、採取のプロセスで細胞が血流に乗って血管を詰まらせる可能性が考えられる。このように、静脈注入および採取に伴うリスクについて、医師から説明されることの重要性が示されている。さらに、説明内容がカルテに記載され、万が一健康被害が生じた場合の補償についても説明される必要があるとされている。24時間体制で連絡可能であること、緊急時などの連絡体制が整っていること、そして採取された細胞が使用不可となる可能性についても説明される必要がある。
今回の論文では、医師が施術を受ける人などに伝えるべき内容に加え、合併症を防ぐための具体的な注意点も医療機関向けに提示されている。日本再生医療学会が今回発表した論文は、今後の国際的なガイドライン策定の基盤として機能することが示されている。今後は、これを基に間葉系幹細胞を使った静脈投与の標準化が進むことが期待されている。
安全性と信頼性を高める新たな一歩

静脈投与を安全に行うためのチェックポイント。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
日本再生医療学会は23年8月に、「間葉系幹細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言」を発表し、この中で日本国内向けに、幹細胞を静脈注入した場合のリスクや対応について解説していた。今回の論文は、この内容も踏まえ、日本の姿勢を海外の再生医療関係者に示すことを目的としている。
こうした提言や論文には法的な拘束力はないものの、日本の再生医療を束ねる学会が示した方針であり、参考とされる可能性は高いだろう。また、こうした論文が発表されることで、リスクに関する認識が一般にも伝わりやすくなると考えられる。
日本の再生医療は、海外と比べて先行して実用化が進んでいる。しかし、安確法という法律が存在するにもかかわらず、その運用が適切ではなく、実際にトラブルも発生しているという課題があり、こうした状況のまま再生医療が実施されていることが、海外からも指摘されている。国際的には、安全性を高めるための監視体制の構築が求められていた。そうした中で、幹細胞の静脈投与に関する指針が策定されることは、重要な前進となる。
※「安確法」は「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」のそれぞれ略称である。