
量子コンピューターを用いて処方が決まった美容液。(出典/コーセー)
量子コンピューターを用いた世界初の化粧品処方が実現された。
コーセーが2025年5月に高価格帯「コスメデコルテ」の「AQ」から毛穴角栓を除去するためのオイル美容液を発表した。
化粧品業界では科学技術の応用が進んでおり、今回の事例もその一環ととらえられる。
量子コンピューターのアルゴリズム利用

量子コンピューターを使った処方を決定。(出典/コーセー)
- 量子コンピューターとは→ 原子より小さい「量子」の性質を使い、高速で膨大な計算が可能な新技術。
- コーセーの活用開始→ 2019年から化粧品研究に量子コンピューターを導入。
- 応用例→ 角栓除去に最適なクレンジングオイルを、1000億通り超の組み合わせから選定。
量子コンピューターとは、「量子」と呼ばれる原子よりも小さな物質などの性質を利用して、高速の計算を可能にする新しい技術。この技術を使うと、従来のコンピューターで何年もかかる計算を数分で完了する。
コーセーは2019年から量子コンピューターを使った化粧品の研究を進めてきた。
注目したのは、無数の原料と配合量の組み合わせから、目標の品質を達成する「化粧品処方の最適化」というテーマ。処方とは、成分の種類や量、使用方法などを示したもの。
量子コンピューターによる処方の生成では、目標の品質、化粧品原料データ、安全性などの条件を設定して、量子コンピューターと従来のコンピューターを用いて、膨大な数の候補から処方を絞り込む処理を行う。同社によると、23年には、処方を自動的に生成するシステムを開発した。
今回、このシステムを使って、角栓を溶かす機能を指標とし、1000億通りを超える成分配合の中からクレンジングオイルに最適な成分の組み合わせを選んだ。角栓は、タンパク質と脂質が複雑に絡み合った構造で、一般的なスキンケアでは除去が困難とされる。この課題を解決するため、量子コンピューターの技術が応用された。
同社は5月16日から、百貨店、化粧品店、公式オンラインショップで高価格帯「コスメデコルテ」の「AQ」ブランドの商品として販売開始し、価格は税込1万1000円。中国や香港を含むアジア各国に加え、欧州や米国などでも展開を予定している。
化粧品の作り方も科学的に

日本の化粧品市場予測。年ごとの推移。(出典/矢野経済研究所)
- 研究体制の強化→ ポーラ化成と東北大学の共同研究所、佐賀大学の化粧品学科新設、企業と医学部の共同研究などが進展している。
- 国際的な信頼への対応→ 韓国では化粧品の誇張広告を規制する動きが強まり、グローバル展開における信頼確保が重視されている。
- 価値の本質→ 見た目やイメージだけでなく、実際に肌に良いものだけが化粧品としての存在価値を持つ。
日本の化粧品の市場は、コロナ禍で縮小し、現在は拡大傾向にあるが、化粧品に科学的根拠が求められる動きが見られる。
最近では、ポーラ化成工業と東北大学が共同で研究所を設立したり、佐賀大学が化粧品に関する学科を新設する動きがあるほか、化粧品メーカーが国内外の医学部と共同研究を進める動きが活発化している。
その背景には、有効性と安全性に科学的な根拠がないものは、化粧品として認められにくくなっているという動きがあるのだろう。
直近では、韓国の化粧品が、虚偽や誇張を含んだ広告を禁じられる動きが強まっている。これは韓国コスメが国際的に販売が伸びる中で、有効性や安全性に虚偽や誇張があれば、一瞬で国際的な信頼が損なわれるという危機感が背景にあるだろう。
化粧品はいくらイメージが良くとも、実際に肌に良いものでなければ、存在価値が問われる。これは、結局美容全般にいえることで、美容医療でも同様だ。本当に価値あるものだけが生き残る時代となっている。そのためには科学の力を利用することはますます重要になっていると考えられる。量子コンピューターの利用はそうした動きの一つと見なせる。
