
美容目的のタトゥー。検察が不起訴処分。(出典/編集部取得)
美容目的タトゥー施術をめぐり、警察が摘発した事案が検察で不起訴となっていたことが明らかになった。
また、別件で、スカルプタトゥーと呼ばれる施術でも、警察への照会後に、事実上「静観」とされた事例が発生していることも分かった。
厚生労働省が8月、アートメイクを医行為として、無資格者や看護師単独の施術の違法性を通知している。一方で、最高裁判所が彫り師がタトゥーを行っても違法とはいえないと判断した判決を出していることで、行政と裁判所の判断に乖離(かいり)が生じ、どのように解釈されるべきかが問われている。
三重県と北海道で相次いで不起訴処分

検察。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 北海道・三重での動き → 2025年8月に北海道で、医師法違反容疑により捜査を受けた美容目的のタトゥー施術者が不起訴処分に。編集部が書面を確認。3月には三重県でも同様の不起訴事案が発生していた。
- 関東での事例 → 毛髪部への刺青施術(スカルプタトゥー)を行っていた人物が、医療関係者から通報をほのめかす非難を受け警察に説明。その結果、不問とされたことが確認された。
- 関連事例 → 2025年9月、千葉県では美容師による「タトゥーメイク」を保健所が静観したケースも報じられており、対応に地域差が見られる。
ヒフコNEWSの取材によると、2025年8月に北海道で、医師法違反の疑いで捜査を受けた美容目的のタトゥー施術者が、最終的に検察で不起訴処分となった。編集部では、その際の書面を確認した。また、関係者によれば、これとは別に、3月にも、三重県で同様な不起訴の事案が発生したという。
2件はいずれも、医療機関ではない施設で、美容目的のタトゥーが行われていた事例だった。通報を受けたことで、摘発に至ったと見られる。
一方で、これらとは別件で、関東で毛髪部への刺青施術(スカルプタトゥー)を行っていた人物が、医療関係者から「違法ではないか」と通報をほのめかす非難をされ、警察への説明を経て、立件に至らなかった事例もあることが取材により確認された。実質的に「静観」の姿勢を示した形になった。
関係者によれば、各事例では健康被害は確認されていなかったという。
なお、同様の動きとして、ヒフコNEWSは2025年9月、千葉県で美容師によるタトゥーメイクを保健所が「静観」とした事例を報じている。
厚労省通知の影響と最高裁との乖離

厚生労働省。(写真/Adobe Stock)
- 判断の難しさ → 「医療行為かどうか」の最終判断が警察・行政で揺れており、線引きが難しくなっている状況がある。
- 背景 → 2020年の最高裁判決で「刺青は医行為に当たらない」とされた一方、2023年・2025年の厚労省通知では「アートメイクは医行為」とされたことにより、法解釈の食い違いが生じている。
- 専門家の見解 → 大阪大学名誉教授・細川亙氏は、アートメイクとタトゥーの間に実質的な差は少ないと指摘。さらに「厚労省が安全性確保を目的とするなら施策を取るべきだが、現状では対応が見られない」と批判している。
「医療行為かどうか」の最終的な判断が、警察、行政の中で難しくなっている可能性がある。
一連の混乱の背景には、2020年の最高裁判決(刺青は医行為に当たらない)と、2023年・2025年の厚生労働省通知(アートメイクは医行為)の間に、解釈の食い違いが存在することがある。
この問題についてかねて指摘している、大阪大学名誉教授の細川亙氏は、ヒフコNEWSのコラム「細川亙 現代美容医療を殿が斬る」で、アートメイクとタトゥーとの間に実質的な差を見いだしづらいという見方を示してきた。
一方で同氏は8月の同欄では、「現実に国民の保健衛生上の必要性からタトゥー施術に関して安全性を確保するための施策を実施すべきであると厚労省が考えているのであれば、その姿勢は尊重すべき。ところが最高裁決定から5年間も経っているが、厚労省は彫り師によるタトゥー施術について何ら保健衛生上の問題が生じているとは認識しておらず、また対策を取ろうともしていない」と指摘した。
実際、問題が疑われた場合に立入検査の対象になる医療機関とは異なり、タトゥー施術の施設に対しては、医療機関と同じような規制は適用されない。安全性を確保する観点からは、何らかのルールを定めることも選択肢になると考えられる。現状では、民間団体が会員を募り自主規制をしている状況になっている。
また、前述のように、厚労省はこの8月にあらためて通知を出し、アートメイクが医行為である点を再確認している。厚労省は今後、医療行為としてのアートメイクと、その他の美容目的のタトゥーとの間の違いをどう解釈し、どのような対応をしていくのかは、施術を受けている人たちの安心、安全のためにも重要になる。
