2024年4月30日、日本再生医療学会はエクソソームを利用した治療に関する新たな「ガイダンス」を発表した。
エクソソームとは、細胞間で情報を伝達し合うために分泌される小さな膜性の粒子で、再生医療などの分野で注目され、国内外で国により公的に認められていないが、実際には使用されている。専門家からも懸念の声はあるものの、今回のガイダンスでは使用を止めるのではなく、安全に使用するためのプロセスごとの推奨項目を示す内容になっている。
今後の国内の規制強化も見据えている。
国内でもエクソソームや、それを含んだと説明されている幹細胞培養上清液が美容クリニックなどで提供されているが、利用を検討する時には参考にしていい動きだ。
3月の日本再生医療学会での説明に沿った内容に
- 細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス公表→新潟市での日本再生医療学会総会後、約1カ月を経て、エクソソーム関連のガイダンスが公表された。
- エクソソームと細胞外小胞→美容医療などの自由診療で使用されるが、安確法の対象外であり、法的な委員会に基づく審査が行われていない。
- ガイダンスの主要内容→安全性と有効性に関する懸念を指摘しつつ、エクソソームを含めた細胞外小胞治療を禁止するものではない。
- 寺井崇二氏の提案した対策→品質評価の基準となるチェック項目の提示、Functional Assayによる効果検証が必須。ガイダンスもこれに沿う。
- 治療のプロセス推奨項目→リスクプロファイリング、製造工程と品質の管理、チェック項目の確認、効果検証。ガイダンスでは、これらのプロセスに関連した推奨事項を示す。
発表されたのは、「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス」。ヒフコNEWSでも伝えたが、これに先立つ3月、新潟市で開催された日本再生医療学会総会では記者会見が開かれ、エクソソーム関連ガイドラインを発表する見通しが示されていた。ほぼ1カ月が経ち、その公表が実現した。
※美容医療を含めた自由診療でエクソソームが使用されているが、これは細胞外小胞の一種となる。細胞外小胞とは、細胞から分泌される膜構造を持った粒子のこと(エクソソームをもっと理解するための9つキーワード、「EVs」「ISEV」「miRNA」「CQA」……日本再生医療学会の講演から振り返るhttps://biyouhifuko.com/news/japan/6338/)。
細胞外小胞は、細胞から作られるために再生医療と近い性質を持つものの、細胞を含んでいないなどの特徴から、従来、再生医療に関連する「安確法」の対象外になっている。結果として、自由診療などで行われている細胞を使った再生医療とは異なり、法律に基づいた委員会での審査が行われていない。美容クリニックなどで実施されているエクソソームを使った治療は未承認製品を使った治療になっている。
美容クリニックなどでは、文字通り、国が認めていない治療を、医師の裁量権の下で行っている状況になる。
※安確法は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律の略称。再生医療法と呼ばれることもある。
今回のガイダンスの中でも、「安全性、有効性への懸念が生じている現状がある」と指摘しているが、「エクソソームを含めた細胞外小胞を使った治療を行ってはいけない」と止める内容にはなっていない。
ガイダンスの中身を見ていくと、3月の日本再生医療学会の場で、新潟大学の寺井崇二氏が説明した内容に沿ったものになっていることが分かる。寺井氏が今後進める重要な対策として示したのは次の2点だった。
- 品質評価の基準となるチェック項目の提示→使用される細胞外小胞の起源や品質に関する詳細な評価が必須で、品質評価の基準を明確にしていく。
- 効果を確かめるFunctional Assayの検証→治療の有効性を科学的に検証するためには、適切なFunctional Assay(機能的試験)がどういうものかを決め、それに沿って検証を進める。
平たく言えば、安全な製品を作り、作ったものが本当に安全で有効かを効果的な方法で確かめるということだ。寺井氏はこの2つの対策を踏まえて、次の4点のプロセスを進めることになると解説していた。
- リスクプロファイリング→治療に伴う潜在的なリスクを詳細に分析し、対応策を検討することで、治療を受ける人たちの安全を最優先に考慮。
- 製造工程/品質の管理→細胞外小胞治療の効果と安全性を保証するために、製造工程と品質管理の基準を厳格に設定し、遵守できるようにする。
- チェック項目の確認→安全な臨床応用に向けたチェック項目をもとに、治療前に必要な準備と評価を徹底。
- 効果検証→適切なFunctional Assayを通じて治療の効果を科学的に検証し、その結果を基に治療法を最適化。
ガイダンスはまさにこのプロセスに合わせて推奨項目を挙げるものになった。
懸念の声がある中で、美容クリニックなど自由診療で使用されているエクソソームを含めた細胞外小胞が安全に使用されるような守るべきプロセスといえるだろう。
推奨項目としては、例えば、「薬事未承認のEV療法を提供する医師または歯科医師は、(中略)品質及びリスクのプロファイルに関して自ら十分に理解した上で、(中略)科学的妥当性と患者への安全性の確保に努めなければならない」などと掲げている。
※EVは細胞外小胞の略称。
国でのルール作り進む可能性も
- 臨床試験の必要性→ヒトでの安全性や有効性の確認が必要とされ、エクソソームを含む細胞外小胞の使用には科学的根拠が不足している。
- ガイダンスの情報源→文献レビューやPMDAの科学委員会報告書や構成員の状況把握や経験を基にガイダンスがまとめられている。
- 国に対する働きかけ→3月の学会では、国への働きかけについても言及されている。
3月の日本再生医療学会では、4つのプロセスを進めた上で、ヒトでの臨床試験で安全性や有効性を確認していくことが求められるとした。これは、エクソソームを含めた細胞外小胞は安全性や有効性についての根拠が不足していることを示している。
この辺りについて、今回のガイダンスでは、「現時点での文献的なレビューや独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の科学委員会『エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書』や各構成員の状況把握や経験を元にまとめた」と説明している。
日本再生医療学会は3月に、「まず教科書を示し、国に働きかける」という姿勢を明らかにしていた。エクソソームを含めた細胞外小胞については、国のルールがない状況であり、今後、学会が示したガイダンスも踏まえ、国でもエクソソームに関連した法的な規制が進む可能性がある。