2024年10月18日、厚生労働省は「第3回美容医療の適切な実施に関する検討会」を開催し、美容医療業界の現状と課題について議論した。
前後半に分けて、そこで話し合われた内容や示された情報を伝えるが、前回の記事の前半では、検討会で注目された厚労省が実施した実態調査について伝えた。この調査では、経験の浅い医師による施術、合併症や後遺症の発生状況が明らかにされた。
今回、記事後半では、厚労省により示された課題や対策案、さらに医学会や医院から参加した有識者ヒアリングの内容について伝える。
違法・不適切な施術に業界ガイドラインなどの対応策
- 第3回検討会冒頭→ 第2回検討会で挙がった課題に対する対策が示された。
- 違法・不適切な診療の具体例→ 医師以外による施術や、医師の指示なしに看護師が施術を行う事例が含まれる。また、無資格者による施術や薬剤の処方も違法とされる。
- 厚労省が示した対応策→ 実態の把握と国からの取り締まり基準の提示、診療録の記載義務、業界ガイドラインの整備が求められている。また、オンライン診療の法的な位置づけを明確にすることも重要とされた。
検討会はこれまで2回の会議が行われ、第2回では、日本形成外科学会と日本皮膚学会が情報提供し、美容医療に技術の乏しい医師が参入し合併症に対処できない状況、専門医の制度を重要視することなどが求められていた。また、保健所からも違法・不適切な診療が実施されている状況が紹介された。
第3回の冒頭では、第2回の検討会で課題として挙がった違法・不適切な診療に関して、課題と対策が示された。
違法・不適切な診療とは、例えば、医師以外による診察や施術が当てはまる。医師の指示がないままに、看護師が医療脱毛などの施術を実施しているケースが指摘されているほか、前半の記事で実態調査により示されたが、カウンセラーや受付スタッフが無資格で施術を実施していたケースが明らかになった。このほかにもオンライン診療で、医師の指示もなく、無資格の人物が薬剤を処方しているケースも違法になる。
一方、第2回の検討会では、不適切な施術は何が不適切かの判断が難しい点が説明された。
こうした違法・不適切な施術に対して厚労省が示した対応策は、実態を把握するほか、取り締まるための基準を国から示すこと。医院には診療録に必要な情報を記載するよう求めること。学会が中心になり業界ガイドラインを整備すること。オンライン診療についても、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が守られていないことから、法的な位置づけをはっきりさせていくこと。違法・不適切な診療への課題と対応策は整理すると次のようになる。
課題 | 対応策 |
---|---|
患者からの相談の際に、違法が疑われる医療機関の調査や指導の手がかりが不足している | 美容医療を提供する医療機関の違法事例等の実態把握に資する基礎資料の定期的な報告 |
保健所などが美容医療に関する専門知識を十分に持たず、立入検査や指導が困難 | 医師法の解釈、保健所等の立入検査・指導のプロセス・法的根拠を明確化し、通知を発出 |
診療録などの記載が不十分で、保健所による問題事例の把握が困難 | 診療録については診療の実態を確認するために必要な記載事項を追加する |
医療機関側の法制度への理解が不十分 | 適用される法制度の内容も含む業界ガイドラインの策定、美容医療に関する国民の理解促進 |
オンライン診療の法的な位置づけが不明瞭で、遵守されていない | オンライン診療指針の位置づけの整理 |
こうした対応策について、医院を取り締まる立場にある新宿区保健所の宮沢裕昭氏は、厚労省などが通知を出す際には、白黒をつけるのではなく、保健所が臨機応変に判断できるような余地を残してほしいと要望した。白黒をはっきりさせない理由は、やって良いことと悪いことがはっきりすると、かえって抜け道が作られるからだと述べられた。
業界のガイドラインや診療録に必要な情報を記載するようにする対応策については、学会だけではなく、厚労省や消費者庁なども関与するよう要望されたほか、診療録については、誰がどのように説明したかなど、必要事項を明確にするよう要望が出た。
過去1年に美容医療合併症を診察した医師64.5%
- 日本美容外科学会(JSAPS)武田啓氏の発言→ 20年と22年に「美容医療診療指針」を作成し、学会員の64.5%が過去1年で美容医療の合併症を診察した状況を紹介。
- 日本美容外科学会(JSAS)鎌倉達郎氏の発言→ 学会の入会時、医師免許取得から入会までの年数は平均7.8年、3年未満の割合は32.5%。
- 共立美容外科の安全対策→ 医療の質は変化し得るとし、慎重に施術の適切さを見極めることや、医療安全マニュアルの共有・研修プログラムを実施。
- 一家綱邦氏の意見→ ガイドラインに推奨されない施術が実施される実態を指摘し、学会に意見を求めた。
- 宮川政昭氏の意見→ ガイドライン作成後、実効性を伴う対策が必要だと強調。
引き続き、医学会と医院からの有識者ヒアリングが行われた。
日本美容外科学会(JSAPS)の武田啓氏(北里大学形成外科教授)は、20年と22年に「美容医療診療指針」を作成したことを紹介。学会の会員を対象とした調査を示し、過去1年間に美容医療の合併症を診察している医師が64.5%に上る状況を紹介した。内訳について、年間6件以上(2カ月に1回以上)診察したのが19.9%、13件以上(毎月を超える頻度)診察したのが10%いた。
日本美容外科学会(JSAS)の鎌倉達郎氏(聖心美容クリニック統括院長)は、学会の会員のプロフィールを紹介した。入会審査時、医師免許取得から入会までの年数は平均7.8年、医師免許取得から入会まで3年未満の医師の割合は32.5%と説明した。
医学部卒業後2年間の初期研修を終えた直後に美容医療に参入する「直美」が注目されるが、おおむねJSAS会員の3人に1人がその経歴に当てはまる可能性がある。
鎌倉氏は美容医療のトラブルに巻き込まれた利用者の経験についても紹介した。ある被害者は、1万円以下の価格が示された広告をきっかけに医院を受診したところ、長時間監禁され100万円近く施術の契約をさせられた。このケースでは、治療方針をカウンセラーが決めたが、その後、医師がカウンセラーに逆らえない状況が存在した可能性があるという。術後に腫れの合併症があったが、アフターケアが全くない状況だった。
このほかのケースでは、美容医療を検討した人物が、数万円の予算であるのに300万円近い契約を結ばされそうになった状況が示された。保険証を奪われ、3時間半監禁されて脅迫されたという悪質なケースだった。被害者は警察に相談するまでに発展した。
鎌倉氏は、医師の技術やモラルを育てる必要があると指摘した。
医院の立場から共立美容外科が安全対策を紹介した。同院では、医療の質の定義は変化し得ると指摘し、施術が適切であるかを慎重に見極めているという。医師が治療方針を決める重要性を強調した。医療安全マニュアルを年2回、医師ばかりではなく全職員に共有し、内容の見直しも継続していること、研修プログラムの実施なども紹介した。
こうした学会の説明に対して、検討会の構成員で、国立がん研究センター生命倫理部部長の一家綱邦氏は、ガイドラインが作成されても、この中で推奨されない施術が実施されている実態があると指摘し、学会に意見を求めた。同じく構成員の日本医師会常任理事の宮川政昭氏は、ガイドラインを作成した後には、実効性が伴うよう対策すべきだと意見を述べた。
美容医療は未承認の医薬品やデバイスが使われることが多いほか、エビデンスが不足しているなどの課題は多い。現実的に医師の判断でガイドラインの方針に反する施術が実施されていることもある。今後、ガイドラインをどのように扱い、一般の人々にどのように説明するかが問われることになる。
「医療の質」を向上させる年1回の安全報告制度
- 厚労省の提案→ 業界ガイドラインの整備、一般向けの情報提供強化、SNSのネットパトロール、医院の安全管理措置報告の提案がされた。
- ガイドライン整備→ 違法・不適切な施術の取り締まりとも関連し、業界ガイドラインの整備が進む見込み。
- 次回検討会→ これまでの議論を基にしたとりまとめが行われ、今後の方針が決定される。
続いて厚労省は、医療の質についての課題や対応策を提案した。これは直美の問題も関連してくる。ヒフコNEWSでも報じているが、美容医療のトラブルが増加している中で、未熟な医師が施術に当たる直美の問題が大きな注目を集めている。このことが美容医療での健康被害につながる可能性があるほか、強引に施術を行うなどのモラルの問題にも関連することが懸念されている。
医療の質に関連して厚労省が示した課題と対応策を要約したものが次の表だ。
課題 | 対応策 |
---|---|
美容医療における適切な治療法の選択、説明、後遺症対応、研修体制等のガイドラインが整備されていない | 関係団体によるガイドライン策定 |
患者が美容医療に関する正しい情報を持っておらず、適切な医療機関を選択できない | 美容医療のリスクや法制度に関する情報を国民向けに周知・広報 |
美容医療を提供する医療機関への立入検査が不十分であり、安全管理措置が徹底されていない | 美容医療を提供する医療機関の安全管理措置の定期的な報告と、その報告内容の公表 |
インターネットやSNSを通じた誤解を招く医療広告が横行している | 医療広告のネットパトロールの強化 |
以上のように、業界ガイドラインの整備のほか、一般向けの情報提供を強化すること、不適切な情報が出されるSNSを含めたネットパトロール、年1回の医院の安全管理措置の報告制度などが提案された。
ガイドラインの整備は、先に話し合われた違法・不適切な施術の取り締まりとも関連するだろう。ガイドラインの整備については、検討会でも賛同する意見が出ていたことから、業界ガイドラインの整備という方向性はほぼ固まってくると見られる。
このほか一般向けの情報提供に関連して、構成員を務める美容・医療ジャーナリストの海野由利子氏は、自らがJSAPSの学術集会の聴講が断られたことを紹介。オープンな情報提供に務めることを求めた。
構成員である共立美容外科理事長の久次米秋人氏は、カウンセラーによる治療方針の決定を禁止すること、医師が自ら診断を行うこと、診療録の記録を徹底することについて最低限ルールを定める必要があると考えを述べた。
医師の間では直美についての関心は高いが、検討会を通じて、それに対する具体的な策はいまだに見えにくく依然として難題のままだ。未熟な医師の問題に関連して、構成員の中からは、技術不足やモラルの問題を解決するための教育体制を強化するよう求める声が挙がっていた。その方法論の詳細は明らかではないが、今後、研修の仕組みが作られる可能性はある。業界ガイドラインが整備されると見られるが、そうした中で美容医療を行う医師に求められる条件や研修の仕組みなども定められ、直美への対策がもう少し具体的になってくる可能性もあるだろう。
次回の検討会では、これまでの議論を踏まえたとりまとめが示される予定で、それに基づいて今後の動きが決まってくることになる。