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バイオスティミュレーターによる合併症への新たな対策、しこりを「溶かす」技術に注目、PCL製剤の症例で検証、シンガポールの医師が美容皮膚科誌に発表

カレンダー2025.5.14 フォルダー最新研究

 若返りや肌のハリ向上を目的とした、スキンブースターやバイオスティミュレーターと呼ばれる製剤の注入治療が盛んになりつつある。

 一方で、遅れて発症するしこり(結節)などの合併症が問題となっている。特に厄介なのは、しこりに対する明確な治療法が存在しないケースが多い点だ。

 2025年5月、シンガポールの医師が、コラーゲンを溶かす酵素によってバイオスティミュレーターの合併症であるしこりを溶かす技術を発表した。

手術せずに「しこり」の解消を目指す

注射。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

注射。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 スキンブースターやバイオスティミュレーターは、乳酸やポリカプロラクトンなどの製剤を皮膚に注射することで、組織を刺激してコラーゲンの生成を促す美容施術。これにより、組織のボリュームを増やして、肌質を改善する。コラーゲンブースターなどと呼ばれることもある。以下では、バイオスティミュレーターと呼ぶことにする。

 バイオスティミュレーターには、ポリ-L-乳酸(PLLA)、カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリーD-乳酸(PDLA)、ポリーDLー乳酸(PDLLA)、ポリヌクレオチド(PN)、ポリデオキシリボヌクレオチド(PDRN)など、さまざまな製剤が使われている。ヒアルロン酸と組み合わせた製剤も珍しくない。

 肌のボリュームアップなどの目的で使われるヒアルロン酸の場合には、注入しすぎた場合などに、ヒアルロニダーゼと呼ばれる酵素を使ってヒアルロン酸を溶かすことで、対処することが可能で、一般に使われている。

 それに対して、他のバイオスティミュレーターの場合に、合併症を起こしてしこりなどができても、解決法がないことが問題となる。

 ヒフコNEWSで記事を出しているが、合併症が起きた場合、治療に成功する割合が1割程度と報告されている。

 こうした中で、今回、シンガポールの医師らは、「iCare」という名前で読んでいるが、コラーゲンを溶かすコラゲナーゼという酵素を使ってしこりを溶かす方法を試している。

 バイオスティミュレーターはPCL製剤(商品名Ellansé M、エランセM)を使ったときのしこりを溶かすために、コラゲナーゼを使った。

 研究論文によれば、iCare技術は、しこりの体積に対して約5倍量のコラゲナーゼを含む液を細い注射針で直接注入するものだ。続いて5分間マッサージを行う。

 今回の研究報告では、3人の患者にできた合計10個のしこりを溶かす効果が検証された。

安全のための解決法が必要

左の状態から、コラゲナーゼを含む液体を注射したところ右への改善が見られた。(写真/J Cosmet Dermatol. 2025 May;24(5):e70201.)

左の状態から、コラゲナーゼを含む液体を注射したところ右への改善が見られた。(写真/J Cosmet Dermatol. 2025 May;24(5):e70201.)

 結果として、5mm以下のしこりは1回の処置、10mm以上では複数回の注射で完全に消失させることができた。

 いずれも副作用はなく、感染や炎症といった問題も確認されなかった。

 さらに、実験室での研究によれば、エランセMとコラゲナーゼを混合したところ、5分で液体に戻ることも確認された。

 一方で、他の溶解剤であるヒアルロニダーゼやステロイドでは効果が見られないことも分かった。

 別の実験での皮内試験でも、エランセMが短時間で平らになる様子が観察された。

 バイオスティミュレーターが世界的に盛んに行われている中で、安全な美容施術を可能とするための合併症解決法の開発は急務になっているのは間違いない。バイオスティミュレーターは、さまざまな種類の製剤があるので、それぞれの種類に応じた解決策も求められる。研究報告では、試された人数やしこりの数は限られている。実績を重ねるなど、検証すべき点は多いものの、合併症が問題になる中で、今回の報告で検証されたコラゲナーゼを用いる方法は、有望といえる。

参考文献

Wu L. iCare Technique of Dissolving Ellanse M Nodules Using Collagenase: A Case Series and Experimental Study. J Cosmet Dermatol. 2025 May;24(5):e70201. doi: 10.1111/jocd.70201. PMID: 40296530; PMCID: PMC12038313.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40296530/

バイオスティミュレーター、合併症の6割が1カ月以降に出現、顔面・しこりが最多、治療成功は1割未満(ヒフコNEWS)
https://biyouhifuko.com/news/research/12074/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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