
太田母斑によるあざは外見への影響がある。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
過去の研究を分析して、レーザー治療の照射条件が適切なものを抽出した上で検討した結果、太田母斑の治療では、ピコ秒レーザーがナノ秒レーザーよりも優れていると確認された。
大阪公立大学、大阪大学、東海大学の研究グループが2025年6月に、米国皮膚科学会誌「JAAD Reviews」オンライン版で報告した。
美容医療でもレーザー治療が活発に行われており、治療効果を科学的に確かめる上で重要な研究成果になりそうだ。
信頼性の高い研究を選び出す

コンピューターによるシミュレーションにより適切なレーザー照射条件の目安を決定。(出典/大阪公立大学)
- 大阪公立大学の研究→
信頼性の高い研究のみを対象にするため、レーザー照射条件の適切さを基準に研究を選定し、メタ分析を実施。- インシリコモデルの活用→
コンピューターシミュレーションにより適切な照射条件の目安を作成し、その条件に合う治療データのみを分析対象とした。- 太田母斑の治療効果→
ピコ秒レーザーの方がナノ秒レーザーよりも高い治療効果があることを確認。安全性には両者で差がないことも分かった。
治療の効果を確かめる方法の一つに、いくつかの研究をまとめて分析する「メタ分析」がある。この方法で効果が示されれば、信頼できると考えられるが、元になる研究の信頼性が低ければ、分析の結果も信頼しにくくなってしまう。だからこそ、分析に使う研究の信頼性を高めることが大切になる。
大阪公立大学などの研究グループは、レーザー治療の効果を確かめるため、照射条件が適切かどうかを基準に研究を選び、信頼性の高いものだけを対象にメタ分析を行った。
具体的には、「インシリコモデル」と呼ばれる方法を使い、コンピューターシミュレーションで適切な照射条件の目安を作成し、その目安に合う治療データだけを対象に分析を行った。
この方法を使って太田母斑のレーザー治療を改めて評価したところ、ピコ秒レーザーの方がナノ秒レーザーよりも高い治療効果を示すことが分かった。安全性については両者で差がないことも確認された。
※太田母斑は、目のまわりや頬にできる青黒いあざのこと。アジア人に多く見られ、見た目だけでなく心の負担も大きい。今ではレーザー治療が最もよく使われている。
また、研究グループは、適切な照射条件を分かりやすく見える形にすることで、実際の治療で照射設定を決めるときの参考になる情報も示した。今後のガイドライン作りや治療の方法をそろえることにも役立つ成果といえる。
安全で有効性の高いレーザー治療につなげる

レーザーの施術を安全で効果的に。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 日本美容皮膚科学会での講演→
2024年9月の学会で下条氏が講演を行い、ピコ秒レーザーの治療条件を理論的に導く「治療モデル」の重要性を強調した。- 個別最適化の提案→
スキンタイプ、メラニンの分布、照射波長、エネルギー密度などを一人ひとりに最適化することで、合併症を防ぎ、治療効果を高める方法を紹介。- 今後の展望→
どこで治療を受けても同様の結果が得られる体制づくりに向け、今後も理論に基づく研究が重要になる。
このように、レーザー治療がより科学的な根拠に基づく形になることで、これまで以上に全然で効果的な治療が期待できる。
ヒフコNEWSでは、今回の成果をリードした下条裕氏が以前に行った講演についても取り上げている。2024年9月に開催された第42回日本美容皮膚科学会において、下条氏はピコ秒レーザーの治療条件を理論的に導き出す「治療モデル」について講演し、合併症を防ぐために最適な照射設定が必要であることを強調していた。
下条氏は、ピコ秒レーザーの「超短パルス照射による選択的な破壊作用」に着目し、スキンタイプやメラニンの分布、照射波長、エネルギー密度といったパラメータを一人ひとりに合わせて最適化する方法を紹介した。
こうした理論を実際の治療に活かすことで、より安全で効果的な施術を目指す姿勢を示していた。
今回発表された「インシリコ支援メタ分析」は、レーザー治療の質をさらに高める研究成果といえる。レーザー治療の普及が進む中で、適切な照射条件を見える形にし、どこで治療を受けても同じような効果と安全性を得られるようにするには、このような研究が重要である。今後のレーザー治療のさらなる進化が見込まれる。
