
毛と皮膚の再生が関連。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
毛は脱毛の対象になることも多く、不要なものとみられることもある。しかし、最近の研究では、「ムダ毛」どころか、肌を治す上で重要な役割を果たす可能性が分かってきた。
今回、米国ロックフェラー大学の研究チームは2025年8月、毛を生み出す幹細胞が傷の治癒プロセスに関与している可能性を報告した。
この知見は、美容医療における「皮膚の回復」を考えるうえでも注目される内容だ。
毛を作る細胞が「肌治療モード」に

毛包の幹細胞が皮膚の治癒を促す役割も。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 皮膚の幹細胞の種類 → 表皮幹細胞は皮膚修復、毛包幹細胞は毛の生成を担うが、表皮幹細胞が失われた際には毛包幹細胞も修復に関与する。
- 新たな発見 → 毛包幹細胞の役割切り替えには、アミノ酸「セリン」とその反応機構が関与していることを確認。
- 働きの仕組み → セリン不足やケガが起きると、毛包幹細胞は毛づくりを停止し「肌治療モード」に移行。皮膚再生を加速させる。
研究チームによれば、皮膚には表皮幹細胞と毛包幹細胞という2種類の幹細胞がある。幹細胞は、体を形づくるさまざまな細胞に変化できる「源」となる存在になる。
一般的には、毛包幹細胞は毛を生やし、皮膚の修復は表皮幹細胞が担うと考えられている。ただし、表皮幹細胞が傷などで失われた場合には、毛包幹細胞が修復に参加することも以前から知られていた。
今回の研究では、この毛包幹細胞の役割が切り替わるきっかけとして、「セリン」というアミノ酸と、それに反応する仕組みが関係していると確認された。
報告によると、ケガをするなどで皮膚にセリンが不足した場合に、毛包幹細胞は「省エネモード」に入り、毛づくりを一旦ストップ。傷が発生すると、さらに変化して、細胞は完全に「肌治療モード」へ移る。この結果、皮膚の再生がスピードアップする。
シンプルに言えば、栄養状態と怪我という二つの条件を組み合わせたとき、毛包は「今は毛どころじゃない、傷を治そう」と判断する仕組みが働くということだ。
毛包によって肌が再構築

毛と皮膚の関連に注目。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 先行研究との関連 → ポーラ化成工業と理研の研究では、「毛周期」が皮膚深部の再構築に関わることを発見。毛の成長リズムが肌再生を支えているとされた。
- 今回の意義 → ロックフェラー大学の研究は、この考えを補強し、毛包の存在が皮膚の治癒速度に影響する可能性を示した。
- 今後の展望 → 美容医療やスキンケアにおいて、「毛包をどう活かすか」「毛と肌再生の関係をどう利用するか」が重要なテーマになる。
ヒフコNEWSでは2025年9月、ポーラ化成工業と理化学研究所による「毛周期に合わせて皮膚深部の構造そのものが再構築されている」という研究を紹介した。毛が成長するサイクルが、肌の再生に欠かせない再構築のリズムとして働いていると示したものだ。
今回のロックフェラー大学の研究は、まさにこの流れを補強する。
美容医療では、手術や照射治療などの後の「ダウンタイム」「治癒速度」が大きな関心事になる。今回の研究は、毛を生やす毛包が豊富な部位の方が治癒が早い可能性を示している。
美容医療やスキンケアの未来を考えるうえで、「毛をどう扱うか」「毛包をどう活かすか」という視点は今後重要になるかもしれない。
